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しおりを挟む事の発端は、とある男爵家が庶子であった娘を養女として迎えたことだ。
良くある話だ。メイドに産ませた娘が育ってみればそれなりの見た目だったのでこれは使えると判断されたのだろう。
チリルというその少女は庶民育ちであったせいで貴族のしきたりに疎く、かなり強烈なデビュタントをした少女として社交界の注目をさらった。
婚約者連れである王太子に向かって開口一番「あなたあの時の!!」とかなり大声で叫んだのだ。
なんでも、お忍びで市井めぐりをしていた王太子グリムと庶民暮らしだった頃に面識があったのだとか。
グリムも少し毛色の違ったチリルを憎からず思っている様子で、あまりに失礼な態度だったのにもかかわらず咎める事はなかった。
それどころか、傍らにいる婚約者をないがしろにして「チリル」と彼女に話しかけたのだ。
当然、気位の高いキャサリンは怒り狂った。
チリルに対しては男爵家の娘風情が王太子に気軽に話しかけたり近寄ったりしてはいけない事を口酸っぱく注意し、グリムに対してもいずれは王となる立場であり既に婚約者がいるのに若い未婚女性と親しげにしてはいけないと何度も遠まわしに伝えたのだ。
そんなキャサリンの態度が火に油を注いだのか、二人はすっかり悲劇の運命に引き裂かれた恋人気分。
グリムはキャサリンとの婚約を解消しチリルと婚約するのだと周囲に零し始める始末。
キャサリンは純朴な少女をいじめる悪役のごとき令嬢で、自分には相応しくないと。
社交界の連中はその話を面白おかしく吹聴し、キャサリンの評判は地に落ち今では悪役のごとき扱い。
「あの非常識な二人を絶対に破滅させてやる!!」
そう意気込んだキャサリンは隣にいるスティーブを巻き込みある計画を立てた。
王太子であるグリムが招待されているパーティには婚約者であるキャサリンがパートナーとして参加するのが当然のこと。
しかしキャサリンは仮病を使い直前になって参加をキャンセル。
一人寂しく参加していたグリムの元へ、人を使ってチリルを呼び出し近づけた。
キャサリンという邪魔者がいない状況でまるで運命のように再会した二人が燃え上がらないわけがない。
しかもこのパーティの会場である屋敷の庭園は「逢瀬の場所」として有名だ。
耳を澄ませばグリムとチリル以外にも声を潜めて愛を睦みあっている男女の声がうっすら聞こえてくる。
「ふふ……いっそ本番までしちゃえばいいのよ!そのタイミングであなたを伴った私がグリム様を探しに来たことにして乱入して、私が騒ぎ立てればどうなるかしら!!」
自らの悪だくみが思い通りになった事に興奮しているのかキャサリンは評判通りの悪役のように微笑む。
このパーティには高位の貴族だけではなく王家の縁者もたくさん来ている。
その中で醜態を晒せばいくら王太子といえど無傷では済まないだろう。
「グリム様は良くて謹慎、最悪、地位をはく奪されるでしょうね。結婚前にあんな淫らな行為をしたチリルは修道院か、どこか成金の後妻になるはずよ。二人揃って破滅よ破滅!!」
「あの二人を破滅させてどうするつもりだよ」
「知らないわ。私は婚約解消された不憫なご令嬢としてまたお父様が別の結婚相手を見つけてくれるはずよ」
そう口にしながら、キャサリンは自分の胸がちくりと痛むのを感じた。
だって幼いころからずっとグリムと結婚すると信じていたのだ。
恋とは違うがそれなりに信頼関係を築けていたと思っていた。
身勝手で気位の高い見た目しか取り柄のないグリムだって結婚さえすれば良き伴侶になる筈だと。
いずれは王太子妃から王妃となり、陰日向にこの国を支えていくのだというプライドだけで頑張れていたのに。
「っ」
じわ、とキャサリンの目尻に涙が浮かぶ。
スティーブはその涙に気が付いて慌てた様子でハンカチを差し出した。
キャサリンはそれを奪うようにして受け取ると、化粧が落ちないように気を付けながら目元を押さえる。
「お、おい。泣くなよ」
「うるさい、悔し涙よ!」
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