平穏な日常に悪魔はいらない

雪音鈴

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6魔 ☆ 脳内での会話とコウキな姿

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「ああ、疲れた……」

 洋館がある山を下りきった所で言った俺の一言に、ミカゲが眉をひそめる。

「だから言ったではないか。俺がふもとまで連れていってやる……と。それならばもっと短時間で来ることが可能であったし、疲労など感じる事はなかったはずだぞ!」

「はいはい、ソウデスネ」

 ミカゲの言葉に適当な相槌を打ちながら、コンクリートの道へと足を踏み出し、ハッとする。

(そういえば、基本、悪魔は他の人に見えないはず――このままコイツと会話していれば、俺は確実に変人扱いだ!!)

「おい、どうしたんだ?」

 俺が突然動きを止めた事を不思議に思ったのだろう。ミカゲが怪訝な顔をしている。

「ミカゲ、ここから先、買い物が終わるまでは脳内で会話できないか? 洋館に入る前、俺に呼びかけたみたいに」

「別にそれくらい容易いことだ! しかし、随分唐突だな。先程までは普通に語らっていたのに、どういう心境の変化だ?」

「お前には分からないだろうが、俺は変人になりたくないんだ」

「ほう、そうか…………これは少し人間社会について勉強する必要があるようだな」

『ん? 何か言ったか?』

 ミカゲを置いてさっさと歩き出した俺は、彼がぼそりと言った言葉が聴き取れず、脳内で聞き返した。

『いや、何でもない。それよりも永、あれは何だ?』

 脳内に直接響いたミカゲの声を受け、ちらりと横目に彼の視線の先を見る。

『あれはテレビだよ』

 店頭にある大きなガラスケースの中に陳列しているテレビ達から視線を外し、簡潔に答える。

『なるほど! あれがテレビというものなのか。実物を見るのは初めてだな……』

 ミカゲの声に再び脳内で返しを行おうとした時、ふと周りの視線がこちらに集中している事に気付く。

『あれ? なんで、皆してこっちを見て――』

『急に立ち止まってどうしたんだ、永?』

 道行く人々が時折こちらを指さしながら何やらヒソヒソと話している。

 俺はこの光景を知っていた。何度も経験してきた。あの両親のせいで……。

 そう、あの嘲りを含んだ目……あの瞳は――

『オイ、ミカゲッ――!!!』

『永、脳内リンクを行っている時にそんなに大きな思考を送ってくるな!』

 ミカゲが軽く頭を振りながらそんな抗議をしてきたが、俺はそれどころではない。

『お前は他の一般の人には見えないんだよな!? 霊感が強いとか、特別な力がないと見えないとか、そういう感じだよな!?』

『まあ、低級悪魔はそうだな。悪魔が地上に留まる為には魔界よりも大きな力が必要となるからな。しかーし! 俺くらいの悪魔になると、実態を保ったまま人間界に居続ける事ができ……』

 ミカゲの話から、俺はとんでもない勘違いをしていたことに気付く。

『つまり、お前の姿は周りにしっかり認識されているってことか?』

 冷汗が背筋を流れていく。

『ああ、もちろんだ!!』

 得意げに胸を張るミカゲの言葉に、俺は思わず彼の胸ぐらを掴み、がくがくと揺さぶった。

「な・ん・で周りから姿見えなくしとかないんだよ!? それ、他の人が見たらただのコスプレ野郎だぞ! 痛い人だぞ!?」

 俺の言葉をミカゲは鼻で笑った。

『ふん、なぜ俺が下等な人間どもの為にこの高貴な姿を隠さねばならんのだ?』

「ああ、ああ、そういう奴だよな、お前は! 高貴じゃなく、【好奇】な姿の間違いだって分かってる!?」

『人間どもにはこの姿が畏れ多すぎる、ということだろう?』

 俺は頭を抱えたくなるのを抑えながら、ミカゲを見据える。

「ミカゲ、服装を変えろ」

『ほう、それがお前の願いか?』

 ニタリと笑う奴の顔を殴りたくなったが、俺は冷静に言うことにした。

「……ミカゲ、周りを見ろ」

『?』

「お前の注目されっぷりは分かるな」

『もちろんだ。俺は注目されるに値する強くて格好い――』

「ミカゲ、周りの視線をよく見ろ」

『???』

「あれはな、珍獣を見る目だ。つまり、お前はその服装ゆえに馬鹿にされているんだよ」

「何ッ――!?」

「ここら辺は寂れた商店街、そんな恰好した奴なんかどこにもいないだろ!?」

 ミカゲが驚きに声をあげたことで、今まで俺だけが話していたことに気付き、なんだか少し泣きたくなったが……うん、あれは忘れよう。ただの黒歴史だ。
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