【完結】おはよう、僕のクラリス〜祝福という名の呪いと共に〜

おもち。

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本編

退屈な人生・ライアン視点②

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 年に数度、彼女が隣接するバルセル侯爵領に戻ってきた際には、お互いの家族には内緒で日が沈むまで二人で遊んだ。
 最初はご令嬢が一日姿を見せないと侯爵達が心配するのでは?と彼女に伝えた事もあったけれど、シャルはあっけらかんとした態度で「両親は私を溺愛しているから自由にさせてくれるのよ」と笑うだけだった。
 いつだって自由な彼女との日々は、僕に刺激的な毎日と自然な息継ぎを教えてくれた。
 
 正直シャルといると自分でも驚くくらい息がしやすかった。でもそれはきっとシャルも同じように感じていたように思う。
 二人でいる時だけは貴族としても仮面を被らなくてもいい。僕はシャルとの時間に今まで生きてきて感じた事のない安らぎを感じていた。
 まるで初めから僕の居場所はシャルの隣だとでもいうように……。
 
 彼女が話してくれる内容はいつだって僕に刺激を与えてくれた。
 いつの日かシャルが話してくれた前世の話は、退屈な日々を過ごしていた僕にとって、まさに夢のような内容だった。
 彼女の話す世界では、皆が平等に自分の力で生きて好きな事を仕事にしている。今の僕には決して手の届く事がない、自由な世界がとても羨ましかった。
 聞いた事のない食べ物や、この世界では見た事もないような乗り物の話、娯楽の話を楽しそうにしてくれた彼女の笑顔はいつになく輝いていた。
 でもひときわ彼女の笑顔が輝くのは、いつだってこの国の王太子殿下の話だった。
 シャル本人は気付いていないみたいだけれど、王都にいる王太子殿下の話をする時は決まって楽しそうで、幸せそうな表情と同時に、悲しそうな表情も浮かべていた。

 どういう訳か話の中で、彼女はこの世界が自分の為に作られた世界なのではないかと確信しているようだった。
 そんないつだって『自分』しか考えていないシャルが、僕には何だかとても眩しく僕の自由の象徴そもののように感じていた。
 どんなに努力しても、僕にはこの人生を彩りのあるものにする事は出来ない。
 でもシャルの瞳に映るこの世界は、どこまでも光輝いている。
 そんな彼女が眩しくて、同時に僕にはどうしようもなく苦しくなる瞬間があった。
 シャルといると色のない褪せた世界も様々な色を持ち、暗いだけの世界で生きる僕にシャルという光がもたらされた事によって、ますます興味を惹かれていった。
 ある日彼女との何気ない会話の中で、初恋の人がこの国の王太子殿下である事を知った。
 
 僕には恋がどんなものなのか理解が出来ない。
 今まで生きてきた中で本に記されているような強烈に心惹かれる存在に出会った事などないし、正直この先も知りたいとも思わない。
 ただ、話をしながら笑っているのに、時々泣きそうな表情のシャルがどうしても気になった。

 (どうして何でもない事のように振る舞うんだろう?)
 (シャルは笑っていた方がずっと可愛いのに)

 初恋が叶わず苦しそうに微笑むのではなく、シャルには心から笑っていてほしい。
 初恋が叶えばシャルはきっと幸せに生きていける。
 そうすればまた、あの周囲を照らす太陽のような笑顔を見せてくれるはず。
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