セキワンローキュー!

りっと

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第四Q その右手が掴むもの

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 いよいよ明日からインターハイ予選が始まる。

 試合前日ということもありチーム練習は軽く流して早めに終わったのだが、雪之丞はボールに触らずにいるのが不安で、いつも通り一人残って個人練習をしていた。

 連続してドリブルからのレイアップシュートを打っていると、

「明日の試合、活躍できそう?」

 いつの間に来ていたのか、紗綾がスポーツドリンクを差し出してくれた。

「おお、サンキュー。つか、『出られそう?』じゃなくて『活躍できそう?』って聞いてくるあたりが紗綾だよな」

 紗綾は笑い「手伝うよ」とパス出しを申し出てくれた。

 雪之丞は明日から、背番号十八番のユニフォームを着て沢高ベンチに座る。

 初めての公式戦を前に緊張と興奮で落ち着きのない雪之丞に対して、背番号八番を背負いスタメンとして試合に出る予定の紗綾は、積み重ねてきた練習に自信を持って普段通りの姿勢を崩さない。その堂々とした姿勢は、雪之丞にとって見習うべきものであった。

 連続でシュートを成功させ、調子は悪くないと自信を持とうとした雪之丞だったが、廉の言葉が頭から離れなかった。

 ドリブルでゴールに接近し、膝を曲げて全身をバネのようにして高く跳び上がった。高い打点から強く叩きつけたパワフルなダンクシュートはネットにボールをくぐらせ、バックボードをゆらゆらと揺らした。

「びっくりした。ナイッシュー。すごい、気合十分だね」

 手を叩く紗綾とは対照的に、雪之丞は煮え切らない気分だった。明日に向けて仕上がりは悪くないはずなのに、どうしても引っかかる点があり集中しきれていないのだ。

「……俺、ダンクなら跳んでしまえば止められることはないと思ってたんだけど……タイミングを合わせられたら完璧にブロックされちまうって教えられてさ。……どうすればいいんだろうな」

 実際廉に指摘を受けて以降は、ゲーム形式の練習等で廉や岡村、神谷にダンクを阻止されることが多くなった。加えて、雪之丞はフェイントを上手くかける技術が足りていないため、シュートモーションがわかりやすいこともブロックのされやすさに輪をかけていた。

 雪之丞一人で色々と対処方法を考え練習をしてきたのだが、今日までに解決策を見い出せなかったのは力不足としか言い様がない。

「……わたしはダンクができないから、上手いアドバイスはできないけど……ウィンドミルって、知ってる?」

 紗綾は聞き慣れない単語を口にした。

「ウィンドミル……? コーヒーの種類か?」

「ううん、違う。ウィンドミルって、日本語に直訳すると『風車』って意味なの。……バスケでいうウィンドミルは、空中に跳び上がった後で、手で掴んだボールを風車みたいに大きく一回転させてリングに叩きこむダンクのことだよ」

 不思議とそのダンクのイメージが容易だった雪之丞は、自分がディフェンスに阻まれそうになった際に右手を回転させ相手を躱す光景を思い浮かべた。

 心臓がどくんと大きな波をうった。

 紗綾の言いたいことはつまり、

「……ウィンドミルなら……ブロックされそうになっても、空中で片手だけで躱せるダンクってことだな?」

 紗綾が頷いたのを見て、雪之丞の体中を血液が熱く流れた。

 描いたイメージをすぐに体現してみたくて、雪之丞はドリブルでリングに向かい左足で踏み切った。そしてそのまま叩きつけるのではなく、右腕をくるりと回し――!

「あっ!?」

 持ち方が粗末だったのか、ボールは雪之丞の手からすっぽ抜けて明後日の方向へ飛んでいってしまった。やはりそう簡単に上手くはいかないが、それでもダンク防止対策への希望が見えたことに喜びを感じた。

「くっそおお、難しいな! 実践でできるかはわかんねえけど、今から練習してみるわ!」

「かなり難易度の高い技らしいから、できなくてもしょうがないよ」

「いや、時間ねえけど、モノにできるようにちょっと本腰入れて特訓するわ! 今日まで教えてくれてありがとな! 明日はお互い頑張ろうぜ!」

 罰と称して練習を見てもらった日々も、今日で一旦区切りがつく。

 現在の時刻は十九時半。補欠の雪之丞はともかく、確実に試合に出る紗綾をこれ以上付き合わせるわけにはいかない。

「なんでもするって言ったのはわたしだから気にしないで。もう少し付き合うよ」

「馬鹿、俺の秘密兵器になるであろうウィンドミルは、一人でこっそり練習してこそ本番で生きるんだよ。ここから先は取材拒否だ。帰ってくれたまえ」

 雪之丞の意図を察したのか、ようやく紗綾は口を閉ざした。

「……わかった、帰るね。でも、今日はどうしても言いたいことがあってここに来たの……ジョー、あのね、わたし……」

「ほんとありがとな。つか俺、いろんな人に感謝しないといけねえな。夏希とかさ、いくら奢っても足りねえくらいだし」

 紗綾の勇気をかき消すような陽気なトーンで、右手でボールをくるくると回しながら雪之丞は口にした。

「……夏希にも、バスケ教えてもらったの……?」

 胸に手を当て、紗綾は細い声で聞いてきた。

「教えてもらったっつうか……バスケのルール覚えるの手伝ってくれたり、大吾のことで落ちてたとき助けてくれたりしてさ。まあ、色々世話になったんだよ」

 照れくさくてなかなか本人には感謝の気持ちは伝えられないけれど。

「……ねえ、ジョーにとって、夏希ってどういう存在?」

 雰囲気は変わっても、雪之丞を見つめる紗綾の真っ直ぐで透き通った瞳は、昔と何一つ変わらないなと思った。

「夏希? ……そうだなー、俺の近くにいてもらわなきゃ困る奴だな。……あ、恥ずかしいから夏希には言うなよ?」

 雪之丞がそう言って笑うと、紗綾は何か言いたそうに唇を開いた。

 しかし言葉は飲み込んだのか、大きな瞳を駆使してただ雪之丞を見つめ、

「……側にいることが、ジョーの恋愛なんだね……ジョーが辛いときに離れていったわたしじゃ、ダメなんだね」

「ん? なんか言ったか?」

「……ううん、なんでもない。インハイ予選が終わっても、いつでも練習に付き合うから。まずは明日、頑張ってね」

「おう! サンキュー! 紗綾も頑張れよ!」

 雪之丞は握り拳を作って胸を叩き、紗綾に向かって突き出した。

「ジョー、それ……!」

 少しだけ寂しそうな表情を見せていた紗綾は、雪之丞の仕草を見るや頬を緩めて、わずかに瞳を揺らした。

 昔四人で決めたサインを紗綾も覚えていてくれたことを、とても嬉しく思った。
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