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しおりを挟む「大丈夫か?」
「…うん」
連れ帰られたモルドー家の屋敷。
急な体調不良が治ったからと婚約者を追いかけてパーティ会場に向かったはずのお嬢様が顔色を無くして帰ってきた為、使用人たちは大慌てだった。
また具合が悪くなったのだろうと受け取って、連れて帰ってきてくれたスティーブに何度も頭を下げていた。
スティーブとしては嘘を吐く居心地の悪さもあったのだが「会場に向かう馬車の中で具合が悪くなった」という事で話を合わせた。
自室に戻り、ドレスから簡素な服に着替え楽な格好になったキャサリンはどこか魂が抜けた様子だ。
スティーブもそんなキャサリンを一人にはしておけないと、向かい合って温めたワインを飲んでいた。
「私のせいかしら」
二人の破滅を望んでいたとはいえ、あそこまでの大惨事になるなんて想像していなかった。
最初にグリムとチリルを見つけた女性と男性が誰かは知らないが、雰囲気からしてかなりの身分だろう。
お金を積ませて証言を塗り替えるのは不可能そうだったし、第一、あれだけの目撃者の口に戸を立てるのは土台無理な話だ。
「まあ舞台を用意したのは俺たちだけど、そもそもは自業自得だろう。気にするな」
「……でも」
「グリムは王太子という身分に甘えてる男だったからな。これで陛下達も目が覚めるさ」
だから気にするな、とスティーブに優しく背中を撫でられると不意に先程の茂みでの出来事を思い出してしまう。
「スティーブ!そうよ!さっきのはなんなのよ!いくら何でもやり過ぎよ!!」
今の今まで萎れていたのが嘘のようにキャサリンはスティーブに向き直って甲高く叫んだ。
「いくら私に怒ってたからって、あれはやり過ぎよ!!あんな、あんな……」
あんな淫らな事をされて、とキャサリンは耳まで赤く染める。
絡み合っていたグリムとチリルの姿に自分とスティーブの姿を重ねて想像してしまい、恥ずかしさで爆発しそうだった。
「謝っただろう」
「謝って済む事ですか!!!」
「じゃあ責任を取ればいい?」
「ふぇぇ?」
不意に真剣な表情になったスティーブがキャサリンの腰を抱き引き寄せた。
唇と唇が触れ合いそうなほどに近づいた顔と顔。
「触れた責任を取って、一生君だけだと誓えば許してくれるか?」
兄のように思っていたスティーブからの急な愛の告白にキャサリンは目を白黒させる。
「な、何を言ってるの!だめよ、私には婚約者が」
「あの騒動だ。婚約破棄になるのは目に見えてる。君は自分の父上が地位欲しさに可愛い娘をあんな男と結婚させるような男だとでも?」
「そんなことは……」
「そもそも、君を王太子妃にと望んだのは王家だ。それなのに息子一人しつけられなかったアイツらが悪い。慰謝料をしっかりふんだくってくれるだろうよ」
いくらなんでも王家に対してアイツ呼ばわりはよくないんじゃないか、とキャサリンは思わず突っ込みたくなる。
目の前のスティーブはいつもの穏やかな雰囲気とは違い、怖いほどの真剣な表情。
もう一人の兄だと無邪気にまとわりついていたことが恥ずかしくなるほどに雄々しい姿にキャサリンは小さく唾を飲み込んだ。
「キティ、俺はお前だけだと誓えるよ。あの馬鹿のように君をないがしろにしたり悲しませたりなんかしない」
「スティーブ……でも、だって」
「本当なら君に婚約を申し込むのは俺の筈だったんだ。なのに急に横槍を入れてきて」
「な、何それ知らない」
「王家から婚約の打診があったお前に俺が後から何を言っても無駄だろう」
「それは……」
スティーブの手がキャサリンの頬に添えられる。
「キティ、お前が望むならグリムがあの女にしていた通りに愛してやる。だから俺を選んでくれ」
いつもの柔らかな声音とは違う、どこか苦しげな絞り出すような声。
キャサリンは胸の奥がきゅんと締め付けられるのを感じる。
「いや」
呟かれた否定の言葉にスティーブの顔色が失せる。
「お前、そんなにあいつのことを」
「あの通りなんていやよ。スティーブがしたいことを……して」
キャサリンは細い腕を自分からスティーブの首に巻き付ける。
「キティ……!!」
スティーブはキャサリンの細い体を思い切り抱きしめた。
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