平穏な日常に悪魔はいらない

雪音鈴

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7魔 ☆ 人間の心は難解①

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 ――というわけで、さっそく服を調達。

 もちろん、購入場所は安くて有名なチェーン店のユニシロだ。白いシャツにワイン色のベストジャケット、黒いジャケットに細身の黒色パンツ。そして、ピカピカに磨かれた黒い靴……全体的に黒色に統一された服装をかっこよく着こなして隣を歩くミカゲは、俺からの初の貢ぎ物(ジャケットのみ。つーか、それでも高かった)に浮かれていた。ちなみに、角、黒い耳、黒い翼は全て収納済み。見た目はいたって普通の――いや、普通よりもかなり容姿の整った男がそこにはいた。

 そう、思わずそのピカピカに磨かれた靴を思いっきり踏みたくなるほどの男がそこに……。

「ッーー!? ひ、永、いきなり足を踏むとは何事だ!」

「いや、なんでも? つーか、上級悪魔なんだろ? それくらい避けろよ」

「その攻めっぷり……永、やはりお前――」

「あらぬ誤解を招くような考えをすんのはやめろ。それよりも買い物行くぞ」

 俺はミカゲが変なことを口走る前にそそくさとスーパーへと入っていった。まあ、商店街付近が寂れるのは当たり前だよな。そこを抜けた先には安価な品物が並ぶスーパー。ついで、そこの周辺にはさっき俺達が行ったユニシロや百円均一のタイゾー、飲食店も多々ある。

(やっぱ、商店街よりもこっちに来ちまうよな……)

 そんなことを考えながら、俺は買い物カゴの中へと食材を入れていく。
 もちろん、品定めはしっかりと行っている。

(でも……閉店間際のセールに来るには時間的に厳しそうだな)

 どこのスーパーでも大抵は閉店間際に、その日出した惣菜関係や魚などをより安く販売してくれる。ここのスーパーも例外ではなくそれをやっているようだが……。

(今の俺の家って言えば山の上だからな……)

 あまり遅くなると、暗い山道を重い荷物を抱えて登ることになってしまう。さすがに、それは避けたい。

(あの山、変なモノが住み着いてたしな)

 ミカゲに会う前に体験したあの声と黒い塊を思い出し、思わず身震いする。

(あんな体験、もう二度とゴメンだ)

 買い物カゴをレジへと持っていくと、レジにいた女性がカゴの中にレジ袋を入れ、ニッコリと笑った。

「0円になります」

「あ、はい、0円ですね…………って、んなわけあるかあ!!!」

 思わずそのまま流しそうになったが、この流れはおかしい。

 俺のカゴの中にはたくさんの品物が入っている。
 それをそのまま流して良いはずがない。

「いえ、0円ですよ?」

 女性は笑顔で俺にそう言い張る。

「それは、スマイル0円の間違いではないですかねぇ!?」

「はい、スマイルも0円です」

 ニコニコ、ニ~ッコリと微笑まれ、こちらは引きつった笑みを返す。

(うん……明らかにおかしい。そして、俺はその原因に心当たりがある)

「はあ……ミカゲ、元に戻せ」

 俺はその原因を睨みつけた。

「何故だ? タダならば良いだろう? 先ほどの礼もかねて、俺からのプレゼントだ」

「はあ……お前さあ、こんなので俺が喜ぶわけないだろ」

「そうか、お前は現金をそのまま欲しかったのか。それは気が回らず――」

「現金もいらん」

「??? じゃあ、どうしたら良いんだ」

「だから、元に戻せって言ってるだろ!」

「……つくづく、お前の考えはわからん。普通、人間はこういう状況になれば喜ぶものだろう?」

「俺は普通の生活を送りたいんだ。普通の生活のどこに『買い物は全て顔パスでタダ』とか『現金が湧いて出てくる』とかあるんだよ!」

「ふむ、そういうことか。永、お前よく頭が固いって言われないか?」

「悪いが柔軟性はある方だよ。非現実の状況にしっかりと対応できていることとかな!」

「ほう、なかなか言うではないか」

 ニタニタと笑うミカゲにイライラしながらも、俺はちらりとスーパーの天井を確認した。

(よし、やっぱりあるな……)

「それから、ミカゲ。ここには監視カメラがある」

「監視カメラ? それは、金融や公的機関などで侵入者および不審者の監視や記録に使われるものではないのか?」

「……なんかすごい説明的な言い方だけど、まあ、そんなもんかな。それがここの店の天井にもついてるんだよ」

 俺は天井を指差し、ミカゲの反応をうかがった。

「それがどうしたと言うんだ?」

 キョトンとしたその顔に頭を抱えたくなる。

「だ・か・ら! その映像は誤魔化せないだろって言ってんだよ! いくらレジの人や周りの目を誤魔化せても、あれは機械で誤魔化しはきかない。それじゃあ、俺はすぐに犯罪者になっちまうだろ!」

「ふむ、ではあれを壊せば文句はないのだな」

「そういう意味で言ってんじゃねーよ! 良いから、とっとと――元に戻せえええぇぇぇぇ!!!」
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