平穏な日常に悪魔はいらない

雪音鈴

文字の大きさ
8 / 12

8魔 ☆ 人間の心は難解②

しおりを挟む
(人間の考え――もとい、心というものは難しくてよくわからん……やはり、もう少し情報を収集する必要があるようだな)

 永が普通にレジをすませ商品を袋に入れようとした時、俺が使い魔を使って入れようとしたら、また怒鳴られた。人前で妙な力を使うな……と。しかも、レジ袋なるものを持ったまま永に蹴り飛ばされ、外へと出されていた。永はスーパーの近くに点在している店を回っているようで、俺はここで待っているのだが……なんだか、釈然としない。俺は人間という生き物を甘く見すぎていたのかもしれない。

(やはり、長年外に出ていなかった分、認識などに偏りがあるようだな。早々にこのブランクを埋めるためにも、情報収集を――)

 考えを巡らしている途中で、足元に何かがあたった。

「?」

 見ると、そこにはオレンジ色の何かが転がっていた。

(これは……みかん?)

 確か、先ほどのスーパーで売っていたものだ。一つ手にとったところで、再びコロコロと複数のみかんが転がってきた。

「???」

 とりあえず、全部のみかんを拾っていく。

「ああ、すみません。ありがとうございます」

 ついで、妙齢の婦人が二輪車――いや、確か自転車というのだったな……を置き、こちらへとかけよってきた。





 ◇ ◇ ◇





(まったく……ミカゲのせいで余計に疲労が……)

 全ての買い物を終え、ようやく外へと出る。もちろん、山歩きしやすいよう、買った物のほとんどはリュックの中だ。

(さて、諸悪の根源のミカゲは――)

「あらヤダ、ミカゲちゃんったらお世辞が上手いんだからあ!」

(そうそう、ミカゲちゃんは――って、は?)

 俺は目の前の光景に呆然とした。俺の買い物中、邪魔をしてほしくがないために外で待たせていたミカゲ――そのミカゲが、なぜかおば様達に囲まれていた。

「世辞なんかではない。お前達のように生き生きした魂はそうそういないぞ? それこそ、死神も裸足で逃げ出すほどだ。老い先が短いなんて言うのはお前達自身に失礼だ」

「もう、ミカゲちゃんってば! でも、ありがとう。そうね、老い先短いなんて言うのはダメね。これからも元気で頑張るわ!」

 開いた口が塞がらないとは、こういう状況の事を言うのだろう。

(いったいどうしてこうなった……? 誰か、説明をしてくれ――)

「あら、もうこんな時間!」

 おば様達の一人が慌てたような声を発した。

「そろそろ行かなくちゃ、昼食作るの間に合わないわ」

「ああ、そうか。時間というものはあっという間に過ぎ去ってしまうな。また次の機会に話を聞かせてくれ」

 ミカゲがおば様達にそんなことを言い、おば様たちも口々にミカゲへと言葉をかけ、去っていってしまった。

「ああ、永、もう買い物は終わったのか?」

「え? あ、ああ」

 ミカゲが俺に気付き、こちらへと歩いてくる。先程の光景があまりにも衝撃的すぎて、俺の反応は少し遅れてしまった。

(こいつ、何を考えているんだ? そもそも、おば様達と何を話して――)

「永、その荷物、俺が持ってやろう」

「は?」

 考えを巡らせている間に、ミカゲは俺が持っていた袋と背負っていたリュックを無理やり取り、さっさと歩いて行ってしまった。

「あ、え? おい!」

 俺は急いでミカゲを追いかける。

「てか、いったい、何の話してたんだよ」

 ミカゲへと追いついた俺は小声で奴へと話しかけた。

「世間話だ。永との会話で人間という生き物が難解だということがよく分かったからな。今の世の人間という生き物をもう少し知ろうと思ったのだ。いわゆる情報収集というやつだ」

「まあ、変なことしようとしたわけじゃないなら良いけど……何かあらぬ誤解を招くようなこと言ってないだろうな」

「別段変なことは言ってないぞ? ただ、永はよく怒鳴るとは言ったが――」

「何気に俺の近所評判落とすなよ! そのせいで、『ああ、あの子がミカゲちゃんの言うキレやすい子ね』って感じで見られたらどうするんだよ!」

「永がキレやすいのは事実ではないか。現に今、こうして怒っているだろう」

「それはお前が……はあ、もう良い。それよりも、その荷物返せ」

「俺がきちんと屋敷まで運んでやる。人間にはこの荷物も重いのであろう?」

「いいから返せ。俺は入学式まで体力つける必要があるんだから。いらないおせっかいだ。家出る時にも言っただろ?」

「ああ、そうだったな。人間とは、やはり難儀なものだな」

 そう言って、ミカゲは荷物を返してくれた。たぶん、荷物を運ぶという行為もミカゲの優しさ(?)だったのだと思う。それは分かったのだが、ついつい嫌な言い方をしてしまった。

(ちょっと言いすぎたかな……)

 心の中で反省しながらも、今更『ありがとう』や『優しさだけはもらっとく』などと言うのも気恥ずかしくて、帰り道は終始無言で歩いてきてしまった。

 ほんと、変なところで素直になれない自分が嫌になるよ……。

 ミカゲじゃないけど、人間……特に心というやつは――難解だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...