あやかし古民家暮らし-ゆるっとカップル、田舎で生きなおしてみる-

橘花やよい

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桜餅と花の精

(十一)

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 思えば、彼女は離れていても穂乃花をずっと守ってくれていた。彼女からもらった鈴は、何度も穂乃花を雪斗のもとに導いてくれたじゃないか。恨まれているかもなんて、それこそ優しい彼女に失礼だったかもしれない。

 穂乃花は泣きながら笑っていた。
 小心者すぎるんだ、自分は。

 なんだ。なんだ。なんだよ、もう。

「――和菓子、持ってきたの」

 穂乃花が呟く。

「友だちに教えてもらって、作ってみたんだ。食べる? 桜ちゃん、甘いもの好きだったでしょ」

 穂乃花は、鞄の中から桜餅の入った小箱を取り出した。童女がすとんと横に座ってのぞき込む。待てをしている子犬のようだった。

 と、気づく。

「親指ちゃん……! なんでいるの!」

 思わず叫ぶと、桜の童女はびくっとした。鞄の中から、ひょっこり親指少女が現れたのだ。よじよじと出てきて、穂乃花と童女にぺこりと頭を下げる。

「心配してついてきてくれたの? ありがとう……、びっくりしたけど。いるならいるって言ってよ」

 親指少女は困ったような顔で笑う。穂乃花は少女を自分の肩に乗せた。愛されてるなあ、恵まれてるなあ自分……、なんてまた泣きたくなってしまう。

「どうぞ」

 ごまかすように、小箱を差し出す。朱里と雪斗と、一緒につくったお菓子。形はすこし不恰好だけど、きらきらして見える。桜の童女がひとつとって、穂乃花は親指少女に半分にした桜餅をわたし、もう半分を自分用にする。並んで、ひとくち、みんなで食べた。

「……おいしい」

 童女も小さな微笑みを浮かべた。

「昔も、一緒に食べたね、お菓子」

 そうだねと頷く童女の頭上で、季節外れに咲く桜。やっぱりここの桜が一番好きだ。花見を素直に楽しいと思えるのも、子どものとき以来だった。

 こんなに簡単なことだったのだ。いや、穂乃花にとってはとても大変な決意をしてここまで来たのだけど、振り返ってみると拍子抜けしてしまうくらい簡単なことに思えた。そんなもんかあ、と笑ってしまう。

「桜ちゃんの鈴に、何回も助けてもらったんだ」

 桜餅がなくなったころに思い出して言ってみた。

「あの鈴のおかげで私、いつも迷子にならずに済んでるんだよ。今は雪斗さんに勝手にあげちゃったんだけど……。あ、いや、あげたというか、預けたというか……」

 会えないならせめてこれだけは、とそんな風にわたされた鈴。ずっと穂乃花の帰り道を示してくれていた。でも優しかった隣人を傷つけたことや、母のことを思い出してしまうから、苦しくなって捨ててしまおうかと思ったことも何度もあった。捨てるくらいなら預かるよ、と雪斗が言ってくれたのだ。

「雪斗さんっていうのはね、私の大事な人で――」

 言いかけて、はっとして口をつぐむ。親指少女がなんだか楽しそうに穂乃花を見ていた。恋バナは人間も隣人も好き、ということだろう。

「あー、えっと……」

 なんだか恥ずかしくなって、苦笑する。でも親指少女も桜の童女も、「続きを話せ」とせがむような視線を送ってくる。穂乃花は渋々話し始めた。
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