女だからって舐めないで

佐藤なつ

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すれ違う思い

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学院の中庭は、結界の修復で慌ただしくなっていた。
 倒壊した石畳、砕け散った魔術具。
 その中央で、私はまだ鼓動の速さを抑えられずにいた。

 あの時、先生が放った力。
 王家の血脈と共鳴するような、けれど違う響きを持った力。



「先生……」
 気づけば、私は声をかけていた。

 先生は扇子で口元を隠しながら、いつものようににこりと微笑む。
「なぁに、お嬢様♡」

「さっきの力……あれは、一体──」

 問いかけに、先生は一瞬だけ目を伏せた。
 そして、軽やかにかわす。

「秘密よ。今のあなたには、まだ重すぎるから」



 その笑顔は柔らかいのに、どこか突き放すようだった。
 胸の奥に小さな痛みが走る。

(……どうして教えてくれないの?
 私はもう、子どもじゃないのに)



「リディア」
 低く呼ぶ声に振り向くと、レオンが険しい顔で立っていた。

「危険すぎる。お前ひとりで突っ込むなと言ったはずだ」

「でも……!」
「でもじゃない!」
 普段冷静な彼が珍しく声を荒げる。

「俺は……お前が傷つくのを見たくないんだ。
 なのに、俺には守る力が足りない……」

 悔しげに唇を噛む姿に、胸が締めつけられる。



 レオンは拳を握りしめ、絞り出すように言った。
「……あの教師にだけは、負けたくない」

 その眼差しは、戦いへの意地と同時に、私をめぐる感情の証のようだった。



 私の中で、二つの感情が渦を巻く。
 からかうようでいて誰よりも鋭く見守ってくれる先生。
 真っ直ぐに不器用なほどの思いをぶつけてくるレオン。

(私は……どちらを信じればいいの?)

 答えを出せないまま、夜が更けていった。
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