イレギュラー探偵事務所☆大学七不思議とスケープゴート

雪音鈴

文字の大きさ
10 / 24

七不思議……一度整理が必要?

しおりを挟む
「やはり、屋上は見晴らしが良くて気分が良いな!」

(屋上での実験、もう終わったみたいで良かった)

 アルの言葉を無視し、僕は屋上を見回す。

 最初に目に留まったのは、汚れた広い屋上の床をほとんど占領している大きなブルーシートだった。それには、『触るな危険!』という張り紙がされていた。

「これ……何?」

 後ろからレイの呟きが聞こえ、そちらを振り返る。見ると、僕達が出てきた扉の横に、何やら大きな物があり、それにも厳重にブルーシートがかけられていた。もちろん、こちらにも張り紙がされている。

「実験器具かな? 小瀬さん、そんな事言ってたよね?」

「ねぇ! この滑車、意外と大きいよ!!」

 レイの疑問に答えていると、奈央が少し錆びた手すりに手をかけ、大きく身を乗り出していた。

「奈央!? そんなに乗り出したら危ないって!!」

 僕は急いで奈央のそばに駆け寄り、引き戻す。

「まったく、鳴海は心配性だなあ」

「いや、その手すりは危険です。その狐さんの言う事は正しいですよ。実際、その手すりの腐食が危険視され、近々、滑車と共に改修工事が入る予定です」

 奈央の呆れたような声に続き、淡々とした声が静かに響いた。

 突然の声に驚き振り返ると、開けっ放しだった屋上のドアの所に、一人の女子大生が立っていた。風に舞う長い黒髪の間から、鋭い光を放つ黒い瞳がのぞく。その眼差しに、僕の全身の毛が一気に逆立った。

(こ、怖い! 今はハロウィンって事で狐耳もしっぽも出しちゃってるんだから、我慢しなくちゃ!)

「すみません。いきなり話に割って入ってしまって」

 僕が必死にそんな葛藤をしていると、その子の方から視線を外してくれた。

(な、なんとか、かわせた……)

 僕がバクバクする心臓を抑えていると、奈央が声を上げた。

「気にしないで! 瑠美奈るみなちゃん! むしろ、教えてくれてありがとう。ここの手すりには気を付けるね」

 その言葉に、僕は奈央へと視線を向ける。

「え? 知り合い?」

「うん! 高杉たかすぎ瑠美奈るみなちゃんだよ! オカルト研究会の部長さんで、七不思議について教えてくれたんだ!」

(奈央に新しいおもちゃを与えたのはこの子か……)

 げんなりとしながら高杉に目をやると、彼女はぺこりと頭を下げた。

「あと、そこの吸血鬼さん。そのブルーシートは剥がさない事をお勧めします」

 顔を上げた彼女が静かに発した言葉の内容に、僕は頭を抱えたくなるのだった。

(アル……頼むから大人しくしてて)





 ◇ ◆ ◇





「じゃあ、七不思議を整理していこうか」

 奈央の言葉に反応し、レイがコクリと頷く。

「魔鏡からの冷気は……ただの隙間風」

「しかし、その中に映る女の人の解明が出来ませんね」

 高杉の言葉に、僕は驚いた。

「女の人? 鏡の中に?」

「はい。『魔鏡の残像』という怪談では、冷気を感じ、鏡の方を見ると、綺麗な女の人が鏡の中にいるんだそうです。そして、その女の人が微笑んだところを見た人は、鏡の中に引きずり込まれてしまうそうなんです」

(そういえば、奈央の話の途中でアルが悲鳴を上げたんだった……)

 アルに非難の目を向けるが、当の本人はまったく気にした様子もなく、得意げに語り出す。

「フッ……そんなのはただの見間違いか何かだろう! 次に移るぞ! そうそう、窓の外に見えた白い影は、滑車に付いた運送用の箱に引っ掛かった白い布だったな!」

「それはそうかもしれませんね。しかし、屋上にいたという女の人や、笑い声は何だったんでしょうか。あと、花壇のすすり泣きの件も解明は出来ていません」

 高杉のもっともな指摘に、思わずため息が漏れてしまう。

「じゃあ、何も解明出来てないってことになるのか……」

「そうだね! それに、まだ有望な怪談が残ってるんだよね~」

 奈央のニマニマ笑いに改めてため息をつくと、ふいに高杉が声を上げた。

「あ、奈央さん。忘れないうちに……これ、昨日言ってた匂い袋です。良かったらどうぞ」

 高杉がおずおずと可愛らしい小さな袋を差し出す。

「わあ! わざわざ作ってくれてありがとう! 昨日の今日で出来ちゃうなんて、瑠美奈ちゃんは仕事が速いね」

 嬉しそうに貰い受ける奈央の様子からして、昨日、何か話題に挙がったのだろうと推察する事が出来た。

「あの、多めに作ってきたので、良ければどうぞ」

 ぼんやりと考えを巡らしていると、高杉がこちら側にも匂い袋を差し出してくる。

「え? それじゃあ、ありが――」

 お礼を言いながら匂い袋を受け取ろうとすると、いきなり横から腕を掴まれた。

 突然の事に驚きながらもそちらを見やると、レイがやんわりと首を横に振る。

(えっと……貰うなって事かな?)

「おお! それではありがたく貰おうか!」

 僕がレイの行動に困惑していると、アルのそんな言葉が耳に届いた。見ると、ちょうどアルが高杉から匂い袋を貰うところだった。

 アルが満更でもなさそうな顔で袋を受け取った瞬間――ジュッと言う何かが焼けこげるような音が聞こえた。

「のわああああああああぁぁぁぁ!!!!」

「え! ちょ、ちょっと! 何事!?」

 匂い袋を投げ捨てのたうち回るアルの姿に、僕は茫然としてしまう。はっきり言って、状況がさっぱり分からない。

「アルは……アレルギー持ち。気にしないで」

 レイがスッと前に出てきて、高杉に言う。

(アレルギー? そんなんあったっけ?)

 ちらりとアルの方を見ると手から煙が上がっていた。

(いやいやいや! アレルギーで手から煙とかないでしょ! いろいろ無理あるよ!)

「ああ、そうなんですか。それはすみません」

 僕が心の中で盛大なツッコミを入れている横で、高杉があっさりと納得し、落ちた匂い袋を拾った。

(え! 納得しちゃったよ!)

 僕が驚いていると、奈央が高杉へと近づく。

「ごめんね! 匂い袋ダメにしちゃって……」

 奈央の言葉に、僕は先ほどの匂い袋へと視線を向ける。少し焦げてしまったそれを見つめながら、高杉がポツリと呟いた。

「気にしないで。それよりも――――から」

 一陣の風が吹き、木々のざわめきが高杉の言葉を掻き消した。

 異様に大きなざわめきのせいで、性能の良い僕の耳ですらその小さな声を捉えられなかった。

「え? 今、なんて言ったの?」

 僕は聞き返してみたのだが、高杉は妖艶に微笑むだけで、それ以上は何も言わなかった。

(なんて言ったんだろう?)

 僕の心と同じように、木々がまたせわしなくざわめく。それに合わせ、ハーブのむせ返るような香りと、わずかな焦げ臭さが入り混じるのだった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純七
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...