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閑話 暑い日はなにもしない

暑い日はなにもしない

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 縁側にスイカ、絵に描いたような夏だな、とヨミは思う。

「スイカ食べよう」
「今日、曇りだけど」

 母の申し出に、ヨミは窓の外を見る。縁側でスイカといえば、青空のイラストが頭に浮かぶ。今日は灰色の雲が空を覆っていた。

「だからいいんじゃない、暑くないから。ほら行った行った」

 母は二切れのスイカを持って、ヨミは麦茶を持って、縁側に並んだ。湿気を含んだ雨の匂いがした。庭の桜の木から蝉の声が降ってくる。飛んでこないでくださいね、と念じながらスイカをかじる。夏を凝縮した味だった。

「あ、天使の梯子」

 雲が流れて小さな青空がのぞき、太陽の光が注ぐ。

「ああいうの見ると、天国っていいところなんだろうなって思うね」
「あんた、親より先に死なないでよ」
「はいはい、わかってます」
「もしもヨミが死ぬときは、わたしを道連れにしなさいね。あとお父さんも。残されたらお父さん、すねそうだし」
「え、そういう話?」

 長生きしろ、じゃないのか。道連れって、思ったよりバイオレンスだ。

「ヨミ、射的得意だったでしょ。こう、早撃ちで、ばんばんって、ね」
「射的は好きだけど、銃刀法違反で捕まっちゃう。あ、スイカの種飲んじゃった」
「お腹から芽が出るね。いいじゃない、自家栽培よ、自家栽培」
「いやだよ。お母さんさっきから発想がバイオレンス」
「庭、そろそろ手入れしないとねえ」

 無視された。

 庭はこの夏、雑草が猛威を奮っていた。たしかに手入れしないと駄目かもしれない。母と目が合い――、

「ヨミ、よろしく」
「お母さん、頑張って」

 同時に言った。しばし見つめあって、

「スイカおいしい」
「うん、おいしい」

 会話をなかったことにする。

 草むしりは、また今度。

「おいしー」
「おいしー」

 ただ、ダラダラとスイカを食べる。

 今日は、そういう日。
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