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16話 粘り
しおりを挟む今は、平麻沙美と付き合っているが、一時は夢に出てきた茶色い髪の長い女、に惹かれていた。それも正夢だった。そんなことあるのか、と思ったがどうやらあるようだ。
俺は今、病院にいる。定期の受診日だ。玄関のそばの椅子に座っていると、若い女が入って来た。それも、茶色く髪の長い。
まさか! と思った。夢に出てきた女か? と。俺はさりげなく彼女の前を通り過ぎる際に顔を見た。夢の中の女の顔は微かにしか覚えていない。それでも、その女の顔をみた時、あ! と思った。見たことがある。
でも、急に「俺の夢に出てきた人だよね?」なんて言ったらそれこそ、変なおじさんだと思われてしまう。だが、次逢うチャンスはいつになるかわからない。だから、勇気を出して話し掛けた。
「あのう、すみません。俺とどこかで逢ったことありませんか?」
まるで、ナンパをしているようだ。女はクスクス笑っていた。
「決してナンパしてるわけじゃないので」
すると女はこちらを向き、
「でも、どこかで見たことありますね」
俺は嬉しくなり、
「だよねぇ。俺は君のこと夢の中で見たんだ」
「それはずいぶんロマンティックな話ですね」
言いながら笑っている。
「君、やっぱり俺がナンパしてると思ってない?」
「それ以外に何がありますか?」
思わず苦笑いを浮かべてしまった。初対面とは思えないほどの対応を彼女はしている。俺はあることを企んだ。それは、受付でこの女性が名前を呼ばれるのを待とう、ということ。
「失礼だったらごめんね」
と、伝えた。
「いえ、いいですけど」
ぶっきらぼうな言い方だった。怒らせてしまったか。失敗した。麻沙美とは交際しているからこの女をどうにかしようとは思っていないけれど、奇跡的に出逢えたから友だちくらいにはなりたかった。
怒らせてしまったかもしれない彼女の名前が知りたくて、俺は女の行動を窺っていた。まるでストーカーのようだなと思った。なぜ、こんなにこの女のことが気になるのだ。今、好きなのは麻沙美だし、付き合っているのも麻沙美だ。それなのに……。
俺は粘ってあの女が受付に来るのを待った。そして俺は会計を済ませて、調剤薬局で薬をもらい、再度病院に戻った。ちょうど、例の女が会計の前の椅子に座っていた。心の中でガッツポーズをした。急ぎ目に院内に入って怪しまれないように例の女から離れて座った。すると、「藤川さん、藤川怜さん」と事務の職員は呼んだ。
「ふじかわれい」というのか。やった、とうとう名前がわかった。でも、名前がわかったからどうなるというのだ。今度、病院で会ったとき声をかけてみよう。れいさんも病気がある、ということがわかったし。なんだか、わくわくしてきた。
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