【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

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本編

最終話 古い記憶①

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 アリアの葬儀から一ヶ月が経った頃、ようやくあの二人に娘の残した手紙を渡す事が出来た。
 ここまで来るのに何度も悩んだが私は逃げ出しそうな己の足を無理矢理前へ動かした。
 そう、私は今妻の眠る墓前に足を運んでいる。
 静かに墓下に眠る妻に、今回の事を包み隠さず報告していると、ふと弱った妻が最後の力を振り絞って私に託した願いが頭をよぎった。


「——旦那様。どうかこの子を、私の分まで守ってあげてください」


 (すまない、私は君との約束すら守れなかった)

 今の私には命を懸けアリアを産んでくれた妻の墓前で、私自身が死に追いやったと言う事実を、包み隠さず話し、誠心誠意謝罪する事しか出来なかった。


 あの日、アリアを失ってから全てが変わってしまった……。
 元凶でもあるアイザックとエミリーの顔を見るまでは、苦しめてやりたいと何度も考えた。だが娘を苦しめたのは私も同じ。
 同罪である私に果たしてその権利はあるのだろうか……と、何度も自問自答を繰り返した。だがその度に明確な答えが出る事はなかった。

 娘が残した私への手紙には二人を責めないでほしいと書かれていた。あの二人が幸せになれるように力を貸してほしい、それが私の唯一の願いだから、と。

 あの時婚約解消を言い出した娘の願いを私は一蹴した。
 私がもっとあの子の話を聞いてあげていたら……あれから幾度も悔やみ、過去に戻ってあの日の自分の発言を取り消したいと願った。でもどれだけ願っても、もう二度と過去は変えられない。その事実に直面する度に私は絶望し打ちのめされた。

 もう二度とあの子の願いを聞いてあげる事は出来ない。
 なら、せめて……親として娘が最後に望んだ事を叶えてやりたい。
 だから私はあの二人に対し、引き裂く事も罰を与える事もしなかった。
 ……それでも本音は、胸ぐらを掴んで気が済むまで罵倒してやりたい。


 どうして、アリアを裏切った‼︎
 お前だったら娘を幸せに出来ると信じて託したのにっ。


 そう腹の底から強く思うのに、アリアの残した最後の願いがギリギリの所で押し止める。
 子を亡くした親として一切手出し出来ないこの状況が、何よりも辛い。
 だがそれと同時に私があの子にしてしまった罪の大きさなのだと思うと言葉も出なかった。
 そんな風に無理矢理自分を納得させてみても、決して心が追いつく事はなかった。
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