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選ばなければならない道
しおりを挟むただの伯爵家の娘。女だから跡継ぎにもなれない──そう思っていた自分が、狙われる理由を抱えているなんて。
あまりにも突然で理解が追いつかない。
先生に聞いても曖昧な返事しか返ってこない。
その癖、思わせぶりなことを言われる。
「あなたに流れる血、受け継がれているもの。
血脈♡それはとても価値があるものなのよ」
楽しそうに、そして大事なもののように先生は言ってくるけれども、全く理解できない。
だけど、これだけは自分の気持ちだけはわかる。
急に守られる守るべきものと言われても、私には納得できない。
私は、ただ守られるだけの存在になるのは嫌。
守られるだけではなく、自分で人生を切り開く。
「先生、レオン。……もっと鍛えてほしい」
訓練場でそう告げると、二人は一瞬だけ驚いた顔をした。
けれど次の瞬間、同時に頷く。
⸻
「いいわ♡ じゃあ、わたし流の“華麗なる魔術”を叩き込んで差し上げる」
先生は微笑みながら、杖をくるりと回す。
「俺は実戦を叩き込む。体力も判断力も、磨かないと通用しない」
レオンは真剣な眼差しで木剣を差し出してきた。
まただ。
また、このパターンに、私は振り回される。
二人の教育方針は正反対で、私はその真ん中に立たされる。
困ってしまう。
でも、2人の要求することに応えられたら、私はきっと強くなれる。
⸻
「リディア、まずは魔力制御よ。舞うように──」
「いや、避けろ! 頭を下げろ!」
先生の優雅な指導と、レオンの実直な檄が飛び交う。
私は汗だくになりながら杖と木剣を同時に操り、転んでは立ち上がった。
「はぁ、はぁ……!」
体は悲鳴をあげる。
けれど胸の奥は、不思議と燃えていた。
(私が、私であるために──やるしかない!)
⸻
訓練が終わり、夕暮れの風が吹き抜ける。
私は芝に倒れ込み、空を見上げた。
「よく頑張ったな」
隣に座り込んだレオンが水を差し出す。
「少しずつ、確かに強くなってる」
その真っ直ぐな言葉に、胸が熱くなる。
「ふふ♡ そうね。今日のお嬢様は見惚れるほどだったわ」
先生が扇子を開き、笑みを浮かべる。
「……わたしの隣に並ぶに相応しい」
不意に向けられたその眼差しに、心臓が跳ねた。
⸻
その夜。
学院の塔の屋根の上で、黒衣の影が不気味に囁いた。
「血脈は確かに目覚めつつある……」
「次は──奪う時だ」
月明かりがその姿を照らすと同時に、影は夜に溶けて消えた。
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