王家契約の鍵は、婚約破棄された令嬢でした

佐藤なつ

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モフモフ、無双する


羽が後ろでパタパタパタパタしている。
「かわっ・・。」

「これが・・災いを取り除く力を与えてくれたの?」
ふよふよふよ。
白い何かが寄ってくる。
ロゼリアの顔の真ん前に。
じっと見つめ合って。
それから、ロゼリアの胸に飛び込んだ。
「ちょっ・・あはははっはは!くすぐったい。」

モフモフが胸にめり込んでくる。
毛並みが首筋に触れて擽ってくる。

アルヴィンが雑に掴んで引き離した。
「もふっ?」
きょとんとした顔でアルヴィンを見る。
「ダメでしょ!そんな雑な持ち方。」
「ロゼ!そんな簡単に触らせるな!」
毛に埋もれた顔の下の方からパカッと口が現れ、二本の牙が。
「いでっ!」
アルヴィンの手を噛んだ。
ふ~よふよと離れて今度はロゼリアの肩に止まった。
「おまっ!」
アルヴィンがギッと睨むと。
「認識完了・・鍵として認識。」
どこからともなく無機質な声が響いた。
実際は頭の中で直接届けられたのかもしれない。
「どんな仕組みなんだ・・いや、これが、高度な魔道生命体?」
「我は王家契約守護獣、第一号。」
「第一号?!」
「後続は志願者無し。」
「いらん情報出すな!」
アルヴィンがツッコんだ。

そんなくだらないやり取りで時間を浪費したせいか。
それとも隙を見せたせいなのか。

後ろから黒い刃が降りかかってきた。

間一髪で避ける。
黒装束の者達が、入り口を塞ぐように立っている。

「言い伝え通り、守護獣がいたとは。」

中心の男が感嘆したように言う。

アルヴィンが小声で
「ロゼ、俺の後ろにいろ。」
囁いた。

だが、ロゼリアの肩からもふもふが飛び立った。
「戦闘モード。」

無機質な声と同時に、ふわふわの身体が発光。

次の瞬間。

どごぉおおおおんんん。
衝撃波と衝撃音が襲った。

遺跡も破壊され、黒装束達がまとめて吹っ飛んだ。
砂煙が凄い。

そして、あったはずのものが何もなくなっている。

いや、アルヴィン・ロゼリア・モフモフ以外消えている。

「な・・なに?今の?」
「きゅるん・・。」
モフモフが可愛く鳴いた。

あざと可愛い。
「い、いや、何かやったでしょ?!」
知らんぷりで飛んでいくモフモフ。
飛んでいった先で、また閃光。
飛び散る人たち。

「つよっ。・・・これは、災い、消し去っちゃうわね。」
「そうだ・・な。」
言葉を絞り出すようにアルヴィンは答えた。
そのあとも、ふよふよ。閃光。飛び散る人たちの光景を数回見る羽目になった。

「アル兄。私達・・・いらなかったね。」
「そうだね。」
ふよふよふよふよ。
何事もなかったように帰ってきてロゼリアの肩に止まった。

そして、静かになってしまった。

こくりこくりと揺れ始め。
パタリと落ちた。
慌ててロゼリアが抱き留める。
見てみると寝ていた。

「守護獣ってこんな感じなの?力を使ったらすぐ寝ちゃうのかな?」
アルヴィンが深く深く息を吐く。
「わからんが守らないといけない理由はわかった。祠の中に隠したい理由も。」
「でも、もう隠れてないよ。」
何度も派手に光り、轟音を立てた。
そして、色んな所が崩れている。
遺跡のあった岩などもう欠片もない。

ロゼリアがズバリと言い切る。
「言うな・・・。現実から目を背けたい。」
「そういう訳にもいかないでしょ・・。」

すぴすぴと小さな鼻を鳴らして寝込む、モフモフを呆然としたまま二人は見ていた。

時折、砂埃だけが二人を撫でていった。


砂煙がゆっくりと晴れていき、吹き飛ばされた黒装束の男達は地面に転がり、ところどころに穴が空いている。

何度見ても、現実は変わらない。

ぐしゃぐしゃと髪をかきむしる。
その時、
「殿下!」
遠方に砂埃が上がっている。
それは段々と寄ってきた。
王家の騎士団の制服が見えてきた。

アルヴィンの前に整列した
「転移の魔力反応を追ってきた。」
と、報告した。
アルヴィンの命令で彼らは倒れた黒装束の男達を縄で拘束していく。
それから順番に覆面を外した。

大多数は顔を知らない者達だったが、中にはディアンの従者やアルノー家で見かけた者達もいた。
そして一番遠くの集団の中から他でもないアルノー伯が見つかった。
アルヴィンが今更ながらロゼリアの視界を遮るように前に立つ。

「連れていけ。覆面は後で外せ。」
そんな命令をして。

もしかしてあの中にディアン様もいたのだろうか。

そんな気持ちがわき上がる。
でも、ロゼリアの気持ちはそれほど揺らがなかった。


「よし!行くぞ!」
アルヴィンがロゼリアの手をひいた。
やけに明るく。

「心配は無くなったからエルドの所に連れていってやろう。」
後の仕事は騎士達に任せて歩き出す。

グイグイとロゼリアの手を引いて歩くアルヴィン。
もうロゼリアは小さな子供ではないというのに。
アルヴィンはいつだって変わらない。
不器用な優しさが、なんだかくすぐったくなった。
その二人の様子を、生暖かい目で騎士達が見ているなんて二人は全く気づいていなかった。


救護院に行くと、父はベッドの上で本を読んでいた。
危篤と聞いていたのに全然違う。

「全然、違うじゃない。」
詰め寄ると、アルヴィンがポリポリと頬をかいた。
それでガバリと頭を下げた。

「ロゼリアに届ける手紙を読んでいるヤツがいるっぽくて、わざと違う情報を流したんだ。」
「え! ひどっ!!私がどんだけ心配したか!」

エルドが
「父さんがそうしようって言ったんだ。ロゼなら気づくだろうって言って・・・だが、気づかなかったみたいだなぁ。」
呆れたように言った。
「えっ・・そうなの。」
肝心の父にそんな事を言われて絶句してしまう。

「色々ヒントはあったのに。恋は盲目とはよく言ったものだ。全く目が曇ってしまって。」
更にそんな風に言われて口を尖らせてしまう。

「まぁ、こんな事になってしまったのだから。ちゃんと婚約破棄の書類を整えよう。」
そう。一方的に通達されただけでエルドは署名していない。
だから、まだ成立はしていないのだ。


「重症ではないが、足をやってしまって動けないからね。アルヴィン王弟殿下・・・お願いします。」
改めて父が頭を下げる。
アルヴィンが力強く頷いた。
「任せておけ。小さいときからずっと守ってきたんだ。これ以上他のヤツに傷つけさせない。」

二人は見つめ合っている。
ロゼリアは。
「なんか、大げさね。」
なんて言って肩を竦めた。

途端、二人の視線がロゼリアに向けられる。

「我が娘ながら・・・申し訳ないです。」
「いや、わかっているから、いいんだ。」
途端に謝ったり、慰め合ったり。
空気が変わってロゼリアは首を傾げるしかなかった。

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