29 / 56
本編
一筋の光②
しおりを挟む「ここは一体……」
床に落ちている書物を手に取りページをめくると、中には祝福について熱心に調べた痕跡があった。
王宮の図書室にある書物では取り扱っていない、祝福についてもっと深く掘り下げる内容にも触れられていた。
(もしかしたらクラリスを救う手立てが見つかるかもしれない!)
僕は無我夢中で手あたり次第の書物を読み漁った。
そして次の書物を手に取ろうとした時、ふと一冊の日記帳が混ざっているのが目に入った。
常識として考えて、普通は他人の日記を勝手に見るべきではない。至極当たり前の事なのだが、僕は何か見えない力に吸い寄せられるように自然と日記帳を開いていた。
パラパラとめくっていくと、最初は業務報告のような淡々とした言葉が並べられているだけだった。
しかし更に読み進めていくと、そのページだけ殴り書きのような荒々しい文字で書かれた箇所を見つけた。
―*―*―*―*―
△月□日。
俺は君だけを愛しているのに、君は違う。
君を幸せに出来るのも、愛しているのも俺だけなのに。
この手を取ってほしいと言った俺の心からの願いは、最後まで君には届かなかった。
私は皆のものだから、皆を平等に愛しているの。君は俺の告白に笑顔でそう答えた。
皆のもの……そんなに大勢に愛される事が幸せなのだろうか?
俺は君を愛しているけれど、君は俺を愛していない。いや、君は全ての人間を愛してなどいない。
君が愛しているのは、いつだって“愛されている君自身”なのだから。
このままいけば俺は当初の予定通り一年後に婚約者と婚姻を結ぶだろう。
そうしたら君は一体誰の手を取るのだろうか。
最近よく共にいる隣国の王子?それとも俺の側近の公爵子息?それか、あの見目のいい伯爵子息だろうか。
俺は、俺を愛してくれない君が憎い。
俺の手を取ってくれなかった君が憎い。
その愛らしい笑顔を他の男へ向ける君が憎いのと同時に、どうしようもなく愛おしいと感じるんだ。
俺を愛してくれないなら……。
俺のものになってくれないのなら……。
俺は君が、俺意外の人間の手を取る姿を見る事に耐えられない。
きっとその場面を見たら、躊躇なく相手を手にかけてしまうだろう。
それならばいっそ、君を俺だけのものにしよう。
誰にも取られないように。
その美しい瞳に、誰の事も映す事などないように。
誰からも愛される事を望む君が、誰の瞳にも映らないように。
そうして君を愛するのが俺だけになった時、一体君はどんな顔をしてくれるのだろうか。
泣き叫ぶのだろうか、絶望するのだろうか。お前が憎いと、俺を憎悪の籠った瞳で見つめてくるのだろうか。
ああ、想像するだけで、どれだけその日が待ち遠しい事か。
君の喜ぶ顔、怒った顔、泣いている顔、俺を憎む顔。君が作り出す表情、感情、全てが愛おしいよ。
誰よりも君を愛してる。
例えその結果が君を殺す事だったとしても、俺は君を諦めない。
31
あなたにおすすめの小説
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
お飾り妻は天井裏から覗いています。
七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。
何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる