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本編

一筋の光①

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 ──とても懐かしい夢を見た。
 幼い頃クラリスと交わした優しく暖かな約束。あの頃は全てが幸せだった。
 脅威から守られ、自分達の未来を想像するだけで心からの笑みを浮かべられていた。

 いつの間にか涙が溢れていたようで、僕はそっと手で拭うと、すぐに侍従を呼び身支度をする旨を伝えた。
 夢の中は酷く心地よく、今この瞬間でも叶うなら醒めないでほしいと思った。
 目が覚めれば僕が置かれている現実は、苦しい程の幸福に満ちてなどいない。その事実が何よりも僕を苦しめた。
 
 あの頃の自分達は日々の教育で辛く苦しい事もあったけれど、それでも常にお互いが手の届く距離にいて幸せだった。
 僕は心のどこかでずっとクラリスと共に居られるのだと思い込んでいたんだ。
 クラリスは僕を裏切らない、ずっと側にいてくれる存在なのだと。
 久しぶりに懐かしい夢を見たからだろうか。まるであの当時の自分の気持ちに引っ張られているような感覚がし、僕は反射的に両手で顔を覆った。
 まだクラリスが自らの意志で僕を裏切ったと決まったわけではないのに、どうしてこんなにも心が黒く歪んだ考えが次々に浮かんでしまうのだろう。

 陛下との約束まであと半月を切っている今、気持ちだけが焦り未だに確かな確証も得られていない。
 リアムは焦っても証拠を見落とすだけだと言うけれど、僕には陛下との約束がある為、気だけが急いてしまっていた。
 身支度を済ませ朝食もそこそこに、僕は禁書庫へと早足で向かう。今は一秒でも無駄にしたくなかった。
 二人を監視している者からの報告を持つ間、ひとつでも多くの手がかりを見つけたかった。
 僕は禁書庫へ入り管理者がいる前を横切った先にある、祝福についての書物だけが置いてある区画へと歩みを進めた。
 ここへは以前“魅了”の祝福について調べた時にも訪れたが、もう一度見落としがないか確認したかった。
 どんな些細な事でもいい、クラリスを助けるヒントが欲しかった。

 静寂が広がる禁書庫では、本をめくる音と僕の呼吸音だけがそこに存在しているかのように感じた。
 いくつかの本を読み返しても真新しい収穫がなく、新たな資料に目を通す為目の前の資料を手に取りページをめくると、ページの隅に走り書きがされている箇所を発見した。

 そこには懐かしい文字列が並んでおり、今の状況では不謹慎だけれど、僕は頬が緩んだ。
 昔幼い僕に付いていた乳母が教えてくれた言葉遊び。
 その文字列を乳母が教えてくれた方法で読み解いていくと、城の東側にある通路にある石壁を示している事が分かった。

 『ホシイモノハソコニアル』

 まるでその言葉に吸い寄せられるようだった。
 最後に書かれていた言葉の意味は今の僕が欲しているものを指しているのか知りたくなった僕は、資料に書かれた場所へと逸る気持ちを抑えて早足で向かった。
 城の東側に面するこの場所は日当たりが良くなく、どこか薄ら寒さを感じる場所で幼い頃からこの場所に近づく事が怖く、今でも苦手意識が残り進んで訪れるような場所ではなかった。
 そんな場所へと足を運ぶ事すら、不思議と今の僕には躊躇がない。

 指定された場所に着き、書かれていた通り石壁を順番に押していくとそこにはひとつの扉が現れた。
 恐る恐る中へ足を踏み入れると、意外にも整えられた小さめの部屋が現れた。
 部屋の中は大量の書物と紙の束で溢れており、一人分のテーブルと椅子、そして見た事のない女性の肖像画がところ構わず置かれていた。
 埃は被っていたが保管の状態が良かったのか特にカビ臭くもなく、床やテーブルに乱雑に置かれている書物などの状態も良好のようだった。
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