メイドとして皇宮に潜入したら、皇太子殿下に気に入られました(旧タイトル:ひとつぶの星屑(エトワール))

葉山心愛

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潜入編

26.図書館の一室(一)

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皇宮内に新設された図書館は、誰もが息を呑むほどの完成度だった。設立の話が出てから、驚くべき速さで作られたのだ。

広い館内には整然と棚が並び、王宮の図書室にも劣らぬほど多くの書物が収められている。貸し出しも可能で、奥には「特別な一室」が備えられていた。

「静かに本を読まれるなら、奥の個室がおすすめですよ」

図書館の司書らしき人物が、にこやかに教えてくれた。ステラは頷き、気になる本を数冊抱えて奥へ向かう。

個室の扉を開けると、数名が入っても余裕のある広さが広がっていた。壁には、大きな一枚の絵画――古びた扉を描いたものが掛かっている。その雰囲気だけが、この静謐な部屋の空気に合わない。ステラは少しだけ違和感を覚えた。

(……あとで気が向いたら、じっくり見てみよう)

そう心に留め、机に本を広げた。

ステラが手に取ったのは、皇宮や皇族に関するものばかりだった。姉の死の真相に近づくため、まずは基礎から固める必要がある。ページをめくる指先は、迷いがなかった。

「……やっぱり、どれも皇帝びいきね」

そこに書かれていたのは、現皇帝の名と数々の功績。だが、その記述のどれもが美辞麗句びじれいくで飾られているように見えた。真実かどうかはわからない。

皇帝の妻――皇后についても同じだった。穏やかで民に愛された存在として書かれているが、その“完璧さ”がかえって引っかかる。

そして、ページを進めていくうちに、ステラは新たな情報に行き当たった。

「……レオナルド殿下には……兄がいる?」

記述されていたのは皇太子の兄の名、アレクシス。そして彼がどのような人物かという簡単な説明だった。これも真実かどうかはわからない。だが、ステラは全てを頭に刻み込む。

一冊を閉じ、ふと天井を見上げた。

(……この国に来て、もうすぐ三ヶ月)

ステラは指先に残る紙の感触を確かめながら、心の中で呟く。

(皇帝陛下も……皇后陛下も……アレクシス殿下も……一度も姿を見ていない。名前さえ、皇宮では誰も口にしない)

違和感が、胸の奥でじわりと広がった。

(なぜ……?)

図書館の静けさの中で、ステラの心臓の鼓動だけがやけに大きく響いていた。

2冊目の本に手を伸ばした、その瞬間だった。

「……?」

ガチャリ、と背後から扉が開く音がした。ステラは眉をひそめる。この部屋を出入りする扉は、自分の視線の先――目の前にしかないはずだ。

恐る恐る振り返ったステラは、息を呑んだ。

そこには笑顔のレオナルドが立っていた。しかも、彼が現れたのは先ほどまで壁に掛かっていた“絵画の扉”の中からだった。

(……どういうこと……?)

理解が追いつかず、ステラはその場に固まったままレオナルドを見つめるしかなかった。

「おかしいな。動きを止める魔法なんて、かけた覚えはないんだが?」

余裕たっぷりの声に、ステラははっと我に返る。

「……魔法……?」

呟くと同時に、ステラは察した。これは魔法の力だと。

「殿下……魔法が使えるのですか?」

レオナルドは軽く肩をすくめる。

「幼い頃からな。剣だけじゃ退屈だろう? 師匠――大公に、剣術と一緒に叩き込まれた」

ステラは深呼吸し、平静を装って尋ねた。

「それで……なぜ、こちらに?」

冷静すぎる返答に、レオナルドは目を細めて笑った。

「この図書館を設立するように命じたのは誰だと思う?」

ステラは即座に答えを出した。

「……殿下ですね」

「その通り。命じた者が少しくらい細工をするのは自然なことだろう?」

ステラはため息をつき、改めてこの人の行動力に戦慄する。

レオナルドは当然のようにステラの目の前に腰を下ろすと、机に書類を広げ、仕事を始めた。そして、ことあるごとに話しかけてくる。

「……ここ、図書館です。静かにしてください」
「この部屋は特別仕様だ。外には声は一切漏れない。安心して話せ」

(……準備が良すぎる……)

最初からこうするつもりだったのではないかと、ステラは疑った。

「……この部屋に、わたしが入ったらわかるような魔法でも?」

「そんな便利な魔法はかけてないよ」

レオナルドは愉快そうに笑うと、一言付け加えた。

「ある人物から連絡があってね」

その瞬間、ステラは答えにたどり着く。

「……ロイク様ですね」
「察しがいい」

(……あの人、こんなことまで報告させて……)

呆れたように眉間を押さえるステラを、レオナルドは楽しげに見つめていた。
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