セキワンローキュー!

りっと

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第四Q その右手が掴むもの

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 翌日。インターハイ予選の組み合わせ抽選会から帰ってきた宇佐美から、初戦相手の発表があった。

「初戦は瑞江みずえ高校だ。昨年から監督が変わってまだ発展途上な印象があるが、どんどん力をつけている学校だ。楽に勝たせてもらえる相手じゃないぞ」

 宇佐美は真剣な表情で部員を見回した。

「……で、瑞江高校に勝利した場合は翌日に二回戦があるわけだが……戦うのはシードとして待ち構える前年度優勝校、洛央高校だ」

 部員たちから一斉に驚愕と動揺の声があがった。二回戦で洛央と当たるなんて、最悪の抽選結果である。

「……騒ぐなよ。勝ち進んでいけばどこかで対戦することになるんだ、少し早いだけだろうが」

 そんな中、顔色一つ変えずに口にする廉に、

「「ちょっと声が出ただけだ! 生意気言ってんじゃねーぞ!」」

 先輩たちを中心に皆で声を揃えて抗議した。インターハイ出場を目標に掲げ、一丸となって厳しい練習に取り組んできた沢高バスケ部は、組み合わせで士気が下がるようなやわな部ではないのだ。

「そうっすよ! 俺の目標は日本一になることっすから! こんなところで負けているようじゃ、話になんないっす!」

 雪之丞が立ち上がると、部員たちはますます盛り上がりをみせた。

「そうだ。お前たちは十分、勝つための練習をしてきたんだ。何も臆することはない。インターハイまでの道のりは容易くないが自分たちの力を信じて、敵には敬意を、チームには愛を持って真摯に戦えば、必ず結果はついてくるはずだ」

 宇佐美は堂々と、部員一人ひとりの目を見てそう断言した。

 自分たちのやってきた練習を信じろという宇佐美の言葉は、今まで多くの時間を練習に費やし、努力を重ねてきた部員たちに自信を与えたに違いない。彼らもまた信頼を寄せた瞳を宇佐美に向けることで、沢高バスケ部は監督も含めてまた一層絆を深めたのだった。

「じゃあ次に、大会でベンチ入りをするメンバーを発表しようと思う」

 宇佐美がそう口にした瞬間、この場に緊張の糸が張り巡らされた。

 皆が固唾を呑む様子が雪之丞にも伝わってくる。勿論、雪之丞自身も鼓動が速くなっているのを感じていた。

 ベンチに入れなければ、試合に出られない。大吾と対戦するためには、十八番以内の背番号を与えられることが絶対条件なのだ。

「背番号四番、多田」

「はい!」

 宇佐美から名前を呼ばれた者は順次前に出て、久美子からユニフォームを渡されていた。

 背番号は四番から十八番までで、ベンチ入りできるのは十五人だ。背番号が欲しくない部員などいない。まだ名前を呼ばれていない部員は真剣な面持ちで宇佐美を見ていた。

 宇佐美の声と、返事をする部員の声。

 皆それだけに耳を傾けながら、自分の名前が呼ばれるのを待っていた。

「十番、遠藤」

 まだ雪之丞の名前は呼ばれない。今までにない緊張感を味わっていた。

「十五番、貞本」

 心臓が早鐘を打つ。

「十七番、笹崎」

 残す番号は、あと一つ。

「十八番……」

 自分の名前が呼ばれることを信じて、雪之丞は息を吸った。
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