お助けキャラは変態ストーカー!?

雪音鈴

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第2章 深海の檻が軋む時

第21変 人魚の猛毒は全身に(前編)

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「ねぇ、あの黒髪ロングの子があるじらしいわよ」

「うわあ、服従契約なんてえげつない。っていうか、服従契約なんて初めて見たぁ」

「えぇ~、シェロンくんってちょっとヤバ気だけどわりといい物件だったのに、これじゃあアタック出来ないじゃん~、先こされたぁ……」

 あちこちから聞こえる声(総合して女生徒が多い)とシェロンのものではない複数の好奇な視線に泣きたくなる。女生徒の話からして、どうもシェロンは少しばかり注目されるような能力の持ち主だったらしい(ヤバ気=変態なのも周知の事実のようだが……)。それに加え、女生徒は総じて噂好きだ。瞬く間に話は広がり、まだ戦闘学特論の講義が終わったばかり(服従契約を結んでから2時間程しか経っていない)なのに、早くもこうして奇異の目に晒されるハメになっている……。

 うん……シェロン絡みで私へと羨望や嫉妬の視線を向けてくる女子生徒はいるものの、私絡みでそういった視線をシェロンへと向けている男子生徒がいないのがほんのちょっと――うん、本当にちょっとだけ、何かに負けた気がして切なくなっているのは勘違いだと思いたい。

 ……とにかく、その無遠慮な複数の視線やヒソヒソ話のせいで、お昼時ひるどきにも関わらず、いつものように学食や購買に直行出来ず、人混みを避けるように学園の外壁に沿って必要以上に大回りに寮へと帰ろうとしている始末だ。

 しかも、女子更衣室で着替えている最中に奇異の目で見続けられるのが嫌すぎて、戦闘学特論の講義が終わった途端、脱兎のごとく飛び出して来たため、現在の格好はその時に使用している黒地に赤いラインが入った体にピッタリフィットの体操服だ。もちろん、上下別れたタイプのモノであり、つなぎタイプのモノではない。

 ああ、そうそう、体操服が体にピッタリフィットなのは、魔力が組み込まれた服だから着用者の体に合わせての伸縮が自由自在になっているためだ。そのおかげで今は胸の辺りが苦しくないのが最高だ。じゃあ、学校指定の軍服せいふくもサイズ関係なくね? と思うかもしれないが、普段着にまでわざわざ魔力を練り込んだ服を着ても意味がないし、制作費がバカ高いから、やはり普通の服にするのが妥当だ。

 それでは、なんで魔力を組み込んだ服が戦闘学特論で必要になるのかということなのだが、この講義では文字通り『戦闘』が主である。必然的に危険度も上がり、この講義時には防護服となるこの体操着――ここでは、字面じづら的に戦闘服たいそうぎというのだけれど――が必要不可欠になる。

 私がシェロンと共にこの戦闘服たいそうぎを着て顔を出した時、ほとんどの学生がシェロンの首に首輪のようについた服従契約の黒い茨のような痣に気がついた。そして、なんと非常に嬉しくないことに、その黒い痣は私の左手首にもあり、私が主であることが即座にばれた。

 クッ、ここでの私の勉強不足さが悔やまれる!! 

 もし左手首の痣を知ってたら、私の方だけはリストバンドとかして隠せたのに!!!

 そう、たとえシェロンが首の痣を見せびらかすように 戦闘服たいそうぎの上着を手に持ち、黒いタンクトップ一枚で、その見事に引き締まった少し筋肉質(ムキムキってほどではないが、以外とガッシリしてて驚いた……いわゆる細マッチョというやつだろうか?)で綺麗な体を見せつけていても、私の方は隠せたのに!!!



 ……いや、隠せたか???
 この変態、私にベッタリくっついてるぞ?
 首輪をつけた相手なんて一目瞭然じゃないか?



 遅かれ早かれバレるんなら初めから諦めて開き直った方が良いのかもしれない……思わず虚ろな目で周囲にいる野次馬連中から目をそらす。

 服従契約……今はほとんどすたれたもので、主がする命令に従者は【何でも】従わなければいけない呪いの契約だ。

 普通の――良識的な考えをお持ちの方ならまあ使ったりなんかはしないだろうと思われているものだからこそ、皆さん興味本位で見に来ているのだろう。そのたくさんの野次馬達の声と視線を前に、やはり簡単には開き直ることができず、小さな唸り声を上げてしまう。

(うぅ、私は珍獣か何かか……)

「ルチア、どうしたの?」

「どうしたのって――あんたが私の下僕になったせいで、注目集めすぎて嫌になってるんだってーの!」

 思わず私の斜め後ろを歩いていた諸悪の根源――シェロンにグッと顔を近づけ小声で言うと、彼は頬を真っ赤にして、私から視線を逸らした。ちなみに、彼も私と同じで 戦闘服たいそうぎ姿だ。もちろん、今は上着のチャックをキッチリ上まであげさせているため、痣は見えない。

「??? そっちこそどうしたの?」

「あ、なんか、これでやっと皆公認のルチアの下僕になれたんだって思ったら、急に照れちゃっグハッ――」

 変なことを口走った彼のみぞおちに思い切りパンチを入れると、軽く吹き飛んだ彼が学校の外壁にぶち当たり、外壁が崩れた。

 その様子を見ていた周りの学生がサッと青ざめ、一瞬で私から距離を置いたのが分かった。たぶん、物理的な攻撃では敵わないと悟った彼らの防衛本能だろう。魔力での防御が可能な位置まで後退し、少しばかりの動揺が顔に表れている。そんな彼らに、私はここぞとばかりに睨みをきかせる。

 たぶん、あとひと押しでこの奇異な視線から解放される。

 私は少しばかりの殺気を視線に込め『さっさとどっか行けよ。見せもんじゃねーんだぞ?』と不良顔負けのガン飛ばしとやらをやると、彼らはそのままそそくさと去っていった。そんな彼らの背を見ながら、『フッ――勝ったぜ』(戦い(?)には勝ったけど、乙女としての何かは崩れ去った気がする)などと思っていると、シェロンとは違う澄んだ声が聞こえた。

「ルチアーノ、あ、会えてよかった……」

 か細い声がした方を見ると、シアン色の長い髪が風で舞うのを押さえながらこちらへと走り寄ってくる美青年の姿があった。

(うん、さっきの私よりもシアンの方が女の子らしいんだけど――?)

「……シアン、うん――今日の朝方ぶりだね☆」

 少しばかり乙女としての自信を喪失しながらも、私は精一杯明るい挨拶を返した。

(……強く生きるんだ、自分)

 そんな私に、彼は頬を染めて下を向いた。

「ああ、うん、その――」

 非常に可愛らしい反応だとは思ったが、下を向いたせいで見えなくなった群青色の瞳が残念だと思い、思わず彼の頬を両手で包んでしまう。私の行動に、彼は目を白黒させながら頬を真っ赤に染めた。

(あ――やっちゃったわ……私の体、思い立ったら即行動☆ しちゃうのやめようか? ……うーん、この後どうしよう?)
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