22 / 50
第2章 深海の檻が軋む時
第22変 人魚の猛毒は全身に(中編)
しおりを挟む
咄嗟に手を伸ばして触った彼の頬はとてもスベスベしていて羨ましいほど手触りが良かった。彼の白くてきめ細やかな肌が赤く色付く様は、本当に愛らしく、思わずその気持ちのいい手触りを堪能しつくして彼を困らせてみたいなあ……なんていうイタズラ心まで湧いてきてしまいそうだ。
「え、な、ななな、何かな!?」
(うん、そういう反応を返されると余計にイタズラ心が刺激される……まあ、今はやらないけど――)
私はイタズラ心を心の奥へと押しやり、彼の頬に手を伸ばしてしまった理由を頭の中で整理する。とりあえず、やってしまった行動というのは収集がつかないので、正直な言葉を彼にぶつけるのが良いだろうと結論付け、私はそっと口を開いた。
「……あのね、シアン。シアンの目は綺麗だからさ、顔、あげた方が良いよ。目が見えないと話してて不安になるし――」
その言葉に、シアンはしばしの沈黙の後、魚のように口をパクパクさせながら顔を青くしたり赤くしたりしている。
(??? もともと、人魚だし、関係あるのかな?)
あまりに不思議で面白い行動にじぃっとその様子を見ていると、彼の瞳がうるうると涙の膜を張り始めた。
「わっ! ご、ごめんね! 急に捕まえて!」
急いで彼の頬から手を離すと、彼は緩く首を振りぼそりと何かを呟いた。いくら耳の良い獣人と言えど、言葉半分に飲み込まれた言葉は聞き取れない。何やら『君は本当に――』などと言っていたようだが、後半は分からない。
「ごめん、やっぱり嫌だったよね……」
「ううん、ぜ、全然嫌じゃないから!!」
少しばかり肩を落とした私に、顔を真っ赤にしながら必死にそう言ってくれる彼にホッとする。
(てか――シアンって本当にいい子だよね……この子のどこがネガティブヤンデレなんだろう?)
ふと、シアンの可愛らしい反応からそんなことが頭をよぎり、ゲームの内容と現在目の前にいる彼との違いを考えてしまう。その時、不意にゲームでも見慣れていたネガティブの要因――彼の目の下にある隈が心配になってきてしまう。きっと、日々の研究のせいであまり寝ていないのだろう。ついつい、お母さんのような世話焼きの心が出てきてしまい、眉が下がる。
(まあ、隈はあるのに肌スベスベとか――ズルイと思わなくもないけど……。だってさ、前世の私なら夜ふかししたらもれなく『肌の調子は絶不調☆』が付いてきたんだよ?)
やっぱりこの世界はイケメン養育所かなにかだ――などという思いをなんとか意識の端に追いやり、私はシアンの綺麗な顔に浮かび上がる隈を見つめる。
「……ねぇ、シアン――あの後ちゃんと寝た?」
「え、ああ、うん。寝たけど……どうして?」
「隈がひどいから……体は大事にしてね――」
シアンの体調を考えて優しくそう言うが――どうもその言葉が彼が持っていた何らかの琴線に触れてしまったらしい。その群青色の綺麗な目を大きく見開き、とうとう、その瞳からポロポロと綺麗な結晶が零れ落ちてしまった。ギョッとして辺りを見渡すが、周囲には私とシアンと崩れた外壁の破片の中でハアハア頬を上気させている変態さんしかいない。
私は瞬時に戦闘服の黒い上着を脱ぎ、彼の頭からかぶせる。もちろん、戦闘服の下にはちゃんと黒いTシャツを来ている。あ、黒いTシャツには推しキャラのイラストとかショタ最高なんていう変な言葉とかないからね! 普通の無地のヤツだからね!!!
え、それじゃあ、前世では持ってたのかって?
ほ、ほら、そういう情報別にいらないよね?
今、関係ないからな、それ!!
シアンよりも私の方が大慌てだが、とりあえず、シアンの顔を周囲から隠すようにしっかりと上着を被せる。人魚はこの世界で絶滅寸前の種族だ。その涙である結晶もその血肉も非常に高価で、下手をすればこの学校の中でさえ、売りさばかれる危険性がある。それに、もし、シアンの特殊な体質が知られれば、それはそれで実験体として扱われてしまうかもしれない。
「シアン、とりあえず、ちょい汗臭いかもだけど、しっかり被っててね」
ちなみに、着替え用に持ってきていた軍服はシェロンが持つと言ってきかなかった(駄々をこねた)ので、面倒臭くなり、預けてしまっている……つまり、それが入った袋は彼の異空間の中――自分の意思で咄嗟に取り出せないため、やはり自身で異空間収納ができないのは本当に面倒だと思う。
(……うん、今、ものすごく更衣室で着替えてこなかったことと着替えを変態さんに預けちゃったことを後悔してる。ほんと、何が悲しくて講義で汗だくになった後の上着を攻略対象に被せなきゃならないんだ……男女が逆ならまだときめきポイントがあったかもしれないけど――乙女なのに汗臭いってのはかなり切ない……。とりあえず、シアン、君のためだ。少しの間その汗臭さを我慢して、その後はこのことを忘れてね!!!)
私が少し乙女としての尊厳を意識の端にやっていると、シアンが上着の中から声をあげる。
「そ、そそそ、そんなことないよ! ルチアーノの良い香りが染み付いててちょっと落ち着かないけど、むしろ嬉しいというか、ずっとこうしてたいっていうか、あ、でも、僕にはちょっとまだ刺激が強いというか――じゃなくて、ご、ごごご、ごめん――その、僕……!」
「謝るのは後! とりあえずは――うん、シアンの研究室に行こう!」
シアンの反応からどうもそこまで汗臭くはなかったようだと分かったので、少々ホッとしながらも、たぶん、現状を見ていないだろうシェロンをその場に置き去りにし、私達はシアンの研究室へと向かうべく早足で歩きだしたのだった……。
「え、な、ななな、何かな!?」
(うん、そういう反応を返されると余計にイタズラ心が刺激される……まあ、今はやらないけど――)
私はイタズラ心を心の奥へと押しやり、彼の頬に手を伸ばしてしまった理由を頭の中で整理する。とりあえず、やってしまった行動というのは収集がつかないので、正直な言葉を彼にぶつけるのが良いだろうと結論付け、私はそっと口を開いた。
「……あのね、シアン。シアンの目は綺麗だからさ、顔、あげた方が良いよ。目が見えないと話してて不安になるし――」
その言葉に、シアンはしばしの沈黙の後、魚のように口をパクパクさせながら顔を青くしたり赤くしたりしている。
(??? もともと、人魚だし、関係あるのかな?)
あまりに不思議で面白い行動にじぃっとその様子を見ていると、彼の瞳がうるうると涙の膜を張り始めた。
「わっ! ご、ごめんね! 急に捕まえて!」
急いで彼の頬から手を離すと、彼は緩く首を振りぼそりと何かを呟いた。いくら耳の良い獣人と言えど、言葉半分に飲み込まれた言葉は聞き取れない。何やら『君は本当に――』などと言っていたようだが、後半は分からない。
「ごめん、やっぱり嫌だったよね……」
「ううん、ぜ、全然嫌じゃないから!!」
少しばかり肩を落とした私に、顔を真っ赤にしながら必死にそう言ってくれる彼にホッとする。
(てか――シアンって本当にいい子だよね……この子のどこがネガティブヤンデレなんだろう?)
ふと、シアンの可愛らしい反応からそんなことが頭をよぎり、ゲームの内容と現在目の前にいる彼との違いを考えてしまう。その時、不意にゲームでも見慣れていたネガティブの要因――彼の目の下にある隈が心配になってきてしまう。きっと、日々の研究のせいであまり寝ていないのだろう。ついつい、お母さんのような世話焼きの心が出てきてしまい、眉が下がる。
(まあ、隈はあるのに肌スベスベとか――ズルイと思わなくもないけど……。だってさ、前世の私なら夜ふかししたらもれなく『肌の調子は絶不調☆』が付いてきたんだよ?)
やっぱりこの世界はイケメン養育所かなにかだ――などという思いをなんとか意識の端に追いやり、私はシアンの綺麗な顔に浮かび上がる隈を見つめる。
「……ねぇ、シアン――あの後ちゃんと寝た?」
「え、ああ、うん。寝たけど……どうして?」
「隈がひどいから……体は大事にしてね――」
シアンの体調を考えて優しくそう言うが――どうもその言葉が彼が持っていた何らかの琴線に触れてしまったらしい。その群青色の綺麗な目を大きく見開き、とうとう、その瞳からポロポロと綺麗な結晶が零れ落ちてしまった。ギョッとして辺りを見渡すが、周囲には私とシアンと崩れた外壁の破片の中でハアハア頬を上気させている変態さんしかいない。
私は瞬時に戦闘服の黒い上着を脱ぎ、彼の頭からかぶせる。もちろん、戦闘服の下にはちゃんと黒いTシャツを来ている。あ、黒いTシャツには推しキャラのイラストとかショタ最高なんていう変な言葉とかないからね! 普通の無地のヤツだからね!!!
え、それじゃあ、前世では持ってたのかって?
ほ、ほら、そういう情報別にいらないよね?
今、関係ないからな、それ!!
シアンよりも私の方が大慌てだが、とりあえず、シアンの顔を周囲から隠すようにしっかりと上着を被せる。人魚はこの世界で絶滅寸前の種族だ。その涙である結晶もその血肉も非常に高価で、下手をすればこの学校の中でさえ、売りさばかれる危険性がある。それに、もし、シアンの特殊な体質が知られれば、それはそれで実験体として扱われてしまうかもしれない。
「シアン、とりあえず、ちょい汗臭いかもだけど、しっかり被っててね」
ちなみに、着替え用に持ってきていた軍服はシェロンが持つと言ってきかなかった(駄々をこねた)ので、面倒臭くなり、預けてしまっている……つまり、それが入った袋は彼の異空間の中――自分の意思で咄嗟に取り出せないため、やはり自身で異空間収納ができないのは本当に面倒だと思う。
(……うん、今、ものすごく更衣室で着替えてこなかったことと着替えを変態さんに預けちゃったことを後悔してる。ほんと、何が悲しくて講義で汗だくになった後の上着を攻略対象に被せなきゃならないんだ……男女が逆ならまだときめきポイントがあったかもしれないけど――乙女なのに汗臭いってのはかなり切ない……。とりあえず、シアン、君のためだ。少しの間その汗臭さを我慢して、その後はこのことを忘れてね!!!)
私が少し乙女としての尊厳を意識の端にやっていると、シアンが上着の中から声をあげる。
「そ、そそそ、そんなことないよ! ルチアーノの良い香りが染み付いててちょっと落ち着かないけど、むしろ嬉しいというか、ずっとこうしてたいっていうか、あ、でも、僕にはちょっとまだ刺激が強いというか――じゃなくて、ご、ごごご、ごめん――その、僕……!」
「謝るのは後! とりあえずは――うん、シアンの研究室に行こう!」
シアンの反応からどうもそこまで汗臭くはなかったようだと分かったので、少々ホッとしながらも、たぶん、現状を見ていないだろうシェロンをその場に置き去りにし、私達はシアンの研究室へと向かうべく早足で歩きだしたのだった……。
2
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について
水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】
千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。
月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。
気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。
代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。
けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい……
最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。
※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる