婚約破棄されたら推しに「大丈夫か?雄っぱい揉むか?」と言われてしまいました

マチバリ

文字の大きさ
9 / 10

09

しおりを挟む

 それから。



 あれよあれよという間にプリムラとラウルスの婚約はまとまり、晴れて二人は正式な婚約者になった。

 会わせたい人が居ると連れ出された茶会にいたのは、なんとずっと案じていたスフィカだった。そしてその横には満面の笑みを浮かべたルカーノがいた。



「プリムラ!!」

「スフィカ様!」



 再会を喜び抱き合っていれば、プリムラはラウルスに、スフィカはルカーノによって引き剥がされ、それぞれの男の腕に抱きしめられる。



「スフィカ……いくら親友相手だからって、僕の前で他の人に抱きつくのはいただけないな」



 大切な宝物を抱いているような蕩けた笑みを浮かべて甘い声をささやくルカーノの姿にプリムラが目を丸くしていれば、頭上でラウルスが困ったような笑い声を上がる。



「まったく。心の狭い人だ」



 そういう自分はどうなのだとプリムラが視線を向ければ、黒い瞳が意地悪く微笑む。



「どういうことなのか説明してください!」

「そうだな。そろそろ種明かしの時間だ」



 四人でのお茶会でプリムラが知らされた真実は、予想を遙かに上回る内容だった。





 なんとベーテリンはミツバチの妖精ではなく、カマキリの妖精と契約した魔女だったのだ。

 その力を使い社交界の男たちを魅了し、身勝手な欲望を叶えていたらしい。

 耳触りのよい儲け話をもちかけ、身を削るような金儲けをさせてから貢がせるのは序の口。爵位まで売り払って自らを奴隷に落とした男性もいたそうだ。

 被害者の中にはかつて婚約者だったブラッタもいたと聞いて、プリムラは目を丸くした。



「あの男にはあの女に魅了される前から素行の悪さが目立っていたし、君にずっと酷い態度を取っていたことから同情の余地はないがね。金持ちの養子になれると信じて、ろくに内容を読まずに証文にサインをしたそうだ」

「証文?」

「自分を売り飛ばす、という証文さ」



 考えなしな行動が多いブラッタだったが、そこまでだったとは。

 悲しきかなその瞬間まで想像できてしまいプリムラは苦笑いを浮かべるしかない。



「でも、恐ろしい力ですね。自分を売り飛ばす事に疑問を持たないほど魅了されるなんて……」

「まあな。あの女に気に入られるためなら何でもしたくなるという。魅了と言うより呪いだな」

「ブラッタはどうなったのですか?」



 全くもって未練はないが、知らない間柄ではないので多少は気になる。

 ラウルスは少しだけ嫌そうな顔をしたものの、プリムラの気持ちを察してか話してくれた。



「不当な契約だったこともあり、身売りした貴族達は解放されている。無事に、とはいかないが、あの男もすでに屋敷に戻っているはずだ」

「そうですか……」



 ほっとするべきなのか何なのかわからない話にプリムラは苦笑いをうかべることしかできなかった。



「でも、どうして殿下は無事だったのです?」



 純粋な疑問を口にすれば、ルカーノがどこか自慢げな笑みを浮かべる。



「僕は王族だからね。代々王家を加護している精霊によって守護されているから、カマキリごときの魅了なんてきかないのさ」

「そうなんですか!」

「ああ。だが、スフィカはそうではない。だから、あんな嘘婚約破棄をついてしまったんだ」



 ルカーノは、ベーテリンが何かしらの悪い力を使っていることには気づいていたらしい。

 だがその正体がつかめず、正しい対処を取れなかった。

 下手に動けばスフィカに危害が及ぶと考え、偽りの婚約破棄宣言をしたのだという。



「すまないスフィカ。愛する君を傷つけてしまったこと、本当に後悔している。一生をかけて償うと誓うよ」

「ルカーノ様……いいんです、もう十分に謝ってくださいましたわ」

「いいや、スフィカ。まだ足りない。僕の愛をもっとわかって欲しい」

「もう……」

「ずっと離さないよスフィカ。これからもずっと僕の傍にいてくれ」



 ルカーノの熱烈な言葉にスフィカが頬を染め悩ましげに目を伏せる。

 二人の間に漂う濃厚な親密さに、プリムラもまたつられて頬を赤くした。

 なんとスフィカは、あの騒動の後すぐに王宮に連れ込まれずっとルカーノと過ごしていたらしい。

 それはそれはめくるめく愛の日々だったと語るルカーノの横で、子ウサギのように体を震わせていたスフィカはとても愛らしかった。



「あの女がスフィカに何かする可能性があったからね。王宮なら安全だろ」



 いけしゃあしゃあと口にするルカーノの姿にプリムラが目を丸くしていれば、その横でスフィカが申し訳なさそうに眉を下げていた。



「ごめんなさいプリムラ。あなたには連絡を取りたかったのだけれど、ラウルス様がついているから問題ないと言われて」

「そうだよスフィカ。ラウルスは最強の騎士だからね。王家に忠誠を誓った彼もまた、精霊の加護があるからあんな魅了にはかからないから」



 ラウルスはプリムラを監視していたわけではなく、スフィカの友人であることから狙われる可能性があるとして護衛として傍にいてくれたのだった。

 だからこそ、毎日様子を確認しに来てくれていた。



「プリムラ。ラウルスは以前から何かと君を気にしていたんだよ。護衛だって自分から言い出したんだ。スフィカが君をあまりに褒めるものだから、どんな素晴らしい女性なのかと……」

「殿下」



 本気で嫌そうなラウルスの声にルカーノが優雅に微笑む。



「いいじゃないか。僕だけ幸せになるのは心苦しかったから、君たちもうまくまとまってくれて本当に嬉しいよ」



 無邪気に笑うルカーノにプリムラは引きつった笑みを浮かべることしかできない。



「感謝しているよプリムラ。君がベーテリンは虫の加護を受けた女だと知らせてくれたおかげで対処できた。あの女は永遠に虫かごの中でもがくことになるだろう」



 美しい笑みとは裏腹な冷たい声に、プリムラは恐ろしさを感じ身震いをした。この人を敵に回してはいけない。

 本能的な恐怖にラウルスの袖を掴めば、たくましい腕が腰を抱いてくる。



「殿下、俺のプリムラを怖がらせないでください」

「はは。ごめんごめん。つい浮かれて」



 この王子様は考えている以上に恐ろしい人なのかもしれないと考えながら、プリムラはスフィカに視線を向けた。

 だがスフィカは幸せそうにルカーノを見つめており、どうやら心配は杞憂に終わりそうだった。

 きっと、この二人は幸せなのだろう。

 ずっと幸福であることを願っていたスフィカの笑顔に胸がいっぱいになる。



「プリムラ」



 優しい声で呼ばれ。顔を上げればラウルスもまた優しい笑みを浮かべていた。

 そんな彼に甘えるようにその胸板に頭を預ける。

 柔らかくもしなやかで弾力のある彼の胸は心地よく、きっと一生離れられないと確信しながらプリムラは花のように微笑んだのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

【完結】旦那様、溺愛するのは程々にお願いします♥️仮面の令嬢が辺境伯に嫁いで、幸せになるまで

春野オカリナ
恋愛
母が亡くなる前、「これは幸せを運ぶ仮面だから」と言って、仮面を付けられた。 母が亡くなると直ぐに父は、愛人と子供を家に引き入れた。 新しい義母と義妹は私から全てを奪い婚約者も奪った。 義妹の嫁ぎ先の辺境伯爵に嫁いだら、知らない間に旦那様に溺愛されていた。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...