女だからって舐めないで

佐藤なつ

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学院を揺らす影

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 それは、突然だった。
 学院全体を覆う結界が、耳障りな音を立てて揺らいだのだ。

「っ……これは!」
 私は自室の窓から空を見上げた。
 結界にひび割れのような光が走り、闇の中で不気味に脈動している。
すぐに家を飛び出し、学院に向かう。
すでに人が集まり始めていた。
どこからともなく
「襲撃だ!」
と、叫ぶ声。

 廊下から、校舎の裏から声が響く。
学院がざわめき、混乱が広がっていく。



 訓練場に駆けつけると、先生とレオンが既に待っていた。
「遅かったわね、お嬢様♡」
 先生は軽口を叩くものの、表情は張りつめていた。

「リディア、ここからは実戦だ。気を抜くな」
 レオンの声は短く鋭い。
 胸の奥が震える。けれど、足は止まらなかった。



 やがて──闇が破れた。
 あの夜にも見た影の群れが、結界の裂け目から次々と現れる。
 呻き声のような低い音を響かせ、こちらへとにじり寄ってくる。

「来たわね……!」
 先生が扇子を広げ、魔法陣を展開する。
「リディア、あなたも構えなさい」

「う、うん……!」
 杖を握る手に力を込め、詠唱を始める。



 最初の一体が襲いかかってきた瞬間、レオンが前に出て剣で斬り裂いた。
 その隙を狙って、もう一体が背後から迫る。

「リディア!」
 先生の声に反応し、私は咄嗟に光の矢を放った。

 矢は影の胸を貫き、黒煙となって消える。

「……や、やった……!」
 胸が熱くなる。



 だがすぐに、十体以上の影が一斉に押し寄せてきた。
 数が違う。圧倒的に多い。

「ちょっと♡ これはさすがにやっかいね」
 先生が口元を引き締める。

「リディア、退くんだ!」
 レオンが叫ぶ。

 でも私は一歩も引かなかった。
(逃げたら、また“守られるだけ”で終わる……!)



 私は魔力を全身に巡らせ、杖を掲げた。
「──《光の障壁》!」

 影たちが襲いかかった瞬間、まばゆい光の壁が展開し、群れを押し返す。
 眩しさに目を細めながらも、私は叫んだ。

「今のうちに!」

 レオンと先生が同時に動き、光の壁を突き破って斬撃と魔法が炸裂した。
 闇が弾け飛び、影の群れは霧散していく。



 戦いが終わった瞬間、膝から力が抜けて地面に座り込む。
 けれど胸は震えていた。恐怖ではなく、高揚で。

「リディア……今の障壁……」
 レオンが目を見開き、驚きと誇りを滲ませた声を出す。

 先生もまた、息をつきながら微笑んだ。
「ふふ♡ ようやく“わたしの教え子”らしくなったじゃない」

 褒められているのに、なぜか涙が出そうになった。



 だが、その時。
 夜空に響いたのは、不気味な笑い声だった。

「フフ……やはり目覚めつつあるな、血脈の力……」

 学院を見下ろす塔の上に、仮面をつけた人影が立っていた。
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