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サブイベントep1
第44変 ルチアvs植物型モンスター(後編)
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植物型モンスターがネバネバとした紫色の毒液を撒き散らしながら太い六本の蔦を鞭のように振り下ろしてくる。
「クッ――」
鞭で応戦するが、強靭な蔦には歯が立たずに振り払われてしまった。
(鞭の形状だと流石に無理か……じゃあ――)
弾かれた勢いを利用し、体を大きく回転させながら鞭へと魔力を流す。
(鞭じゃなく、切れ味が良いモノにすればッ――)
物質変形を司る土属性の魔力を鞭へと流し込み、先端だけを鎌状に変える。そのまま先程と同じように迫ってきた蔦をなぎ払うように振るうと、毒液と四本の蔦が宙を舞った。
(よし、これなら!!!)
最後に鞭の先端を槍状に変化させてモンスターの本体に深々と突き刺し、火属性を付加した魔力を流し込む。毒を含んだ蔦が必死に鞭へと絡みつくが、私は気にせずにその蔦ごと焼き払った。
本当はこのタイミングでモンスターに突き刺さった鞭を縮め、自らモンスターの本体に飛び込み、拳で全てを終わらせたいところだが……今日は中距離戦闘の練習のため、グッとこらえる。
その時ふと足の裏に微振動を感じ、咄嗟に鞭を引き抜き左へと飛ぶ。瞬間、大きなトゲ状の幹が地面から突き出てきた。それをギリギリのところでかわしたが、腕にひりつくような痛みを感じ、思わず舌打ちをしてしまう。
地面は絶えず振動しており、右へ左へと動く度に、先程までいた場所に幹が突き出る。最初の一撃で魔力の膜ごと腕を切りつけられたせいで、動く度に赤い液体が舞い散るのが視界の端に見える。いつもならすぐに治る傷がなかなか塞がらない。
チラリと腕を見ると、パックリと割れた赤い傷跡の周りが紫色に変色していた。
(うっわ――腕の傷から毒の侵食受けてる……早くカタをつけなくちゃ)
毒を受けたせいでジワジワと……だが、確実に動きが鈍くなっているのが分かる。勝負を急ぎすぎて大怪我はしたくないが、逃げ回ったまま戦闘不能に陥るのも勘弁願いたい。
アッという間に針山地獄へと化した惨状の中、なんとか大きく飛躍して空中で体勢を立て直す。案の定、大きなトゲ状の幹と復活した六本の蔦が襲ってきたが、体をひねり幹をかわす。ついでに、その幹の横を蹴り飛ばすことで蔦との間合いを狂わせ、炎を纏わせた鞭で全ての蔦をなぎ払う。
狂ったように幹の針山を築いていくモンスターだが、その大針が逆に空中での私の足場になった。突き出てくる足場を利用し、一気に距離を詰めた瞬間、勝ちを確信した私の口角が自然と上がった。
(これで終わりだ!!)
炎を一層強くし、鞭を蛇腹剣のように変えた私は、モンスターの体を切り刻んだ。甲高い断末魔の奇声を上げたモンスターは、毒液を飛び散らかしながら崩れ落ちる。飛散した毒液が私の魔力の膜にあたり、ジュッという音と共に蒸気となった。
最後の足掻きとばかりに一際太い蔦が後方から迫ってきたが、魔力を込めた鞭で軽く吹き飛ばし、粉々に砕く。
(これぐらいなら見なくても音で分かっちゃうからなあ。うん、獣人って便利だよね。あ、今度感覚強化のために目隠しで戦えるか挑戦するのもありかも……)
モンスターが完全に息絶えたのと同時に空間が歪み、最初にいた全面白塗りの部屋に戻った。次いで、淡い白い光が辺りを覆い、右腕に負った傷の痛みと体に回っていた毒が癒えていく。
全てが終わると、中央に浮かんでいた赤い球体が青色に変わり、訓練の終了を教えてくれた。
そのまま訓練室を退室し、廊下へと出る。赤い床に白い壁。辺りをふわふわと漂っている魔力の明かり。最近では見慣れてしまったこの廊下の光景……。
魔力の明かりに照らされた右腕をジッと見つめる。先程まで毒々しい色の傷があったそこが、今は綺麗に塞がっている。その肌を左手でサラリと撫でると、あまりにもいつも通りの肌触り(なんならいつもより良いくらい)に、怪我なんてしていなかったのではないかと錯覚さえしてしまう。
「ああ、でも、やっちゃったんだよね……本当はノーダメでクリアしたかったのに――」
思わずため息混じりに恨み言をこぼす。
「えぇ! でも、レベル70でノーダメってかなりキツイッスよ?」
「どっわあぁ!!!」
突然後ろから耳元で囁かれ、驚きのあまり叫び声と共にパンチを繰り出したが、サッとかわされる。
「もう、いきなり攻撃してくるなんてヒドイッスよ! 君と俺の仲なのに~」
口を尖らせながらそう言う茶髪の男。無性に腹の立つことではあるが、私は一度もコイツ――リヒトに……攻撃が当たったためしがないどころか、気配を察知できたためしもない。無意識下で放った一撃ではあるが、かわされ続けているのはどうにも癪に触るし、気配が察知できないのは心臓に悪い。
「別にアンタとはそんなに深い仲じゃないでしょーが」
「ルチアってば本当にヒドイッス――もう、あの夜のことを忘れてしまったって言うんッスか!?」
そんなことをのたまう彼を思わず冷めた目で見つめてしまう。ちなみに、リヒトも例に漏れずイケメンだ。正直、ゲームでは姿すら見たことはないけど……。
彼の明るめの猫毛の茶髪はやや外ハネ気味で、首元くらいまでの長さだ。でも、彼の一番のチャームポイントは彼から見て右側の少し長めに伸ばした横髪の一房――それが、三つ編みになってるってところだ。男なのに三つ編み……でも、イケメンならどんな髪型でも似合ってしまうパラダイス!
複雑な文様が刻まれたマゼンタ色の留め具で止められた三つ編みが、彼の動きに合わせ揺れる。
「本当に忘れてしまったんッスか?」
うるりと潤む茶色い瞳に、今度はため息が漏れた。
あ、可愛すぎてとか美しすぎてとか、そういう感嘆のため息ではない。わざとらしすぎて漏れたため息だ。
「あの夜のことは忘れもしないよ? アンタが部屋に押しかけてきてす・ご・く迷惑だったからね」
満面の笑みで嫌味を言ってやるが、彼はニコニコと笑っている。
「だって、ルチアがいけないんッスよ? 週末に出す予定の投票用紙を出してなかったんッスから」
投票用紙……この学校にある制度の一つで、いわゆる人気投票なるものだ。毎週末、誰が誰を好きかを書いて投票するという非常に面倒な制度であり、これは【異種族交配】のための制度の一環でもある。
簡潔に言うと、あわよくば両思いの生徒を見つけてくっつけてしまおうというはた迷惑な制度なのだ。
正直、無闇に人の恋愛事情に首を突っ込まないでほしいと思う。まあ、これも【キスイタ】内で攻略対象の執着度を上げる選択肢の一つではあったのだから、仕方のないことだとは思うけど……。
思わずため息をつきながら、リヒトを軽く睨む。
「だからって部屋まで来ないでよ。どうせいつも通り【好きな人はなし】なんだし」
「もしかしたら変わってるかもしれないじゃないッスか! 恋なんて一瞬で落ちるモノッスよ!? それが今日かもしれないし、明日かもしれない――」
一度言葉を切り、リヒトはその長い茶色いまつ毛をスッと伏せ、妖艶に微笑んだ。
「そんなのルチア、君にすら分からないモノなんスよ?」
「クッ――」
鞭で応戦するが、強靭な蔦には歯が立たずに振り払われてしまった。
(鞭の形状だと流石に無理か……じゃあ――)
弾かれた勢いを利用し、体を大きく回転させながら鞭へと魔力を流す。
(鞭じゃなく、切れ味が良いモノにすればッ――)
物質変形を司る土属性の魔力を鞭へと流し込み、先端だけを鎌状に変える。そのまま先程と同じように迫ってきた蔦をなぎ払うように振るうと、毒液と四本の蔦が宙を舞った。
(よし、これなら!!!)
最後に鞭の先端を槍状に変化させてモンスターの本体に深々と突き刺し、火属性を付加した魔力を流し込む。毒を含んだ蔦が必死に鞭へと絡みつくが、私は気にせずにその蔦ごと焼き払った。
本当はこのタイミングでモンスターに突き刺さった鞭を縮め、自らモンスターの本体に飛び込み、拳で全てを終わらせたいところだが……今日は中距離戦闘の練習のため、グッとこらえる。
その時ふと足の裏に微振動を感じ、咄嗟に鞭を引き抜き左へと飛ぶ。瞬間、大きなトゲ状の幹が地面から突き出てきた。それをギリギリのところでかわしたが、腕にひりつくような痛みを感じ、思わず舌打ちをしてしまう。
地面は絶えず振動しており、右へ左へと動く度に、先程までいた場所に幹が突き出る。最初の一撃で魔力の膜ごと腕を切りつけられたせいで、動く度に赤い液体が舞い散るのが視界の端に見える。いつもならすぐに治る傷がなかなか塞がらない。
チラリと腕を見ると、パックリと割れた赤い傷跡の周りが紫色に変色していた。
(うっわ――腕の傷から毒の侵食受けてる……早くカタをつけなくちゃ)
毒を受けたせいでジワジワと……だが、確実に動きが鈍くなっているのが分かる。勝負を急ぎすぎて大怪我はしたくないが、逃げ回ったまま戦闘不能に陥るのも勘弁願いたい。
アッという間に針山地獄へと化した惨状の中、なんとか大きく飛躍して空中で体勢を立て直す。案の定、大きなトゲ状の幹と復活した六本の蔦が襲ってきたが、体をひねり幹をかわす。ついでに、その幹の横を蹴り飛ばすことで蔦との間合いを狂わせ、炎を纏わせた鞭で全ての蔦をなぎ払う。
狂ったように幹の針山を築いていくモンスターだが、その大針が逆に空中での私の足場になった。突き出てくる足場を利用し、一気に距離を詰めた瞬間、勝ちを確信した私の口角が自然と上がった。
(これで終わりだ!!)
炎を一層強くし、鞭を蛇腹剣のように変えた私は、モンスターの体を切り刻んだ。甲高い断末魔の奇声を上げたモンスターは、毒液を飛び散らかしながら崩れ落ちる。飛散した毒液が私の魔力の膜にあたり、ジュッという音と共に蒸気となった。
最後の足掻きとばかりに一際太い蔦が後方から迫ってきたが、魔力を込めた鞭で軽く吹き飛ばし、粉々に砕く。
(これぐらいなら見なくても音で分かっちゃうからなあ。うん、獣人って便利だよね。あ、今度感覚強化のために目隠しで戦えるか挑戦するのもありかも……)
モンスターが完全に息絶えたのと同時に空間が歪み、最初にいた全面白塗りの部屋に戻った。次いで、淡い白い光が辺りを覆い、右腕に負った傷の痛みと体に回っていた毒が癒えていく。
全てが終わると、中央に浮かんでいた赤い球体が青色に変わり、訓練の終了を教えてくれた。
そのまま訓練室を退室し、廊下へと出る。赤い床に白い壁。辺りをふわふわと漂っている魔力の明かり。最近では見慣れてしまったこの廊下の光景……。
魔力の明かりに照らされた右腕をジッと見つめる。先程まで毒々しい色の傷があったそこが、今は綺麗に塞がっている。その肌を左手でサラリと撫でると、あまりにもいつも通りの肌触り(なんならいつもより良いくらい)に、怪我なんてしていなかったのではないかと錯覚さえしてしまう。
「ああ、でも、やっちゃったんだよね……本当はノーダメでクリアしたかったのに――」
思わずため息混じりに恨み言をこぼす。
「えぇ! でも、レベル70でノーダメってかなりキツイッスよ?」
「どっわあぁ!!!」
突然後ろから耳元で囁かれ、驚きのあまり叫び声と共にパンチを繰り出したが、サッとかわされる。
「もう、いきなり攻撃してくるなんてヒドイッスよ! 君と俺の仲なのに~」
口を尖らせながらそう言う茶髪の男。無性に腹の立つことではあるが、私は一度もコイツ――リヒトに……攻撃が当たったためしがないどころか、気配を察知できたためしもない。無意識下で放った一撃ではあるが、かわされ続けているのはどうにも癪に触るし、気配が察知できないのは心臓に悪い。
「別にアンタとはそんなに深い仲じゃないでしょーが」
「ルチアってば本当にヒドイッス――もう、あの夜のことを忘れてしまったって言うんッスか!?」
そんなことをのたまう彼を思わず冷めた目で見つめてしまう。ちなみに、リヒトも例に漏れずイケメンだ。正直、ゲームでは姿すら見たことはないけど……。
彼の明るめの猫毛の茶髪はやや外ハネ気味で、首元くらいまでの長さだ。でも、彼の一番のチャームポイントは彼から見て右側の少し長めに伸ばした横髪の一房――それが、三つ編みになってるってところだ。男なのに三つ編み……でも、イケメンならどんな髪型でも似合ってしまうパラダイス!
複雑な文様が刻まれたマゼンタ色の留め具で止められた三つ編みが、彼の動きに合わせ揺れる。
「本当に忘れてしまったんッスか?」
うるりと潤む茶色い瞳に、今度はため息が漏れた。
あ、可愛すぎてとか美しすぎてとか、そういう感嘆のため息ではない。わざとらしすぎて漏れたため息だ。
「あの夜のことは忘れもしないよ? アンタが部屋に押しかけてきてす・ご・く迷惑だったからね」
満面の笑みで嫌味を言ってやるが、彼はニコニコと笑っている。
「だって、ルチアがいけないんッスよ? 週末に出す予定の投票用紙を出してなかったんッスから」
投票用紙……この学校にある制度の一つで、いわゆる人気投票なるものだ。毎週末、誰が誰を好きかを書いて投票するという非常に面倒な制度であり、これは【異種族交配】のための制度の一環でもある。
簡潔に言うと、あわよくば両思いの生徒を見つけてくっつけてしまおうというはた迷惑な制度なのだ。
正直、無闇に人の恋愛事情に首を突っ込まないでほしいと思う。まあ、これも【キスイタ】内で攻略対象の執着度を上げる選択肢の一つではあったのだから、仕方のないことだとは思うけど……。
思わずため息をつきながら、リヒトを軽く睨む。
「だからって部屋まで来ないでよ。どうせいつも通り【好きな人はなし】なんだし」
「もしかしたら変わってるかもしれないじゃないッスか! 恋なんて一瞬で落ちるモノッスよ!? それが今日かもしれないし、明日かもしれない――」
一度言葉を切り、リヒトはその長い茶色いまつ毛をスッと伏せ、妖艶に微笑んだ。
「そんなのルチア、君にすら分からないモノなんスよ?」
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