女だからって舐めないで

街での小事件

　週末、学院の生徒たちは課題調査のために街へ出ることになった。
　魔術の触媒や記録を扱う店を見て回り、知識を深めるのが目的だ。

「ほら、お嬢様。はぐれないで♡」
「べ、別に子供じゃないんだから！」

　引率として当然のように同行してきたのは、やっぱりサフィール先生。
　人混みの中で私の腕を掴んでくるのが鬱陶しくて、思わず振り払ってしまった。

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　そんなとき──悲鳴が上がった。

「ひぃっ、スリだ！」
　通りの向こうで、商人が叫ぶ。
　見ると、フードの少年が袋を抱えて駆け出していた。

「待ちなさい！」
　考えるより先に、私は飛び出していた。
　魔力で足を強化し、群衆を抜けて少年を追う。

「お嬢様、また無茶を──！」
　背後から先生の声が響く。

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　路地裏に飛び込んだ瞬間、少年が振り返った。
　手には短剣。目は怯えと必死さでぎらついている。

「っ……！」
　躊躇している暇はない。
　私は剣を抜き、構えた。

　だが次の瞬間──足元の石畳が魔法で凍りつき、少年の足がすくむ。
　背後から現れたのは、案の定サフィール先生だった。

「んまぁ♡　元気なボクちゃんねぇ。でも、犯罪はだめよん」
　ひらりとローブを翻し、軽く杖を振る。
　瞬く間に少年は氷の縄で拘束された。

「……先生」
　私は剣を下ろした。

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　その後、商人に盗まれた品は返され、少年は衛兵に引き渡された。
　どうやら家族を養うために追い詰められていたらしい。
　事情を聞いた私の胸はざわついた。

「助けられなきゃよかった、って顔してるわねぇ」
　帰り道、先生がからかうように笑った。

「そ、そんなこと……！」
　否定しかけて、言葉が詰まる。
　確かに私は少年に同情してしまった。
　でも、だからといって盗みを許すわけにはいかない。

　そんな迷いを見透かすように、先生はぽつりと言った。
「優しさも強さも、持っていていいのよ。両立できるようになれば、あなたはもっと輝くわ♡」

　歩きながら、不意に胸が熱くなった。
　悔しいけれど。
先生の言葉に胸動かされるなんて。
本当に不本意だけど、なんだか胸の熱さが心地良かった。