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ひとしきりそうやってお互いを確かめ合ったあと、私はふとあることを思い出した。
「あの、お父様……彼……ジュレは一体誰なんですか」
「ああ。ジュレは君の婚約者だ。精霊の加護を受けたものは、産まれてすぐにその精霊が生涯の伴侶を選ぶのだ。君は覚えていないかもしれないが、ジュレは赤ん坊の君と対面して正式に婚約を済ませた仲なのだよ」
「ポーリーンを見た瞬間、天使だと思ったのは間違いじゃなかった。君は僕の運命だったんだ」
片目をつむって見せるジュレの笑顔が眩しくて、頬がかっと熱を持つのがわかった。
「ポーニー! たのむ、セイヴィアにとりなしてくれ」
「お願いよポーニー! 私たちの仲でしょう!」
「おい! お前、いい加減にしろ!」
「お姉様、やめてよ!」
優しい雰囲気を壊すようにグラス家の面々が叫んでいる。
セイヴィアお父様が彼らを射殺さんばかりに睨み付ける。
「貴様らは私からアドレットを奪っただけでは飽き足らず、愛しいポーリーンとその力まで奪った。精霊の悪用、王太子殿下の暗殺未遂……お前たちにはこれから死ぬよりも苦しい目に遭って貰うぞ」
「ひ、ひぃいい……!」
お父様とお母様だった人たちは泡を吹き、その場に倒れてしまった。
妹はわけがわからないという顔をしてその場にへたり込んでしまう。
「認めないぞ! そんな灰被り! 俺は認めない!!」
ただひとり、お兄様だけは声を荒らげたままだ。
周りを囲む兵士に体当たりをし、私に向かってまっすぐに走ってくる。
「僕のポーリーンに近づくなよ」
「ガッ……!!」
お兄様をジュレが蹴り上げた。床に倒れたお兄様は口から半透明の液体を吐き出し、身体を痙攣させている。
ジュレはためらいのない動きでその背中を踏みつける。
「お前はずっとポーリーンを虐げてきた。絶対に許さない」
「ぐ、ぐ……ポー、ニー……たす、け」
お兄様の手が私に伸ばされる。
思わず反応しそうになった私の視界を、セイヴィアお父様の手のひらがふさいだ。
優しい声が鼓膜を震わせる。
「見なくていい。これから君が目にするのは、美しいものだけだ」
「そうだよポーリーン。これからは僕たちが君を誰よりも幸せにしてあげるよ」
それから、私は本当の家族であるセイヴィアお父様と婚約者であったジュレとともに暮らすことになった。
私の灰色の髪は力を奪われていたせいでくすんでいただけで、本来は銀色だったこともわかった。瞳もだ。
力を取り戻した今では全ての楽器を思い通りに奏でられ、どんな歌も歌える。
これまでの孤独を埋めたいと、セイヴィアお父様とジュレは溺れるほどの愛情を注いでくれる。
グラス家の人々はその殆どが処刑、投獄された。
お兄様は私への暴言を続けたため、舌を抜かれて幽閉されているという。
妹だけは何も知らなかったことを理由に、遠くの修道院に預けられたらしい。
シャンテ家の汚名は雪がれ、私の本当のお母様であるアドレットの名誉は回復された。
そして白銀のシャンテ家は復興。私は跡取り娘としてジュレと結婚した。
ジュレは私の気配をずっと探していてくれたらしい。
グラス家は私を巧妙に隠していたため、見つけられなかったそうだ。
あの雪の日も、なにか情報は無いかと歩き回っていたのだという。
「どうして私を忘れなかったの? 16年よ?」
「精霊の気配で君が生きていることはわかっていたからね」
「だからって……」
「君と僕は運命なんだよポーリーン。赤ちゃんの君を見た時、僕は君を幸せにしたいと思った。そして大人になった君は僕を助けてくれた。その優しさに僕はもういちど恋に落ちたんだ」
「ジュレ……」
「愛してるよポーリーン。これからはたくさんの歌を聴かせてくれ」
「もちろん」
愛しい夫の腕の中で、私は今日も幸せな歌を口ずさんでいる。
「あの、お父様……彼……ジュレは一体誰なんですか」
「ああ。ジュレは君の婚約者だ。精霊の加護を受けたものは、産まれてすぐにその精霊が生涯の伴侶を選ぶのだ。君は覚えていないかもしれないが、ジュレは赤ん坊の君と対面して正式に婚約を済ませた仲なのだよ」
「ポーリーンを見た瞬間、天使だと思ったのは間違いじゃなかった。君は僕の運命だったんだ」
片目をつむって見せるジュレの笑顔が眩しくて、頬がかっと熱を持つのがわかった。
「ポーニー! たのむ、セイヴィアにとりなしてくれ」
「お願いよポーニー! 私たちの仲でしょう!」
「おい! お前、いい加減にしろ!」
「お姉様、やめてよ!」
優しい雰囲気を壊すようにグラス家の面々が叫んでいる。
セイヴィアお父様が彼らを射殺さんばかりに睨み付ける。
「貴様らは私からアドレットを奪っただけでは飽き足らず、愛しいポーリーンとその力まで奪った。精霊の悪用、王太子殿下の暗殺未遂……お前たちにはこれから死ぬよりも苦しい目に遭って貰うぞ」
「ひ、ひぃいい……!」
お父様とお母様だった人たちは泡を吹き、その場に倒れてしまった。
妹はわけがわからないという顔をしてその場にへたり込んでしまう。
「認めないぞ! そんな灰被り! 俺は認めない!!」
ただひとり、お兄様だけは声を荒らげたままだ。
周りを囲む兵士に体当たりをし、私に向かってまっすぐに走ってくる。
「僕のポーリーンに近づくなよ」
「ガッ……!!」
お兄様をジュレが蹴り上げた。床に倒れたお兄様は口から半透明の液体を吐き出し、身体を痙攣させている。
ジュレはためらいのない動きでその背中を踏みつける。
「お前はずっとポーリーンを虐げてきた。絶対に許さない」
「ぐ、ぐ……ポー、ニー……たす、け」
お兄様の手が私に伸ばされる。
思わず反応しそうになった私の視界を、セイヴィアお父様の手のひらがふさいだ。
優しい声が鼓膜を震わせる。
「見なくていい。これから君が目にするのは、美しいものだけだ」
「そうだよポーリーン。これからは僕たちが君を誰よりも幸せにしてあげるよ」
それから、私は本当の家族であるセイヴィアお父様と婚約者であったジュレとともに暮らすことになった。
私の灰色の髪は力を奪われていたせいでくすんでいただけで、本来は銀色だったこともわかった。瞳もだ。
力を取り戻した今では全ての楽器を思い通りに奏でられ、どんな歌も歌える。
これまでの孤独を埋めたいと、セイヴィアお父様とジュレは溺れるほどの愛情を注いでくれる。
グラス家の人々はその殆どが処刑、投獄された。
お兄様は私への暴言を続けたため、舌を抜かれて幽閉されているという。
妹だけは何も知らなかったことを理由に、遠くの修道院に預けられたらしい。
シャンテ家の汚名は雪がれ、私の本当のお母様であるアドレットの名誉は回復された。
そして白銀のシャンテ家は復興。私は跡取り娘としてジュレと結婚した。
ジュレは私の気配をずっと探していてくれたらしい。
グラス家は私を巧妙に隠していたため、見つけられなかったそうだ。
あの雪の日も、なにか情報は無いかと歩き回っていたのだという。
「どうして私を忘れなかったの? 16年よ?」
「精霊の気配で君が生きていることはわかっていたからね」
「だからって……」
「君と僕は運命なんだよポーリーン。赤ちゃんの君を見た時、僕は君を幸せにしたいと思った。そして大人になった君は僕を助けてくれた。その優しさに僕はもういちど恋に落ちたんだ」
「ジュレ……」
「愛してるよポーリーン。これからはたくさんの歌を聴かせてくれ」
「もちろん」
愛しい夫の腕の中で、私は今日も幸せな歌を口ずさんでいる。
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