女だからって舐めないで

佐藤なつ

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隣にいるのは誰

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 その日、先生は急用で学院を離れていた。
 だから夕刻の訓練は、レオンと二人きりだった。

「今日は剣だけじゃなく、体の使い方を徹底する」
 レオンはそう言って、私の腕を取り、姿勢を直す。
 硬い手のひらの感触に、心臓が跳ねた。

「ち、近い……」
「意識するな。力を抜け」
 真剣な顔のまま、彼は私の肩越しに手を添える。
 その距離に、息が苦しくなった。



 訓練が終わる頃には、汗で髪が張りつき、足も重くなっていた。
 レオンはためらいなく上着を脱ぎ、自分の水筒を差し出す。

「飲め」
「い、いいの? これ、レオンの……」
「構わない。お前が倒れる方が困る」

 口をつけた瞬間、胸がじんと熱くなる。
 ただの水なのに、妙に甘く感じた。



「リディア」
 夕焼けに染まる訓練場で、彼はふいに名前を呼んだ。

「俺は……お前に無茶をしてほしくない。
 血脈のことも、敵のことも……正直怖い。
 だけど、それ以上に……お前を失いたくないんだ」

 真っ直ぐな言葉が胸に刺さった。
 答えようとしたその瞬間──



 風に揺れた木陰が、先生の姿を思い出させる。
 あの夜に囁かれた言葉。
 守護者としてではなく、“あなた自身に惹かれてしまった”という告白。

(先生も、私を……)

 頭の中で二人の声が交錯し、心臓が締めつけられる。
 誰の言葉を信じればいいのか、わからない。



「リディア……?」
 レオンの声に、はっと顔を上げる。
 彼は不安そうにこちらを見つめていた。

「ごめん……今は、うまく答えられない」

 それだけを告げると、私は夕焼けの空を見上げた。
 胸の奥で渦巻く思いは、まだ言葉にならなかった。
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