セキワンローキュー!

りっと

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第四Q その右手が掴むもの

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 インターハイ予選まで二週間を切った。

 恵まれたことに、雪之丞は現在宇佐美監督の他にも三人のコーチに指導を受けている。

 久美子にはドリブルやレイアップシュートなどバスケの基礎を、紗綾にはパスなど一人ではできない練習を、廉にはバックロールターンをはじめ、様々な個人技術や試合で使えるテクニックを教わる日々を過ごした。

 指導に関しては決して優しくない三人の中でも、廉の指導はとりわけ厳しかった。

「遅えよ! それだとダブドリ取られるぞ!」

「ディフェンスとの最短距離でバウンドさせろって言っただろうが!」

 クールな印象を打ち消すかのように、廉はいつも眉間に皺を寄せて雪之丞を怒鳴り散らした。

 しかし廉の指導の特徴は口が悪いことだけではなかった。廉は口頭で理論立てて説明する久美子や紗綾とは違い、言葉よりプレーで指導するタイプのコーチだったのだ。

 実際に自分がやってみせてから、雪之丞にもやらせてみる。

 雪之丞が失敗すれば厳しい言葉で糾弾し、できるまで何度も体に叩き込ませる。

 初心者かつ性格が単純な雪之丞にとって、上手い人の真似をするという覚え方は自分でも性に合っているように思った。

 指導の中で、雪之丞の人格そのものを否定するような廉の物言いに腹が立つこともあった。しかし手本として見せてくれるプレーはどれも正確で美しく、それだけで怒りを意欲に昇華できるほどの説得力があったのだ。

 四人ものコーチが熱の入った指導をしてくれる。絶対に無駄にしたくないと、あの日多田に言われた言葉通りまさに死に物狂いでついていく日々が続いた。

 その結果、インターハイ予選に近づくにつれ、目に見える形で雪之丞は上達していった。

 上手くなってくると、バスケがより楽しくなった。できなかったプレーができるようになるのは大きな快感だった。

 誰よりも下手なくせに誰よりも熱心に練習に取り組む雪之丞に感化されるかのように、部員たちは皆、己の実力を高めるために真剣に部活動に励んだ。雪之丞の存在が部にとってプラスになるなど、入部当初は誰も想像できなかったことだろう。

 インターハイ予選を前に、沢高バスケ部の気持ちは一丸となっていた。

                    ◇

 インターハイ予選まで残り一週間。

 全体練習の合間、一人でストレッチをしている雪之丞の元に久美子がやってきた。

「ねえ鳴海、あんたいつから廉と仲良くなったの? 毎日一緒に練習してるみたいだけど」

「え? 仲良くなんかないっすよ! 鬼のようにしごかれてるっす」

「それが信じられないのよ! あの廉が、誰かの面倒を見るなんて……」

 そう言って久美子は廉を見て、感慨深そうに息を吐いた。廉はいつも通りファンクラブの歓声を浴びながら淡々とシュート練習をしていた。

「いやあ、ちょっとまあ色々ありまして。義理で教えてくれてるんすよ」

「それだけ? ……ねえ、あんた実は結構期待されているんじゃない?」

「そうなら嬉しいんすけどね! あの廉先輩っすよ? ないっしょ!」

 雪之丞が笑って否定すると、久美子は「そうかしら……」と呟き不満そうに唇を尖らせた。二人の視線を感じたのか、廉はシュート練習を一旦止めて珍しく話しかけてきた。

「おい、見てんじゃねえ。そんな暇あったらシュートの一本でも打てよ」

「見てないっす。廉先輩の後ろの壁を見ていただけっす」

「くだらねえこと言いやがって……お前には時間がないって自覚が、足りてないみたいだな」

 廉はそう言って、フリースローラインまで移動した。

「わからせてやるよ。軽い実践だ、俺を抜いてダンクを決めてみろ」

 突然の命令にぽかんとしたものの、廉は意味のないことはやらない。雪之丞は短く返事をして、構えを取った廉と対峙した。

 高さだけは雪之丞に分がある。ダンクにまで持ち込めることができれば、点を決められると思った。

 ドリブルしてゴールに向かうと、予想に反してあっさりと廉を抜き去ることに成功した。廉は手を抜いているようだが、一体どういうつもりなのだろう? 俺が跳んでしまえば、もう阻むことはできないのに。

 雪之丞は成功を確信して、ダンクに向けて踏み切った。

 しかし、雪之丞の考えは甘かった。俊敏なフットワークで即座に間を詰めた廉はタイミングを合わせて雪之丞の正面に跳び、雪之丞が腕を振り下ろすその瞬間を狙ってボールを弾き飛ばした。

 着地した雪之丞は呆然とした。決められる自信があった分、あっさりとブロックされてしまったことが非常にショックだったのだ。

「……タイミングさえ掴めれば、ダンクは割と簡単に阻止できる。特にワンハンドはツーハンドよりパワーが劣る分、力技で押し込むことは難しい。ダンクに頼る頭は捨てろ」

「……ウス」

 ダンクに頼るつもりはなかったものの、武器として考えていたものが否定されたことによる衝撃と動揺は隠しきれなかった。
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