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第2章 深海の檻が軋む時
第11変 毒を紡ぐ人魚(中編)
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耳に微かに聞こえる水の音。
(この音……ちょっと遠いけど、川――?)
音の変化だけでなく、微かに甘い香りが音の聞こえた方からふんわりと漂ってきた。誘われるようにそちらに足を進めると、周囲の視界を狭める要因となっていた木々がない開けた場所に出た。
(これは…………)
少し先にある崖の上には、桃色の花が群生していた。月の光を浴び、こちらにおいでと誘うようにふわりふわりと揺れる花々――その茎の赤い斑点に、言い様のない不安感が胸を占める。
「わあ――昼寝草がこんなにたくさん」
痺れたように動けないでいる私の後ろで、シアンが嬉しそうな声を上げる。
「すごい、すごいよルチアーノ!!! こんなに群生してるのなんて滅多にないことだよ!?」
シアンが頬を上気させ、興奮した様子で花々へと駆け出す。
「あ――」
咄嗟にシアンへと伸ばした手は、一瞬の迷いから空を切ってしまう。
(不安だ――でも、なんで――?)
駆け出すシアンの背とその背で揺れる長いシアン色の髪。遠くに見える桃色の花々……花々の茎にある赤い――紅い――斑点――
「ッッッ!?!? シアン!!!」
見たことがある光景。あの時見た長い髪は黒色だった。そう、私が見たのは私――ゲームの主人公のルチアーノを見たんだ。
(私のトラウマEND――精霊王のBADENDの一つ!!!)
夜泣草という言葉がよぎる。
夜泣草の茎には赤い斑点がない。その知識を持っていれば近づかなくてすんだ。その知識を持っていれば、崖から落ちる瞬間に毒を受けてそのまま川へと落ちることはなかった。
そのまま――死ぬことはなかった!!!
もてるだけの大きな声を出し駆け出したが、シアンが昼寝草を掴んで崖から落ちていくのは止まらない。
昼寝草の群生地。崖の上。シアンだってよく考えれば気づいただろう……昼寝草は土の中に潜る。土を耕してより柔らかくする草。その群生地の崖はもろく、地中のバランスを少し壊すだけで――たとえ草を一本抜くという行為でさえ――全てを崩してしまうのだということに……。
咄嗟にベルトにさしていたシェロンからもらったプレゼントを抜き、シアンに伸ばす。シアンの胸周りに巻き付いたソレを思い切り引っ張りシアンを引き寄せることには成功したが、私の足元の地面も崩れ、結果、私はシアンを抱きしめて崖の上から落ちることになったのだった――。
(この音……ちょっと遠いけど、川――?)
音の変化だけでなく、微かに甘い香りが音の聞こえた方からふんわりと漂ってきた。誘われるようにそちらに足を進めると、周囲の視界を狭める要因となっていた木々がない開けた場所に出た。
(これは…………)
少し先にある崖の上には、桃色の花が群生していた。月の光を浴び、こちらにおいでと誘うようにふわりふわりと揺れる花々――その茎の赤い斑点に、言い様のない不安感が胸を占める。
「わあ――昼寝草がこんなにたくさん」
痺れたように動けないでいる私の後ろで、シアンが嬉しそうな声を上げる。
「すごい、すごいよルチアーノ!!! こんなに群生してるのなんて滅多にないことだよ!?」
シアンが頬を上気させ、興奮した様子で花々へと駆け出す。
「あ――」
咄嗟にシアンへと伸ばした手は、一瞬の迷いから空を切ってしまう。
(不安だ――でも、なんで――?)
駆け出すシアンの背とその背で揺れる長いシアン色の髪。遠くに見える桃色の花々……花々の茎にある赤い――紅い――斑点――
「ッッッ!?!? シアン!!!」
見たことがある光景。あの時見た長い髪は黒色だった。そう、私が見たのは私――ゲームの主人公のルチアーノを見たんだ。
(私のトラウマEND――精霊王のBADENDの一つ!!!)
夜泣草という言葉がよぎる。
夜泣草の茎には赤い斑点がない。その知識を持っていれば近づかなくてすんだ。その知識を持っていれば、崖から落ちる瞬間に毒を受けてそのまま川へと落ちることはなかった。
そのまま――死ぬことはなかった!!!
もてるだけの大きな声を出し駆け出したが、シアンが昼寝草を掴んで崖から落ちていくのは止まらない。
昼寝草の群生地。崖の上。シアンだってよく考えれば気づいただろう……昼寝草は土の中に潜る。土を耕してより柔らかくする草。その群生地の崖はもろく、地中のバランスを少し壊すだけで――たとえ草を一本抜くという行為でさえ――全てを崩してしまうのだということに……。
咄嗟にベルトにさしていたシェロンからもらったプレゼントを抜き、シアンに伸ばす。シアンの胸周りに巻き付いたソレを思い切り引っ張りシアンを引き寄せることには成功したが、私の足元の地面も崩れ、結果、私はシアンを抱きしめて崖の上から落ちることになったのだった――。
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