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アルと紅
しおりを挟む鳴海達と合流すべく、レイが花壇を後にしている頃、アルは歩く度に灯る廊下の電灯と……戦っていた。
☆ ☆ ☆
「だあああああぁぁ! 何なんだ! この電灯は! 鬱陶しい!」
廊下を通る度に点く電灯を睨みつける。
(今流行りの自動で点くタイプの電灯なのだろうが、気が散ってしょうがない!)
「そもそも、私は明かりなどなくとも何の問題も……」
「明かり……なくても見えるの?」
声に驚き身構えると、いつの間にか背後に少女が立っていた。
小学三年生くらいだろうか? 紅を基調としたドレスを着ているその少女は、可愛らしく小首を傾げ、不思議そうにこちらを見上げている。
「な、なんだ貴様は!」
(こんな少女に驚かされるとは、何たる失態……)
「あたし? ええと……皆はあたしの事、紅って呼んでるよ?」
「そうか、では紅。貴様はなぜこんな所にいるのだ?」
外はもう闇に染まっている。しかも、ここは大学内の建物である。子供が一人で来るような場所ではない。
(まあ、気配からしてアヤカシではなさそうだな。そして……よし! 足があるから幽霊ではないな!)
「ねぇ、あなたは誰? 何をしようとしているの?」
紅と名乗る少女を観察していると、少女が逆に質問を投げかけてきた。
(質問返し……か。まあ、人間の子供など、所詮、そんなものか)
「私はアルバート=D=マーカス。ここへはある事件を解決しにやってきたのだ!」
マントを翻し、決めポーズを取る。
(フッ……決まった!)
「ふーん。アルバイトでサーカスをやっているのね」
「誰がアルバイトでサーカスをやるか! 私の誇り高き名を侮辱するな!」
少女は無邪気にクスクスと笑いながら冗談よと呟く。
「じゃあ、アルバートさんは悪い人?」
無垢な笑顔で再び少女が聞いてくる。
「悪い人? それはどういう定義で言っているのだ?」
「てい……ぎ?」
多分分からなかったのだろう。眉根をギュッと寄せ、難しい顔をする紅の頭を気遣うように撫でてやりながら話を続ける。服の色と同じような綺麗な紅い髪は、見た目通り手触りが良かった。
「ああ。私は一般的に人間から怖がられる存在だ。だから、『アク』だと言う人間もいるだろう」
ジッと見つめてくる純粋な紅い瞳が、仄かな月明かりに照らされる。
「だが、私自身は人間に危害を加えようという気はないし、むしろ、人間は面白いモノだから大切にしたいとも思っている」
紅から手を退けながら、最後に含みを込めて言う。
「人間とは弱く、脆いモノだからな……」
(そう、すぐに壊れてしまう)
「うーんと……確かに、人によって考えは違うよね」
ちょうど背伸びしたい年頃なのだろうか。紅は一生懸命、話についてこようとした。
「あ! 今、アルバートさんがあたしの頭を撫でたのも、見方によってはセクハラだもんね!」
「そうそう。分かってくれたようで――って! セクハラだと! この誇り高き私がそんな真似をするか!」
晴れやかな顔をして言い切った紅に、思わずノリツッコミをしてしまった。
(クッ! 私としたことがすっかり少女のペースに……)
「大丈夫。アルバートさんのこと、訴えたりしないから!」
「そ、そうか……ところで、紅。アルバートさんというのは止めてくれないか。どうしてもアルバイトさんと聞こえてしまう」
「はーい! じゃあ、何て呼べば良い?」
ため息交じりに言うと、元気な声が響いた。
「アルで頼む」
(子供という生き物の相手がこれほどまでに疲れるものだとは……)
「それじゃあ、アル! アルは私の『ていぎ』では悪い人じゃないと思うから、良いことを教えてあげるね!」
楽しげに微笑みながら軽く一回転する紅。
少女が纏う紅色のドレスが広がり、闇に紅い波紋が広がった――
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