【完結】おはよう、僕のクラリス〜祝福という名の呪いと共に〜

おもち。

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本編

一筋の光④

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 「リアムには先程早馬で連絡をしてあるので次期に王城へ参内するかと。陛下、これから話す内容にはまだ確証はありません。ですが、僕はどうしてもバルセル侯爵令嬢が引っかかるのです。彼女の行動を見ても怪しい点はありません、それは初期の捜査できちんと立証されている点を見ても理解しています。ですが僕の直感とあくまで勘でしかないのですが、彼女のふとした時の表情や態度が目に付くのです」
 「しかしバルセル侯爵への捜査報告には怪しい点はなかった。それは私も承知している。テオドア、その時もちろんバルセル侯爵令嬢の事も調べているのだろう?あの家は古くから我が王家の忠臣だ。シャーロット嬢もそなたとクラリス嬢の事を思いクラリス嬢に苦言を呈していたのだろう?」
 「確かに陛下の仰る通りです。僕も最初はバルセル侯爵令嬢の行動に不信感は抱かなかった。しかし最近どうにも引っかかるのです。なので現在陛下からお借りした影とリアムに頼みバルセル侯爵令嬢本人、並びに友人関係の洗い直しをしております」
 「……宰相は、この件に関してどう考える?」
 「恐れながら申し上げます。バルセル侯爵は国内でも数少ない建国からの忠臣です。私自身も今回の一件で独自ではありますが、娘に変わって婚約者候補になったバルセル侯爵並びにご令嬢の身辺を調査しましたが怪しい点は浮かび上がりませんでした。侯爵自身にも野心がない事は貴族の中では有名な話です。ご令嬢に関しても王太子殿下に懸想しているなどという噂もありませんでした。なので私は侯爵家に対する調査を終了した次第です」

 侯爵自体になにか裏があるとは僕も考えてはいない。
 以前王城で会った侯爵は僕とクラリスの変わってしまった関係に対して自分の事のように気遣ってくれていたし、本当に自分の娘がクラリスに変わって婚約者となってしまってもいいのか悩んでいるとも口にしていた。
 そんな相手が裏で何か糸を引いているとも考えにくい。
 ただ念のためもう一度調査をするようにリアムに頼んだ。その調査結果がもうすぐ届くはずだ。
 そうなれば真実が見えてくるはず。

 その場で考え込んでいると騎士からリアムが王城へ到着したという知らせを受けた。
 侯爵家から直接王城へ来たのかリアムの服装は旅支度のままだったが、その瞳には何か掴んだ事でもあるのか光が宿っていた。

 「テイラー殿、急がせてしまったようですまなかった。それで何か分かった事があったのだろうか」
 「早速ですがご報告申し上げます。殿下が調査を依頼されたバルセル侯爵令嬢ですが、以前彼女の調査をした時の調査書には書かれていなかった友人を見つけました。俺も驚いたのですが、その友人というのが現在、クラリス様が懇意にされてるチェスター子爵子息なのです」
 「チェスター子爵子息……」

 クラリスの様子がおかしくなった日からずっと側にいる異性。
 しかし学園でもバルセル侯爵令嬢と接点はなかったはず。現にクラリスが彼に纏わり付き僕と対峙した中庭では友人の素振りは一度だってなかった。

 (あの二人が実は友人だった?)

 「リアム、それは最近友人になったという事ではないのか?」
 「俺も最初はそう思って詳しく調べたんですがあの二人、実は幼い頃から幼馴染ように過ごしてきたようです。しかし双方の両親達は二人の関係を知りません。今回分かったのだって俺の祝福を使用したからですし、二人は実に上手く周囲に隠していたようですね」

 リアムの説明を聞きながら僕はバルセル侯爵令嬢とチェスター子爵子息の目的を考えていた。
 あの二人の真の目的は何なのか。

 (恐らくバルセル侯爵令嬢の目的は僕だろう)
 (ならチェスター子爵子息の目的は?彼はクラリスに好意を寄せていたのか?)

 どう考えても現時点で良い思いをしているのはそのバルセル侯爵令嬢とチェスター子爵子息の二人だけだ。
 ただリアムが以前言っていたクラリスが魅了を使用されている可能性が高い以上、どちらが術者なのか明確にする必要がある。
 しかし現時点で術者の特定には至っていないのが現状だ。術者の特定が出来ていない以上、引き続き慎重に行動する事は変わらない。

 「二人が友人関係だった事が分かったとしても、魅了の術者が誰なのか特定は出来ていない」
 「ええ、その通りです。ですからその点についても、何かこの状況を打開できる情報がないか子爵領へも足を運んできました。そこで面白い話をしてくれたご老人がいたんです。身なりは平民の衣服を身に着けてはいたけれど、肌艶も良く手入れが行き届いた手先のとても綺麗で利発そうな少年が度々町に現れ、孤児や浮浪者へ話しかけにいくんだそうです。そうして話かけられた相手をその後見かける事は二度とないんだそうです」
 「その少年がチェスター子爵子息だと言うのか?」

  僕は祈るような気持ちでリアムが続ける次の言葉を、固唾を飲んで待った。
 
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