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Ⅵ 水中の図書室
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不思議なチェシャ猫が消えた後、私はスライム矢印に従ってある教室へと行き着いた。
ドアを開けると、たくさんの本が収まった棚がズラッと並んでいた。図書室であろうその教室の中には、まるで海の中の一部を切り取ってきたかのような美しい光景が広がっていた。
ゆらゆらと揺れる穏やかな水の流れに、天井から差し込む光の筋、時折どこからか生まれてくる細かい泡、優雅に泳ぐ白い魚達は宝石のようにキラキラと輝く色とりどりの目を持って――そう、綺麗な目を持って――
(――ってか、骨格標本の魚が泳いでるんですけど! その目の空洞にキラキラの石がただ埋まってるだけなんですけど!? 正直、怖すぎる。周りが幻想的な分、余計怖すぎる!!!)
半ばパニックを起こしていると、教室の中から黒縁メガネをかけた真面目そうな青年がちょこちょことやってきた。不思議なことに、水中教室(?)の中にいる彼が着ている藍色のパーカーも、ジーンズも、彼の黒くて柔らかそうな髪でさえ、一切濡れているように見えなかった。
「あの、ど、どうぞ。中でも呼吸はできますし、濡れません。ただの魔法なので」
緊張しているのか多少早口ではあるが、一生懸命教室の中に招き入れようとする彼は、私が水中に入ることに躊躇していると勘違いしているようだった。
「あ、じゃあ、お邪魔します」
せっかく声をかけてもらったのに突っ立っているのも変だと思い、部屋の中に入ろうとするが、さすがに顔から入るのは怖いと感じ、そっと指を教室内に入れてみる。指先では特に水中という感触もなく、普通の空気があるように感じられる。
そこで、思い切って踏み出してみると、まるでフィルターを通して物を見ているような不思議な感覚になった。無意識に止めてしまっていた息を吐き出すと、コポコポと口から泡が生まれ、上へと登っていく。呼吸が正常にできることを確認して安心すると、ついつい、いつぞやの水族館で見たイルカのように輪っかの泡が作れないかと遊びたくなってしまう。もちろん、黒縁メガネの青年が目の前にいるのでやらないが……。
そうやって始めての体験に高揚を隠せずにいると、不意に骨だけの魚が傍に寄ってきて、ビクリと身を引いてしまった。私の反応に、骨魚も驚いたのか(あの骨に意思があるのかは分からないが……)、ピクッと踵を返し、スゴイ速度で本棚の裏に隠れてしまった。そんな私の様子に、黒縁メガネの青年が可愛い八重歯を軽く出して二カリと笑った。
「あ、大丈夫ですよ。ここの魚達は温厚な性格なので」
その時、青年の後ろでふさふさと揺れる大きな茶色い尻尾に目がいく。ついで、青年の頭上でピクピクと動く垂れた同じく茶色い耳を見てピンとくる。
「犬?」
「ああ、はい、山犬なんです。その、よろしくお願いします」
早口で落ち着きなく話し、照れたように俯いてしまった彼の可愛さになんとなく癒される。
「その……ここはコチラ側の世界の図書管理室にもなってるので、ここにある蔵書は傷つけないようお願いします」
「え――もしかして、ここにある本全部が化物の本なの?」
私の言葉に、彼は少々不機嫌そうに一瞬だけ毛を逆立てた。
「化物――まあ、あなた達人間からしたらそうなりますか……とりあえず、ここにある本は全て人間が書いたものではありません。そして、イベントに参加しているあなたには宝石の中にあるこの三冊の本のいずれかに入ってもらい、スタンプを入手してもらうことになります」
机の上に置かれた大きな宝石の中にある本は、【白雪姫】【赤ずきん】【青い鳥】。全て、元の世界で読んだことがある絵本だった。それぞれの表紙に描かれたファンシーな子供向けの絵に、なんとなくホッとする。
(スプラッタとかグロイ系の本とかじゃなくて良かった)
「あれ? でも、入るって――? 読むんじゃなく?」
「はい、入ってもらいます。この本の中に。入り方は簡単です。このサファイア――宝石に素手で触れて『仲間外れ見つけた』と言うだけでいいです。ただし、一般的にこの類の本は一度入ったら出られません」
「…………それ、どうしろって言うんでしょうか?」
「一般的な本は出られなくなりますが、仲間外れの本を見つけて、その本の中で【鍵】を入手できれば帰ってくることができます。ただ、本の中ではウソツキに気をつけてください」
(仲間外れに、ウソツキ?)
このフロアのイベントの趣旨はなんとなく分かったが、仲間外れが何を指していることなのかがさっぱり分からない。
「ええと――仲間外れのヒントとかってありますか?」
私の言葉に返答をする前に、山犬の大きな耳がピクリと反応し、胸元にある赤いスタッフの証がキラリと光る。山犬の視線の先をたどれば、ツギハギだらけの大きな体に、まるでスキーの時にかけるような大きな黒っぽいゴーグルをかけた青年(?)が、教室の隅にある椅子から立ち上がるところだった。彼が動くたびに、錆び付いた機械があげる悲鳴のような音と青色のスタッフ証が彼の硬い体に当たるカツンカツンという音が鳴り響く。
「ヒントならこの教室にあるじゃないデスカ。誰かに聞く前に、まず周りを見てみたらどうデスカ」
ムッとした表情のまま読んでいたらしい本を片手に本棚へと移動した彼は、なに食わぬ顔で新しい本を手にとった。
「まだ何か用デスカ?」
彼は、ポカンとして彼を見続けていた私に不機嫌そうな視線を向けてきた。冷たく光るゴーグルの中の赤と青のオッドアイに睨まれ、思わず小さな声で謝罪の言葉を発してしまう。
「ええと、彼はフランケンシュタインで――元人間なんですけど、改造人間で……その、あんまり落ち込まなくて大丈夫ですよ。フランケン先輩はいつもああなので」
山犬が耳をヘタリとさせながら私の様子をうかがう様子になんとなく癒されながら、私はフランケンに言われた通り教室内を見て回りヒントを探すことにした。
(言われた瞬間はムッとしたけど、フランケンさんの言う通り、まずは周りを見るべきだよね……うん)
そう考え、本を選んだら山犬に声をかけるということにし、本棚のあちこちを見てみるが、特別これといったヒントを見つけられず、時間だけが過ぎていった。時々近づいてくる骨だけの魚のギラギラ輝く宝石のような瞳に怯えながら、最後の本棚を覗く。
先程から代わり映えしない本棚ばかり見ていたため、特に期待していなかったそこには――本棚に背をあずけ気持ちよさそうに眠っている可愛らしい女性がいた。水色のドレスにフリルをふんだんに使った白いエプロンとヘッドドレスのせいか少し幼く見える綺麗な横顔に、長く黒いロングヘア、膝の上には茶色の下地に金色の装飾が施されたアンティークのような本、そして、胸元には青いスタッフの証が煌めいていた。私は音を立てないようにそっと彼女に近づいた。
(うわあ、まつげ長いし、肌白い――)
失礼かなあと思いつつも、その天使のような寝顔をじぃっと見つめてしまう。そんな時、ぷっくりとした可愛らしいピンク色の唇が薄く開き、可愛らしい小さな声が聞こえた。
「あなたは――人間さんですか?」
「え――?」
目の前の女性のまぶたがゆっくりと開き、大きな黒い瞳がじぃっとこちらを見つめる。
「私はアリス。ねぇ、ここにいちゃダメになっちゃうよ? 逃げなきゃ――そう、逃げなきゃダメなの。アイツから――」
「えっと――寝ぼけてません?」
ギュッと私の手を掴んできたアリスに、私が困って声をかけると、アリスは数度瞬きを繰り返した後、寂しげに笑った。
「あ、そっか――私、まだ夢から覚めてないみたい」
その時、アリスの膝の上に置いてあったアンティークのような本がするりと落ちる。本の表紙にはファンシーな夜の森の絵が書かれており、夜空いっぱいに散りばめられた星と綺麗な三日月の間には金色の文字で【化物になった少女】と書かれていた。
「この絵本はね、化物が書いた本なの。ねぇ、時間がないの。この本を――」
「あ、アリスさん、こんなところにいたんですね。白ウサギ様が探してましたよ?」
アリスの言葉を遮ったのは山犬だった。一瞬だけアリスの表情がこわばり、山犬が首をかしげた。
「? どうかされましたか?」
「ううん、なんでもない。この本――よろしくね」
アリスは私に本を渡すと寂しげに笑った。何がよろしくなのかよく分からないまま、本を受け取った私に山犬がニッコリと微笑む。
「あ、本なら僕が――」
「ううん、あなたには別の用事があるから、一緒に行きましょう?」
アリスは、半ば強引に山犬の腕を引き、行ってしまった。後に残された私は、呆然とその姿を見送り、手の中にある本を見つめた。
(この本……とりあえず、読めってことなのかな? でも――本の中に入っちゃうものだったら……)
「気になるなら読んでみればいいじゃないデスカ。それは普通の絵本デスヨ」
「――ッ」
ギシギシという軋んだ音と共に、いつのまにか一つ隣の本棚にいたフランケンが、本棚の隙間から冷たいオッドアイをこちらへと向けていた。
「この本を開いたら中に入っちゃったりなんかは――」
「しませんよ。普通の本だって言ったじゃないデスカ。まあ、その言葉を信じないなら勝手にドウゾ」
そう言い残して、定位置の椅子へと戻ってしまったフランケンの周りには、先程から骨だけの魚達がまとわりつくように泳いでいるが、彼は鬱陶しそうにしながらも、決して手で払ったりはしなかった。
(フランケンさんはちょっと無愛想で怖いけど、優しい人――いや、今は優しい化物? なんだよね? だって、あの魚達があんなに懐いてるし!)
新しい本をすごい速さで読み上げていくフランケンのツギハギだらけの横顔を見た後、私は目の前の絵本を読む覚悟を決めた。恐る恐る本を開くと、ファンシーな絵が両開きのページいっぱいに書かれており、そこに少しの文章が添えられていた。
(あ、本当に普通の絵本と変わらないんだ……それに、タイトルと同じで中身も私に読める字でよかった)
化物の普通というのに少し身構えていた私は、知らず肩に入っていた力を抜き、ゆっくりとした気持ちで絵本の内容を読んでいった。
ドアを開けると、たくさんの本が収まった棚がズラッと並んでいた。図書室であろうその教室の中には、まるで海の中の一部を切り取ってきたかのような美しい光景が広がっていた。
ゆらゆらと揺れる穏やかな水の流れに、天井から差し込む光の筋、時折どこからか生まれてくる細かい泡、優雅に泳ぐ白い魚達は宝石のようにキラキラと輝く色とりどりの目を持って――そう、綺麗な目を持って――
(――ってか、骨格標本の魚が泳いでるんですけど! その目の空洞にキラキラの石がただ埋まってるだけなんですけど!? 正直、怖すぎる。周りが幻想的な分、余計怖すぎる!!!)
半ばパニックを起こしていると、教室の中から黒縁メガネをかけた真面目そうな青年がちょこちょことやってきた。不思議なことに、水中教室(?)の中にいる彼が着ている藍色のパーカーも、ジーンズも、彼の黒くて柔らかそうな髪でさえ、一切濡れているように見えなかった。
「あの、ど、どうぞ。中でも呼吸はできますし、濡れません。ただの魔法なので」
緊張しているのか多少早口ではあるが、一生懸命教室の中に招き入れようとする彼は、私が水中に入ることに躊躇していると勘違いしているようだった。
「あ、じゃあ、お邪魔します」
せっかく声をかけてもらったのに突っ立っているのも変だと思い、部屋の中に入ろうとするが、さすがに顔から入るのは怖いと感じ、そっと指を教室内に入れてみる。指先では特に水中という感触もなく、普通の空気があるように感じられる。
そこで、思い切って踏み出してみると、まるでフィルターを通して物を見ているような不思議な感覚になった。無意識に止めてしまっていた息を吐き出すと、コポコポと口から泡が生まれ、上へと登っていく。呼吸が正常にできることを確認して安心すると、ついつい、いつぞやの水族館で見たイルカのように輪っかの泡が作れないかと遊びたくなってしまう。もちろん、黒縁メガネの青年が目の前にいるのでやらないが……。
そうやって始めての体験に高揚を隠せずにいると、不意に骨だけの魚が傍に寄ってきて、ビクリと身を引いてしまった。私の反応に、骨魚も驚いたのか(あの骨に意思があるのかは分からないが……)、ピクッと踵を返し、スゴイ速度で本棚の裏に隠れてしまった。そんな私の様子に、黒縁メガネの青年が可愛い八重歯を軽く出して二カリと笑った。
「あ、大丈夫ですよ。ここの魚達は温厚な性格なので」
その時、青年の後ろでふさふさと揺れる大きな茶色い尻尾に目がいく。ついで、青年の頭上でピクピクと動く垂れた同じく茶色い耳を見てピンとくる。
「犬?」
「ああ、はい、山犬なんです。その、よろしくお願いします」
早口で落ち着きなく話し、照れたように俯いてしまった彼の可愛さになんとなく癒される。
「その……ここはコチラ側の世界の図書管理室にもなってるので、ここにある蔵書は傷つけないようお願いします」
「え――もしかして、ここにある本全部が化物の本なの?」
私の言葉に、彼は少々不機嫌そうに一瞬だけ毛を逆立てた。
「化物――まあ、あなた達人間からしたらそうなりますか……とりあえず、ここにある本は全て人間が書いたものではありません。そして、イベントに参加しているあなたには宝石の中にあるこの三冊の本のいずれかに入ってもらい、スタンプを入手してもらうことになります」
机の上に置かれた大きな宝石の中にある本は、【白雪姫】【赤ずきん】【青い鳥】。全て、元の世界で読んだことがある絵本だった。それぞれの表紙に描かれたファンシーな子供向けの絵に、なんとなくホッとする。
(スプラッタとかグロイ系の本とかじゃなくて良かった)
「あれ? でも、入るって――? 読むんじゃなく?」
「はい、入ってもらいます。この本の中に。入り方は簡単です。このサファイア――宝石に素手で触れて『仲間外れ見つけた』と言うだけでいいです。ただし、一般的にこの類の本は一度入ったら出られません」
「…………それ、どうしろって言うんでしょうか?」
「一般的な本は出られなくなりますが、仲間外れの本を見つけて、その本の中で【鍵】を入手できれば帰ってくることができます。ただ、本の中ではウソツキに気をつけてください」
(仲間外れに、ウソツキ?)
このフロアのイベントの趣旨はなんとなく分かったが、仲間外れが何を指していることなのかがさっぱり分からない。
「ええと――仲間外れのヒントとかってありますか?」
私の言葉に返答をする前に、山犬の大きな耳がピクリと反応し、胸元にある赤いスタッフの証がキラリと光る。山犬の視線の先をたどれば、ツギハギだらけの大きな体に、まるでスキーの時にかけるような大きな黒っぽいゴーグルをかけた青年(?)が、教室の隅にある椅子から立ち上がるところだった。彼が動くたびに、錆び付いた機械があげる悲鳴のような音と青色のスタッフ証が彼の硬い体に当たるカツンカツンという音が鳴り響く。
「ヒントならこの教室にあるじゃないデスカ。誰かに聞く前に、まず周りを見てみたらどうデスカ」
ムッとした表情のまま読んでいたらしい本を片手に本棚へと移動した彼は、なに食わぬ顔で新しい本を手にとった。
「まだ何か用デスカ?」
彼は、ポカンとして彼を見続けていた私に不機嫌そうな視線を向けてきた。冷たく光るゴーグルの中の赤と青のオッドアイに睨まれ、思わず小さな声で謝罪の言葉を発してしまう。
「ええと、彼はフランケンシュタインで――元人間なんですけど、改造人間で……その、あんまり落ち込まなくて大丈夫ですよ。フランケン先輩はいつもああなので」
山犬が耳をヘタリとさせながら私の様子をうかがう様子になんとなく癒されながら、私はフランケンに言われた通り教室内を見て回りヒントを探すことにした。
(言われた瞬間はムッとしたけど、フランケンさんの言う通り、まずは周りを見るべきだよね……うん)
そう考え、本を選んだら山犬に声をかけるということにし、本棚のあちこちを見てみるが、特別これといったヒントを見つけられず、時間だけが過ぎていった。時々近づいてくる骨だけの魚のギラギラ輝く宝石のような瞳に怯えながら、最後の本棚を覗く。
先程から代わり映えしない本棚ばかり見ていたため、特に期待していなかったそこには――本棚に背をあずけ気持ちよさそうに眠っている可愛らしい女性がいた。水色のドレスにフリルをふんだんに使った白いエプロンとヘッドドレスのせいか少し幼く見える綺麗な横顔に、長く黒いロングヘア、膝の上には茶色の下地に金色の装飾が施されたアンティークのような本、そして、胸元には青いスタッフの証が煌めいていた。私は音を立てないようにそっと彼女に近づいた。
(うわあ、まつげ長いし、肌白い――)
失礼かなあと思いつつも、その天使のような寝顔をじぃっと見つめてしまう。そんな時、ぷっくりとした可愛らしいピンク色の唇が薄く開き、可愛らしい小さな声が聞こえた。
「あなたは――人間さんですか?」
「え――?」
目の前の女性のまぶたがゆっくりと開き、大きな黒い瞳がじぃっとこちらを見つめる。
「私はアリス。ねぇ、ここにいちゃダメになっちゃうよ? 逃げなきゃ――そう、逃げなきゃダメなの。アイツから――」
「えっと――寝ぼけてません?」
ギュッと私の手を掴んできたアリスに、私が困って声をかけると、アリスは数度瞬きを繰り返した後、寂しげに笑った。
「あ、そっか――私、まだ夢から覚めてないみたい」
その時、アリスの膝の上に置いてあったアンティークのような本がするりと落ちる。本の表紙にはファンシーな夜の森の絵が書かれており、夜空いっぱいに散りばめられた星と綺麗な三日月の間には金色の文字で【化物になった少女】と書かれていた。
「この絵本はね、化物が書いた本なの。ねぇ、時間がないの。この本を――」
「あ、アリスさん、こんなところにいたんですね。白ウサギ様が探してましたよ?」
アリスの言葉を遮ったのは山犬だった。一瞬だけアリスの表情がこわばり、山犬が首をかしげた。
「? どうかされましたか?」
「ううん、なんでもない。この本――よろしくね」
アリスは私に本を渡すと寂しげに笑った。何がよろしくなのかよく分からないまま、本を受け取った私に山犬がニッコリと微笑む。
「あ、本なら僕が――」
「ううん、あなたには別の用事があるから、一緒に行きましょう?」
アリスは、半ば強引に山犬の腕を引き、行ってしまった。後に残された私は、呆然とその姿を見送り、手の中にある本を見つめた。
(この本……とりあえず、読めってことなのかな? でも――本の中に入っちゃうものだったら……)
「気になるなら読んでみればいいじゃないデスカ。それは普通の絵本デスヨ」
「――ッ」
ギシギシという軋んだ音と共に、いつのまにか一つ隣の本棚にいたフランケンが、本棚の隙間から冷たいオッドアイをこちらへと向けていた。
「この本を開いたら中に入っちゃったりなんかは――」
「しませんよ。普通の本だって言ったじゃないデスカ。まあ、その言葉を信じないなら勝手にドウゾ」
そう言い残して、定位置の椅子へと戻ってしまったフランケンの周りには、先程から骨だけの魚達がまとわりつくように泳いでいるが、彼は鬱陶しそうにしながらも、決して手で払ったりはしなかった。
(フランケンさんはちょっと無愛想で怖いけど、優しい人――いや、今は優しい化物? なんだよね? だって、あの魚達があんなに懐いてるし!)
新しい本をすごい速さで読み上げていくフランケンのツギハギだらけの横顔を見た後、私は目の前の絵本を読む覚悟を決めた。恐る恐る本を開くと、ファンシーな絵が両開きのページいっぱいに書かれており、そこに少しの文章が添えられていた。
(あ、本当に普通の絵本と変わらないんだ……それに、タイトルと同じで中身も私に読める字でよかった)
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