あやかし古民家暮らし-ゆるっとカップル、田舎で生きなおしてみる-

橘花やよい

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宴はにぎやかに

(二)

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 すっかり世間が夜の色に包まれるころ、台所でせっせと料理していると、庭から物音がした。見に行くと、龍神ファミリーが勢ぞろい。穂乃花の姿を見るや、能面女性が突進してきた。相変わらず細見なのに力強い。

「うわっ、なに、能面さん……、あ」

 能面女性の手には見覚えのある白い衣。ぐいっと押し付けられて、穂乃花は目を瞬いた。

「これ、あのとき着せてもらった白無垢だよね」

 こくこくと頷かれる。穂乃花が龍神の屋敷に誘拐されたときに着せられた、あれだ。

「穂乃花さんー、龍神さまが来たの? わ、なにそれ」

 遅れてやってきた雪斗が不思議そうな顔をする。穂乃花は居間に行って、白無垢を広げてみせた。

「えっと、龍神さまたちから、プレゼント……かな?」

 頷く龍神ファミリー。中でも能面女性と親指少女は誇らしそうだ。まじまじと衣装を見て、穂乃花はあれと首を傾げる。

「なんか、前より豪華になってない?」

 金糸で美しい花模様が刺繡されている。これは前にはなかったはずだが……。よくぞ聞いてくれましたとばかりに、女子ふたりが懐から針を取り出して穂乃花に見せつけた。親指少女はドヤ顔だ。きっと能面女性も能面の下では同じような顔だろう。

「ふたりが刺繡したの? わ、すごい。雪斗さん、これ親指ちゃんと能面さんが作ってくれたみたいです」
「そうなんだ。ありがとうございます、ふたりとも。すごいな、こんなきれいにできるんだ。職人顔負けだね」

 雪斗と彼女たちの目線はあわないけれど、どちらも嬉しそうだ。と、そこで人間バージョンの龍神が穂乃花と雪斗の頭を撫でた。ぽんぽん、と幼子のような扱いをされて、穂乃花は雪斗と顔を見合わせる。

「なんか、めちゃくちゃご利益ありそうですね」
「将来安泰だ」

 ありがたや、とふたりで龍神を拝んだ。龍神も満足そうに頷く。

「穂乃花さん、雪斗さんー! 来ましたよー!」

 玄関からバタバタと音がする。朱里ご自慢の和菓子ケーキを持って、和菓子屋親子再来だ。穂乃花と雪斗は慌てて料理の仕上げをして、居間に運び込んだ。朱里と優はパーティーグッズまで持ってきたようで部屋の飾り付けをはじめ、和真は料理運びを手伝ってくれた。

 ちらし寿司に、フライドチキン、サーモンのマリネ、ポテトサラダ……と、思いつく限り作った料理を並べる頃に、ふわっと穂乃花の頬をくすぐるしっぽが。

「狐さん! あなたも来たの?」

 ふわりふわりと穂乃花を撫でて、狐は龍神の横にかしづく。それ以外にも、小さな隣人たちがたくさん、料理のつまみ食いに来ているようだ。あちこちから気配がする。ぱちっと、優と目が合った。

「いっぱい」
「そうだね」

 早くもつまみ食いしようとする隣人は、龍神の静かな一睨みによってすくみあがっている。親指少女も料理を死守しようと机の上で格闘中のようだ。これは、早く乾杯してあげないと。
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