平穏な日常に悪魔はいらない

雪音鈴

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4魔 ☆ さよなら普通の生活①

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 頭が冷静に働くようになって、この状況が非常にまずいことに気づく。相手はどう考えても人ならざるモノ。そして、見た目からいって良い類のモノとは思えない。

 そいつが俺に一生付きまとい、俺を幸せにすると言う……

「あれ……? 悪魔っぽいのに俺を幸せに?」

 思わず素直な疑問が口をつく。

「その通り、俺は悪魔だ。それも上級の! そんな素っっ晴らしい存在のこの俺が貴様を幸せにすると決めたんだ!! ようやく理解したか!!!」

 踏ん反りかえっているミカゲに、俺は頭を抱えたくなった。

「ちょっと待て。悪魔は普通人間を不幸に陥れて楽しむものじゃないのか?」

「そういう輩もいるが、それは力が弱い下等悪魔がやる事だ。俺くらい上級の悪魔になると、人間共に恐怖を植え付け、不幸に陥れる事など朝飯前だ。そんなんじゃ、つまらないだろう? だから、俺はゲームをする事にしたんだ」

「ゲーム……?」

「そう、ゲームだ」

 マントを翻し、凶悪な犬歯を見せつけるように笑う悪魔は、両手を広げ、舞台上にでもいるように語り始める。

「人間界ではよく『三つの願いを叶える』という言葉がキーワードになっている事は知っている。俺は『三つ』なんてケチな事を言わず、願い全てを叶えてやれる! そう!! 上級悪魔のこの俺にはそれだけの力がある!!!」

 全てを掌握するように拳を握り、朗々と話す目の前の上級悪魔の口上に、頭が痛くなってくるが、話は終わらない。

「三つの願いだけで幸せになれる人間などこの世にいるはずがない! 人間は欲深で、何か得たとしても、得た分だけ次の何かを欲しがるものだ!!」

「つまり、自分には人間の願いを全て叶える事が出来る力があるという事を証明する為と、人間がいかに欲深い生き物であるのかを確かめる為に、人間の犠牲者を一人探していたら、たまたま俺が引っ掛かった……という事?」

 熱が入ってきたミカゲと対照的に、心の芯まで冷えてきた俺は、淡々とした調子で整理する。

「犠牲者とは失礼なっ! この俺に選ばれるのは、非常に名誉な事だぞ!」

「ああ、うん。そこはわかったから。さっさと話を先に進めよう。あと、いちいち『この俺』って所強調しないでくれる? ウザイだけだから」

 最後の『ウザイ』だけ、心を込めてにこやかに言ってみる。

「永……何気にひどい事を言っていないか? まさかそっちの趣味でも……」

「ないから」

 ミカゲの妙な考えを真顔でスッパリ斬る。

「そーか! それは良かった! 俺はどちらかと言うと攻――」

「誰も聞いてねーよ!」

 ミカゲがどんどん話を脱線させていく為、思わず声を張り上げてツッコミを入れる。

 この瞬間、ふと両親との会話を思い出した。

(そう、冷静さを失ったら負けだ。会話の主導権を握り、自分が聞きたい内容へと上手く流れを戻す事が大切……。両親との会話の成果を今出さずして、いつ出す!)

 自分に強くそう言い聞かせ、気持ちを落ち着ける。

「ミカゲ。俺の願いは普通な生活を送り、普通な日常を楽しむ事だ」

 ミカゲが一番に食いつくであろう俺の願いを言い、話を元に戻す事にする。

「ほう。それが貴様の願いか。そんな願いなど俺がすぐに叶えてやる!」

 ニタリとした笑みを口元に浮かべ、目を細めるミカゲに対し、俺は最高の黒い笑みで言ってやった。

「そうか。なら、話が早い。さっさと俺の前から消えて、二度と俺の前に現れないでくれるかな?」

「……は?」

 今度は俺ではなく、ミカゲが呆ける番だ。

「俺は普通の生活がしたいんだ。普通の生活には悪魔なんてもの存在しないだろ? ミカゲ、お前はその存在自体が、俺の切実な願いを破壊する非日常の塊なんだ。わかるよな?」

「俺の存在自体が……ねぇ」

 そう呟き、少し下を向いてしまうミカゲ。
 顔に影が差し、表情が読み取れなくなる。

(言い過ぎたか?)

 悪魔と言えど、その存在自体を全否定されたら、さすがに傷つくだろう……

「おい……ミカゲ?」

 ちょっとだけ良心が痛み、下を向くミカゲに声をかける。心なしかミカゲの肩が震えているようにも見える。

(まさか……泣いてる?)

 一瞬、悪魔を泣かせた青年というテロップが自分の頭に流れ、もう一度ミカゲに声をかけようと口を開けた。

 しかし、その時、低く何かを抑えたような声が地に響く感じがし、再び口を閉ざす。

 そう、奴は――笑っていたのだった。

「クックック……そうか、そうか……俺自身がね」

 それはもう楽しそうに……

 そして、そのまま笑い続けるミカゲを見ていたら、無性に腹が立ってきた。

  バシッッッ!!!

「な、何をする! 気持ちよく笑っている所だったんだぞ!」

 おもいっきり頭を叩いてやると、少しだけすっきりした。

(心配して損した――)

「……で? 俺の言葉のどこにそんなに笑える要素があったんだ?」

 冷めた目でミカゲを見やる。

「よく言うだろう? 障害があった方が燃える……と」

「燃えなくて良いから。もし燃えるとしたら、燃え尽きて灰になってしまえ」

「まさか俺自身が壁とはなあ。クックック……ゲームは難しければ難しいほど、クリアした時の達成感が大きいだろう? 簡単すぎるゲームはつまらないしなあ?」

 俺のツッコミ(?)には全く応えず、上機嫌に言葉を続けるミカゲ。

「フッフッフ……この俺が絶対に貴様をこの世界で一番幸せにしてやる!」

 『幸せに世界で一番なんかあるのかよ』とか、『そもそもどんな基準で決めるんだよ』とか、言いたい事はたくさんあった。

 しかし、俺は自分のささやかな願いが、地下室全体に響くミカゲの声によって、無情にも粉々に砕けていってしまう音を聞く事しか出来なかったのだった……
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