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第2章 深海の檻が軋む時
第29変 いろんなフラグ立ってますよ(前編)
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あの研究室の一件からシアンは変わった。
俯きがちだった顔をしっかりと上げ、今では群青色の理知的で綺麗な瞳がよく見えるようになった。睡眠不足も解消され、目の下の隈も見る形もない。そして――
「ルチアーノ、あ、明日の放課後も今日みたいに、僕の研究室に来てくれない?」
何かと私の周りに引っ付いてくるようになった。まだ外に出るのには抵抗があるのか、今と同じように自分のホームグラウンドである研究室に招待しようと思うところは変わらないみたいだけど、いい傾向だと思う。
(ただ、問題は……)
ちらりと横を見ると、私の視線に気付いたシェロンがニッコリと笑う。結構な至近距離でのその反応に思わずひきつった笑みを返した後、もう一度シアンを見ると、彼はシェロンをキッと睨んでいた。
「そろそろルチアーノと二人きりにしてくれないかな、変態さん?」
「俺はルチアの下僕。地の果てでもお供するから、それは無理な相談だね」
(なんだ、これ……)
シアンが自分の主張をキッパリ言いのけるのはすごくいい変化だと思う。
思うんだけど――
(どうしてこうなった?)
私の右腕にシアンがギュッと引っ付き、左腕にシェロンがガッチリ絡み付いている。
「ルチアーノが困ってるから離れてよ、この変態!」
「ルチアは根暗、お・ま・えに困ってるんだ。ルチアの下僕は俺だけで充分。おまえはお呼びじゃないってこと、理解したらどうだ?」
(……ああ、頭が痛い。ついでに腕も痛い)
ここが外でなくシアンの研究室である分だけマシだけど、たまーに外でも勃発するこの事件……正直、最近悩みの種だ。外からは楽しそうに騒ぐ女子学生達のキャッキャッとした声が聞こえるのがまた恨めしい。
(私も女の子達とキャッキャッウフフしたい……てか、この状況は何? 私はオモチャか何かか?)
「僕は下僕になんかならないよ! む、むしろ――」
(お、シアンの顔が赤くなった)
「??? 下僕希望じゃないのか?」
左側から聞こえたキョトンとしたシェロンの声に思わず呆れたため息が出てしまう。
「下僕になりたいなんて思う物好きはあんたくらいだと思うよ」
「じゃあ、ルチア――ルチアの下僕はこの先ずっと俺だけ?」
「ああ、はいはい、シェロンだけですよー」
私の投げやりな言葉に、左側のぬくもりが離れた。
(あれ? やけに素直だな)
「ルチアの下僕は俺だけって立ち位置があるなら、とりあえずは引く。ただし、根暗……お前がルチアにふさわしくないと見なしたら、俺は全力で引きはがすから――覚悟しておけよ?」
「い、言われなくても、僕だってルチアーノにふさわしい相手になれるように、が、頑張るから!」
(ん? あれ? 何? 下僕の立ち位置ってなんだか分からんけど、シェロンは私の父親か何か? しかも、シアンの今の発言だと――)
「!?」
(え、シアンとの間に恋愛フラグ立ってたとか!? いやいやいや、そんなまさか! だって、崖でファイト~、一発!!! 的なのをやらかしちゃう女だよ? 怪力で薬研粉々にした女だよ!?)
開いていた窓からふんわりと柔らかい風が入り込み、華やかで優しい花の香りが頬を撫で、背筋をつたった汗を冷やす。
「ルチア、俺は外で待ってるから何かあったら呼んで。君のためなら何があっても――そう、たとえ、素っ裸だったとしても駆けつけるから!」
「前半よかったのに後半ただの変態じゃん!? 頼むから服だけは着てくれ!!!」
シェロンが研究室から出ていき、私とシアンだけがそこに残される。
(――って、しまったあぁ!!! いつものくせでシェロンにツッコミいれてたら引きとどめ損ねた!)
「る、ルチアーノ……」
キュッと私の右腕に腕をからめた状態のまま、シアンが上目使いで私を見つめる。
(クッ――上目遣いとか! 無駄に可愛いし、反則でしょうが!?)
私が心の中でツッコミを入れていると、シアンは真剣な表情で口を開いた。
「ルチアーノ――僕、変わるよ」
一瞬ピンク色の変な雰囲気に流れるかと思って慌てていたのだが、思っていたのとは違うシアンの決意ある瞳とその言葉に嬉しくなり、私は元気よく頷く。
「うん、シアンなら変われるよ!」
「だから……ぼ、僕のこと、ずっと傍で見ててくれないかな?」
「うん!」
思わずこれに対しても元気よく頷いたが、その言葉の意味に思わず首をかしげてしまう。
「…………うん?」
(ちょっと待て……今の意味は――?)
「僕、強くはないけど、もっといろんな研究して、絶対に出世する。だから、だから、僕の――」
(え、待て待て待て、やっぱりシアンとの恋愛フラグ、いつの間にか回収しちゃってた!? で、でも、今のシアンならヤンデレ要素抜けてるっぽいし、怖くないからいいのか? いやいやいや、そういう問題じゃなくってですね、とりあえずこういうのはもっとずっと親交を深めてからにするべきだよね!? ああ、そ、それに、今はほら、恋愛とかに現抜かして死亡フラグ立てまくりたくないし、その――うん、とにかく、私には色々と早いですよねっ!?)
大混乱する中、シアンは顔を真っ赤にしながら言葉を続けようと息を吸う。右腕に伝わるシアンのいつもよりも高い体温に、こちらまで体温が高まっていくような気がする。
(いや、待って! マジで待って!! 誰かこういう時の上手な回避方法をっ!! 私、まだ心の準備がッ――)
俯きがちだった顔をしっかりと上げ、今では群青色の理知的で綺麗な瞳がよく見えるようになった。睡眠不足も解消され、目の下の隈も見る形もない。そして――
「ルチアーノ、あ、明日の放課後も今日みたいに、僕の研究室に来てくれない?」
何かと私の周りに引っ付いてくるようになった。まだ外に出るのには抵抗があるのか、今と同じように自分のホームグラウンドである研究室に招待しようと思うところは変わらないみたいだけど、いい傾向だと思う。
(ただ、問題は……)
ちらりと横を見ると、私の視線に気付いたシェロンがニッコリと笑う。結構な至近距離でのその反応に思わずひきつった笑みを返した後、もう一度シアンを見ると、彼はシェロンをキッと睨んでいた。
「そろそろルチアーノと二人きりにしてくれないかな、変態さん?」
「俺はルチアの下僕。地の果てでもお供するから、それは無理な相談だね」
(なんだ、これ……)
シアンが自分の主張をキッパリ言いのけるのはすごくいい変化だと思う。
思うんだけど――
(どうしてこうなった?)
私の右腕にシアンがギュッと引っ付き、左腕にシェロンがガッチリ絡み付いている。
「ルチアーノが困ってるから離れてよ、この変態!」
「ルチアは根暗、お・ま・えに困ってるんだ。ルチアの下僕は俺だけで充分。おまえはお呼びじゃないってこと、理解したらどうだ?」
(……ああ、頭が痛い。ついでに腕も痛い)
ここが外でなくシアンの研究室である分だけマシだけど、たまーに外でも勃発するこの事件……正直、最近悩みの種だ。外からは楽しそうに騒ぐ女子学生達のキャッキャッとした声が聞こえるのがまた恨めしい。
(私も女の子達とキャッキャッウフフしたい……てか、この状況は何? 私はオモチャか何かか?)
「僕は下僕になんかならないよ! む、むしろ――」
(お、シアンの顔が赤くなった)
「??? 下僕希望じゃないのか?」
左側から聞こえたキョトンとしたシェロンの声に思わず呆れたため息が出てしまう。
「下僕になりたいなんて思う物好きはあんたくらいだと思うよ」
「じゃあ、ルチア――ルチアの下僕はこの先ずっと俺だけ?」
「ああ、はいはい、シェロンだけですよー」
私の投げやりな言葉に、左側のぬくもりが離れた。
(あれ? やけに素直だな)
「ルチアの下僕は俺だけって立ち位置があるなら、とりあえずは引く。ただし、根暗……お前がルチアにふさわしくないと見なしたら、俺は全力で引きはがすから――覚悟しておけよ?」
「い、言われなくても、僕だってルチアーノにふさわしい相手になれるように、が、頑張るから!」
(ん? あれ? 何? 下僕の立ち位置ってなんだか分からんけど、シェロンは私の父親か何か? しかも、シアンの今の発言だと――)
「!?」
(え、シアンとの間に恋愛フラグ立ってたとか!? いやいやいや、そんなまさか! だって、崖でファイト~、一発!!! 的なのをやらかしちゃう女だよ? 怪力で薬研粉々にした女だよ!?)
開いていた窓からふんわりと柔らかい風が入り込み、華やかで優しい花の香りが頬を撫で、背筋をつたった汗を冷やす。
「ルチア、俺は外で待ってるから何かあったら呼んで。君のためなら何があっても――そう、たとえ、素っ裸だったとしても駆けつけるから!」
「前半よかったのに後半ただの変態じゃん!? 頼むから服だけは着てくれ!!!」
シェロンが研究室から出ていき、私とシアンだけがそこに残される。
(――って、しまったあぁ!!! いつものくせでシェロンにツッコミいれてたら引きとどめ損ねた!)
「る、ルチアーノ……」
キュッと私の右腕に腕をからめた状態のまま、シアンが上目使いで私を見つめる。
(クッ――上目遣いとか! 無駄に可愛いし、反則でしょうが!?)
私が心の中でツッコミを入れていると、シアンは真剣な表情で口を開いた。
「ルチアーノ――僕、変わるよ」
一瞬ピンク色の変な雰囲気に流れるかと思って慌てていたのだが、思っていたのとは違うシアンの決意ある瞳とその言葉に嬉しくなり、私は元気よく頷く。
「うん、シアンなら変われるよ!」
「だから……ぼ、僕のこと、ずっと傍で見ててくれないかな?」
「うん!」
思わずこれに対しても元気よく頷いたが、その言葉の意味に思わず首をかしげてしまう。
「…………うん?」
(ちょっと待て……今の意味は――?)
「僕、強くはないけど、もっといろんな研究して、絶対に出世する。だから、だから、僕の――」
(え、待て待て待て、やっぱりシアンとの恋愛フラグ、いつの間にか回収しちゃってた!? で、でも、今のシアンならヤンデレ要素抜けてるっぽいし、怖くないからいいのか? いやいやいや、そういう問題じゃなくってですね、とりあえずこういうのはもっとずっと親交を深めてからにするべきだよね!? ああ、そ、それに、今はほら、恋愛とかに現抜かして死亡フラグ立てまくりたくないし、その――うん、とにかく、私には色々と早いですよねっ!?)
大混乱する中、シアンは顔を真っ赤にしながら言葉を続けようと息を吸う。右腕に伝わるシアンのいつもよりも高い体温に、こちらまで体温が高まっていくような気がする。
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