女だからって舐めないで

佐藤なつ

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守護者の力

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 闇の鎖が地を這い、無数の棘が突き出した。
 私は必死に風の障壁を張るが、圧倒的な魔力に押し潰されそうになる。

「くっ……!」
 額から汗が滴り落ちる。
 血脈の力が反応しているのに、まだ制御できない。

「リディア、下がれ!」
 レオンの叫びと同時に剣が閃くが、闇の鞭に弾かれた。



「まだ力を扱いきれていないようだな」
 仮面の男の声は冷酷で、余裕に満ちていた。
 黒い魔力が伸び、私の体を絡め取ろうと迫る。

(やられる……!)

 その瞬間、軽やかな扇子の音が響いた。

「お嬢様に触れるなんて、百年早いのよ♡」



 先生が一歩前に出る。
 いつもの柔らかな仕草は消え、紅い瞳に鋭い光が宿っていた。
 空気が震え、地を覆う魔力が一瞬で塗り替えられる。

「……っ、この力……!」
 仮面の男の声がかすかに揺れた。

 次の瞬間、扇子から迸る光が闇を切り裂き、鎖を粉砕する。
 轟音が夜を揺らし、影が一歩退いた。



 私は呆然と立ち尽くした。
 先生の周囲に溢れる魔力は、私と同じ血脈の波動を帯びていた。

(先生も……王家の血脈に関わる存在……?
 いや、違う……守護するための力……!)



「リディア」
 振り返った先生の横顔は、今まで見たことのないほど真剣だった。
「わたしがここにいる理由を──いつか話すわ。
 だから今は、生き延びなさい」

 その声に胸を突かれ、思わず息を呑む。



 仮面の男は闇をまとい、退却の気配を見せた。
「……なるほど。守護者の血脈……まだ残っていたか。
 だが、いずれ力は奪う」

 そう告げて姿を消す。

 残された中庭に、風の余韻と私の震える息だけが響いていた。



(先生が……守護者の血脈……
 それなら、どうして私にこんなに……)

 胸に渦巻く疑問と、言葉にできない感情。
 戦いの傷跡よりも、その事実の方が重くのしかかった。
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