【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

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本編

最終話 古い記憶②

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 レスター侯爵家については、アリアとの婚約を白紙に戻す手続きの際に全てを話し、今後二度と関わらない旨を侯爵本人に伝えた。
 エミリーの生家であるケインズ男爵家に関しても、アイザックと同様で直接手を下したりはしなかった。
 ただ親戚という事もありレスター侯爵家よりも近しい関係だった為、今後一切の支援を打ち切る事を通達した。
 だが私が手を出さずとも今回の一件を重くみた男爵家の当主が我が侯爵家とレスター侯爵家へ賠償金を払った後爵位を返上、同時にエミリーをもっとも規律の厳しい修道院へ入院させる事で責任を果たす形を取った。
 アイザックに関しては精神に異常をきたし、正常な生活を送る事が出来なくなっているという。
 なんでも亡くなった娘が傍にいると周囲に話、常に彼の部屋からは楽しそうな話し声が聞こえてくるという。
 
 正直な話、そんな話を聞いても私の最愛の娘が帰ってくる事はない。
 全ての元凶である二人に対しては特に、はらわたが煮えくり返える思いだったが憎悪で心が黒くなる度に、アリアの残した言葉が思い浮かんだ。

 私は今まで、一度たりともお父様の手を煩わせた事はなかったでしょう?
 だから一度だけでいいのです。どうか私の我儘を叶えて下さいませんか。
 最後までお父様にとって使えない娘だったと思います。不出来な娘で申し訳ありませんでした。
 そしてお父様もどうか、いつまでもお元気で。

「っ……っお前をそんな風に思った事など一度もない……っ……」

 娘にそんな風に思わせていただなんて……。
 アリアの思いに気付こうとしなかった私は、親として二度と名乗る資格のない人間だ。
 今更気付いて慌てても、もう全てが遅いのに。



 ああ、いっそ気を失い全てを夢に出来たなら…………何度そう願っただろう。
 娘を失った現実を、私はなかなか受け入れる事ができずにいた。
 受け入れる事も出来ず、かと言って手を下す事も出来ない。こうしてただ息をしているだけの生活を一年続けたある日。


 
 少し前から日課になっている、庭であの子が好きだった花を摘み、娘の部屋で心が落ち着けるまで過ごすという一連の動作は、最近では私の生きる気力にもなっていた。
 あの子が亡くなってしばらくは近寄る事さえ出来なかった娘の自室。こうしてアリアの思い出に囲まれ、確かに娘は存在していたのだと決して忘れぬ様に五感に記憶させていく。もうそうしていないと、呼吸の仕方さえ分からなかった。
 
 今日はあまりにも気分の良くない報告が続き、気が滅入っていたのもあり、仕事である執務を片づけ娘の部屋を訪れると、いつもと変わらない目の前にはあの子がいた時そのままの景色が広がっていた。
 私を見つけると「お父様」と照れたように微笑むあの子が、もしかしたらふいに帰ってくるのではないかと幻想すら抱いてしまう。

 そんな夢みたいな話はあり得ない。
 あの日娘の亡骸を、私は確かにこの目で見たのだから。

 あの日の朝の光景を思い出し、自然と目頭が熱くなる。
 娘ともっときちんと向き合うべきだった。何を差し置いてもあの子の苦しみを理解してあげるべきだったのに……。

 今日侍従から受けた報告では、エミリーを乗せた馬車が修道院へ向かう途中の道で何者かの襲撃を受け護衛として就いていた騎士や御者が亡くなったという。

 肝心のエミリーの遺体はまだ見つかっていない。
 運の悪い事に川沿いを走っていた最中の襲撃だったそうで、例え襲われていなくても流れの早い川では生存は絶望的だとも書かれていた。

 (まるで目の前の責任から死んで逃げたようだな)
 (それでも私の娘が帰ってくる事はないのに)

 そんな風に物思いにふけっていると、近くの本棚からカタンッと音が鳴った。
 不思議に思い近づいてみると、娘の部屋には似つかわしくない漆黒の背表紙に金色の文字が書かれた一冊の本が床に落ちていた。
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