都立図書館の地下には『人の生』が集約する

お嬢

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ビブライオの仕事

3冊の本

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「ここ、児童書コーナーの特徴的な仕事として、子供に対する読み聞かせがあるんだ。」

ハルはそういう。
なるほど、どうやらリャオルは知らなかったのだが、読み聞かせを行っているのはなにもその子供の親だけではないらしい。
あの広い読み聞かせスペースは、職員が子供に読み聞かせを行うために使われているのだ。

「もっとも、子供たちにはがいるからな。基本的にはそういった職員が読み聞かせをしている。ただ、その職員が休暇や他のことで手が離せない場合は、別の職員が読み聞かせをすることもある。」

――つまり、自分にもその役目が回ってくることがあるのか。

リャオルがそう思っていると、女性職員が1冊の本を持ち、子供たちに声をかける。
どうやら今から読み聞かせの時間が始まるようだ。

「あいつは、子供たちのお気に入りだ。レベルバッジの下にもう1つバッジがついている。」

リャオルのいる位置からは見えないが、ハルの話ではそうらしい。
詳しく聞くと面倒そうな顔をしたが、本の形のレベルバッジの下に星の形をしたバッジがついているとのことだ。
この星型バッジは子供たちのお気に入りを示すもので、読み聞かせスペースを含めた児童書コーナーで泣いている子供がいた場合助けてくれる人を表している。

「ついでだ。お前にも読み聞かせの役目が回ってくることがあるかもしれない。どうせ今日は1人じゃ仕事にならないだろうし、読み聞かせの様子でも見てこい。」

ハルは面倒ごとはさっさとあっちへ行けと言わんばかりにリャオルを読み聞かせコーナーへ追いやる。
先輩に逆らってもいいことはないとすでに悟りきっているリャオルは、おとなしく読み聞かせコーナーへと向かった。

読み聞かせコーナーにはすでに何人かの子供が集まっているらしい。
お気に入りの職員だからだろうか、集め始めてから1分も経っていないのにも関わらず、すでに20人近い子供が車座になっている。
さすがに子供たちの輪に入るのは憚られたので、リャオルは少し離れたところに腰を下ろした。

「今日は何読むのー?」
「今日はね、じゃーん!『3冊の本』だよ。みんな知ってるよね?」

女性職員の声に口々に知ってる、だの、この間読んだよ、だのといった声が上がる。
リャオルも知っている。
この本は、子供たちに悪いことをしてはいけないと教える道徳本のようなものだ。

「じゃあ読んでいくね。」

――

あかちゃんは、うまれたときに3さつのほんをプレゼントされます。
どこからきたのか、だれがもってきたのかはわかりません。
でも、だれにでも3さつのほんがあるんです。

3さつのほんははじめはまっしろ。
なかのページも、ひょうしだってまっしろ。

あらふしぎ。
あかちゃんがほんにさわると、3さつのほんにいろがつきます。

1さつめはあおいほん。
うみのいろのあおいほん。

2さつめはみどりのほん。
もりのようなあおいほん。

3さつめはあかいほん。
ちのようなまっかなほん。

1にちがおわるとき、そのほんにページがふえます。
いいことをしていたらあおいほんに。
ふつうのことをしていたらみどりのほんに。
わるいことをしていたらあかいほんに。

あなたがながい、ながいねむりにつくとき、そのほんもいっしょにねむりにつきます。
そして、かみさまがあなたのじんせいをみるんです。
あなたがじんせいでいいことをしたのか、ふつうのことをしたのか、わるいことをしたのかを。

――

「おしまい。」
「ねーねー、その3冊の本ってこの図書館にあるの?」

リャオルはまさか、と思う。
いくらこの世にあるすべての本が揃っているビブライオでも、そんなおとぎ話に出てくるような本があるわけない、と。

「うん、あるよ。」

その返しに少し驚きを隠せない。
まさか、本当にあるのか?

「この図書館にきちんと置かれているからね、みんなも悪いことしちゃだめだよ?」

それを聞いて少し胸をなでおろす。
なるほど、子供の教育のための文句だったのか。
そんな本、小さなころから毎日のようにビブライオに通っていたリャオルですら見たことも聞いたこともないからだ。

「じゃあ3冊の本はこれでおしまい。他に読んでほしい本はあるかな?」

女性職員に促された子供たちは次々に本を差し出す。
リャオルが後ろを向くと、ハルがこちらに来いというようなジェスチャーをしているのが見えた。
リャオルは女性職員に会釈をすると、ハルの方へと向かっていった。
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