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8話
しおりを挟む蓮の寝室に入ると,蓮はさっきより苦しそう
に唸っている。汗もたくさんかき、死ぬんじゃないかと不安に思い、大丈夫??と声をかけた。すると蓮はふにゃりと笑い、
「花」
と今まで聞いたことのない、甘くて優しい声で俺に話しかけた。俺の心臓は跳ね上がる。久しぶりに笑いかけてもらえたのが嬉しくてか、その笑顔を向けられているのでは俺じゃなくて悲しいのか、俺自身もわからなかった。でも、今心寂しい蓮には花が必要なんだ。俺じゃない、花が。なら、花になろう。それにその方が俺自身も蓮に素直になれる。
「.....そうだよ,花だよ。おじや作ったけど,食べる??」
「……花の手料理…、嬉しい……食べる」
「よかった,はいスプーン」
「…ねぇ,花が食べさせて…」
え
心臓が口から出るかと思った。ずっとドキドキしてんのにそんなことしたら俺が死んじゃう……
流石に断ろうとするが、蓮は子犬のような目でこちらを見ている。
「……ぅん,分かった…」
「…やった」
見るからに嬉しそうな顔。
一口ずつ蓮の口へとスプーンを運ぶ。食べる姿までもがかっこよくて結局食べ終わるまで心臓が鳴り止むことはなかった。
食べ終わると,少し落ち着いたのか蓮は眠ってしまった。
蓮の寝顔を見ながら、もうこんなに幸せな時間はないだろうな……蓮には悪いけど、もうちょっとだけここにいさせて、蓮が起きる頃にはちゃんといつもの俺に戻るから、まだ花でいさせて
と強く蓮の手を握り、そっと蓮の頬にキスをした。すると、インターホンが鳴り誰かと見ると花だった。補習を終えて急いで来たのだろう。すごく息があがっている。
『.....やっぱり,神様は許してくれないか...』
なんて信じてもいない神様を思い、ドアを開ける。
本物の花を迎え、偽物の俺は帰るのだ。
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