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藍祐介と神野樹
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思っていた以上に、晩餐会の会場は広く圧倒された。
料理は、思っていた以上に美味しいし。
「おい、お前……勇者一行ってのか?」
料理を食べていると、声を掛けられた。
あまりこの場では相応しくない格好に、背中の大きな剣。
「見たことない顔で、お前の魔力が周りとは桁違いに多かったからな。俺はアルス。関わりはほとんど無いかもしれないが、よろしく頼むぜ」
「……」
ま、魔力?何なんだろう。
というか、知らない人には僕は全然喋れないんだ……ごめんなさい。
心の中で謝りながら、アルスさんに頭を下げる。
「よ、よろしくな?」
「……」
僕は小さく会釈したけど、アルスさんは僕が喋らないから困惑しているようで。
「――おーい樹?誰と話してるんだ?」
凄く良いタイミングで現れてくれる藍君。
僕の心臓は、藍君で跳ね上がってるけど……
「おお、お前も――」
アルスさんと藍君が話し始めて、僕は黙る。
話を聞いていると、アルスさんは結構謎の人だ。
なんでも屋って変わってる……本当にそんな感じの職業なのかな?
―――――――――――――
「――じゃあな!」
アルスさんが話を終えて外に出ていってから、僕は無意識にずっと藍君を見ていた。
さっきは、藍君と話せていたのに……今は全く声が、出ない。
話しかけようとしても、口が開かない。ひたすらに藍君を見つめているだけ。
端から見れば、中々おかしい光景だ。
そんな僕の様子を見て藍君が僕に向き直る。
「樹、さっきはごめん。取り乱したけど、俺はあの時、樹と話せて本当に嬉しかった。」
そんな事を平然と言う藍君。
う、嬉しいって……
頭が真っ白になって、さっきの恥ずかしさと嬉しさが僕の思考を支配していった。
藍君を見つめていた事、顔が紅くなっている事に気付いてから、僕はすぐに俯く。
そのままこの場所から逃げて、晩餐会から抜け出してしまった。
うー、今から戻って藍君と話す……無理だよね。
はあ、なんで僕はこうなんだろう。
――――――――――
部屋に戻ってからは、ベッドで今日の事を振り返っていた。
異世界に来たという事は全然実感は無いのだけど、どうやらそうらしい。
勇者とか魔族とか魔法とか、僕には分からない事ばかりだ。
これはもしかしたら、とんでもない事に巻き込まれたのだろうか?
でも。
でも、でも……今の僕の頭の中は……
《「俺はあの時、本当に嬉しかった」》
……藍君しか、考えられない。
僕はあの時、本当にこの部屋で、藍君へ……
ね、ねよう!
―――――――――――――――
朝。
気付いたら、僕は寝てしまっていたようだ。
起きても、何も変わっている事は無い。
昨日までの夢のような出来事は、本当に現実だ。
あくびをして、顔を洗って、服を着替えて。
身体の調子は、この世界に来て本当に良くなった。
飲んだことないけど、エナジードリンクとか飲んだらこうなるのかな……?
支度を整え、部屋を出る。
今日は何をするんだろう。
―――――――――――――――――
僕達は、グラウンドのような場所に案内された。
どうやらそこで僕達の能力を見るらしい。
よく分からないけど、能力なんて目に見えて分かるものなのかな……?
そりゃ、そんな事出来たら便利だけど。
説明も終わり、僕達はその能力を見れる板のようなものを触れるよう言われた。
アルスさんの言っていた事が、本当なら僕は魔力量が多い事になる。
魔法適正とかは分からないけど……
クラスの人達は、次々といい能力が出ているようで。
僕達は『勇者』であり、期待を大きくされている。
そう、ここで逆にいい結果じゃなかったら……。
これ以上は考えたくはない。
「よし、次だ……君だな!」
不安に捕らわれる中、あっと言う間に僕の番になる。
「……」
先ほどやっていたように、僕は能力を測る板へと手を載せた。
すると、一瞬の間でもう一つの板に僕の能力が明らかになった。
「……魔力量、一億だと?」
文字通りの周りより一桁多い魔力量、属性魔法の適正の高さ、固有能力といい、僕の結果は凄く良かったようで……。
後ろの魔法使いの人達も、これまでに無いほどどよめいていた。
……実感は全く無いし、特に嬉しいと感じることはない。
でも、取り敢えず、取り敢えず安心は出来た。
そして、余り期待はしてほしくないなあ……
「次来てくれ!」
次は、藍君だった。
藍君なら、物凄いとは言わないまでも、僕よりは良い結果だろうな……。
藍君と一緒に戦えるなら……それも悪くないかも。
あ、そろそろ藍君の結果が出――
「――うん?俺の見間違いか?……すまないな。もう一回やり直してくれ。」
僕の目に、クラスの人達の目にも、その結果は写された。
これまでの人達より何桁も下の魔力量。
属性魔法適正に至っては……『無し』だ。
固有能力が有るから、それでなんとかなっているとアルゴンさんは言っている。
藍君……大丈夫だよね……
なんで僕に一億あって藍君に……もしかして、僕が取っちゃったの?
藍君を見ると、全然落ち込んでいない様子だった。
そうだ……きっと、この結果が強さに全て反映されるわけじゃない。
藍君も、そう考えているんだよ……ね?
「次はこっちだ、着いてきてくれー!」
考える暇も心配する暇もあらず、次の座学の場所へ。
魔法について色々教えてもらったけど、まだまだ実感が無い。
僕の場合は適正が高いから、詠唱が短くなったり効果が上がったりするらしい。
詠唱……言葉を発する事は苦手だから、適正が高くて良かったよ。
その後に魔力を出したり、水の玉を出したりしたけど、何か不思議な感覚だ。
この感覚が、この世界では当たり前なんだろうけど……早く慣れなきゃ。
――――――――――――――――
それからは前衛と後衛を分けたり、後衛はマールさんに着いて行って武器を選んだりした。
僕は後衛で、藍君も同じ、後衛だった。ちょっと嬉しい。
武器も同じスタッフ。正直良く分からない。見た目で選んじゃえばいいかな……?
僕がどれにしようか悩んでいると、マールさんが僕に話しかけてきた。
「魔力量一億の子だよね!その、是非これを選んでほしいな!……えっと、魔力消費が大きいんだけど、その代わり効果は絶大なんだ!」
それだけ言うと、マールさんは僕にスタッフを渡して駆けていく。
それは、周りの派手なものとは違う……青い透明な杖。
地味といえばそうだけど、装飾もない透き通った青が綺麗だ。
……これにしようかな。
「皆決まったね!夜ご飯まで少しだし、これで今日は終わり!明日から本格的に魔法を教えていくから!」
マールさんの声が響く。
もう夜になっていたようだ。
明日から始まる魔法の授業の不安、藍君の心配……色んな事を考えながら、僕は部屋へ戻った。
部屋に着いたらスタッフを置き、ベッドに座る。
お腹も減ったし食堂行こうかな?早いけど……
―――――――――――
流石に来るのが早かったのか、まったく人影が見えない。料理はもう準備されてるみたいだけど。
人が居ないのは寂しいと思わないし、むしろ静かに食べられて嬉しい。
今度から早めに食堂に来ようかな……?
なんて思いながら、席を探していると。
「……」
藍君がいた。今からご飯を食べようとしているようだ。
高鳴る胸を手で押さえて、考える。
……これはチャンスだよ、今度こそ話しかけなきゃ。今なら誰もいないし。
「……」
ガタッと、椅子を引いて藍君の横に座った。
「……樹?」
そう言う藍君。
「……」
隣に座るだけで、抑えていた感情が溢れ……僕は顔が真っ赤になる。
だ、駄目だよ……やっぱりまだ無理……!
顔を藍君に向ける事も出来ず、ひたすらに黙り込む。
「……」
早く食べなきゃ、今の僕は、藍君に見せられない……
僕はひたすらに食事を口に運び、席を立つ。
「……はぁ」
藍君から別れて食堂から出た時、ため息混じりに声が出る。
僕はそのまま部屋へ戻り、ベッドの中に入るのだった。
料理は、思っていた以上に美味しいし。
「おい、お前……勇者一行ってのか?」
料理を食べていると、声を掛けられた。
あまりこの場では相応しくない格好に、背中の大きな剣。
「見たことない顔で、お前の魔力が周りとは桁違いに多かったからな。俺はアルス。関わりはほとんど無いかもしれないが、よろしく頼むぜ」
「……」
ま、魔力?何なんだろう。
というか、知らない人には僕は全然喋れないんだ……ごめんなさい。
心の中で謝りながら、アルスさんに頭を下げる。
「よ、よろしくな?」
「……」
僕は小さく会釈したけど、アルスさんは僕が喋らないから困惑しているようで。
「――おーい樹?誰と話してるんだ?」
凄く良いタイミングで現れてくれる藍君。
僕の心臓は、藍君で跳ね上がってるけど……
「おお、お前も――」
アルスさんと藍君が話し始めて、僕は黙る。
話を聞いていると、アルスさんは結構謎の人だ。
なんでも屋って変わってる……本当にそんな感じの職業なのかな?
―――――――――――――
「――じゃあな!」
アルスさんが話を終えて外に出ていってから、僕は無意識にずっと藍君を見ていた。
さっきは、藍君と話せていたのに……今は全く声が、出ない。
話しかけようとしても、口が開かない。ひたすらに藍君を見つめているだけ。
端から見れば、中々おかしい光景だ。
そんな僕の様子を見て藍君が僕に向き直る。
「樹、さっきはごめん。取り乱したけど、俺はあの時、樹と話せて本当に嬉しかった。」
そんな事を平然と言う藍君。
う、嬉しいって……
頭が真っ白になって、さっきの恥ずかしさと嬉しさが僕の思考を支配していった。
藍君を見つめていた事、顔が紅くなっている事に気付いてから、僕はすぐに俯く。
そのままこの場所から逃げて、晩餐会から抜け出してしまった。
うー、今から戻って藍君と話す……無理だよね。
はあ、なんで僕はこうなんだろう。
――――――――――
部屋に戻ってからは、ベッドで今日の事を振り返っていた。
異世界に来たという事は全然実感は無いのだけど、どうやらそうらしい。
勇者とか魔族とか魔法とか、僕には分からない事ばかりだ。
これはもしかしたら、とんでもない事に巻き込まれたのだろうか?
でも。
でも、でも……今の僕の頭の中は……
《「俺はあの時、本当に嬉しかった」》
……藍君しか、考えられない。
僕はあの時、本当にこの部屋で、藍君へ……
ね、ねよう!
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朝。
気付いたら、僕は寝てしまっていたようだ。
起きても、何も変わっている事は無い。
昨日までの夢のような出来事は、本当に現実だ。
あくびをして、顔を洗って、服を着替えて。
身体の調子は、この世界に来て本当に良くなった。
飲んだことないけど、エナジードリンクとか飲んだらこうなるのかな……?
支度を整え、部屋を出る。
今日は何をするんだろう。
―――――――――――――――――
僕達は、グラウンドのような場所に案内された。
どうやらそこで僕達の能力を見るらしい。
よく分からないけど、能力なんて目に見えて分かるものなのかな……?
そりゃ、そんな事出来たら便利だけど。
説明も終わり、僕達はその能力を見れる板のようなものを触れるよう言われた。
アルスさんの言っていた事が、本当なら僕は魔力量が多い事になる。
魔法適正とかは分からないけど……
クラスの人達は、次々といい能力が出ているようで。
僕達は『勇者』であり、期待を大きくされている。
そう、ここで逆にいい結果じゃなかったら……。
これ以上は考えたくはない。
「よし、次だ……君だな!」
不安に捕らわれる中、あっと言う間に僕の番になる。
「……」
先ほどやっていたように、僕は能力を測る板へと手を載せた。
すると、一瞬の間でもう一つの板に僕の能力が明らかになった。
「……魔力量、一億だと?」
文字通りの周りより一桁多い魔力量、属性魔法の適正の高さ、固有能力といい、僕の結果は凄く良かったようで……。
後ろの魔法使いの人達も、これまでに無いほどどよめいていた。
……実感は全く無いし、特に嬉しいと感じることはない。
でも、取り敢えず、取り敢えず安心は出来た。
そして、余り期待はしてほしくないなあ……
「次来てくれ!」
次は、藍君だった。
藍君なら、物凄いとは言わないまでも、僕よりは良い結果だろうな……。
藍君と一緒に戦えるなら……それも悪くないかも。
あ、そろそろ藍君の結果が出――
「――うん?俺の見間違いか?……すまないな。もう一回やり直してくれ。」
僕の目に、クラスの人達の目にも、その結果は写された。
これまでの人達より何桁も下の魔力量。
属性魔法適正に至っては……『無し』だ。
固有能力が有るから、それでなんとかなっているとアルゴンさんは言っている。
藍君……大丈夫だよね……
なんで僕に一億あって藍君に……もしかして、僕が取っちゃったの?
藍君を見ると、全然落ち込んでいない様子だった。
そうだ……きっと、この結果が強さに全て反映されるわけじゃない。
藍君も、そう考えているんだよ……ね?
「次はこっちだ、着いてきてくれー!」
考える暇も心配する暇もあらず、次の座学の場所へ。
魔法について色々教えてもらったけど、まだまだ実感が無い。
僕の場合は適正が高いから、詠唱が短くなったり効果が上がったりするらしい。
詠唱……言葉を発する事は苦手だから、適正が高くて良かったよ。
その後に魔力を出したり、水の玉を出したりしたけど、何か不思議な感覚だ。
この感覚が、この世界では当たり前なんだろうけど……早く慣れなきゃ。
――――――――――――――――
それからは前衛と後衛を分けたり、後衛はマールさんに着いて行って武器を選んだりした。
僕は後衛で、藍君も同じ、後衛だった。ちょっと嬉しい。
武器も同じスタッフ。正直良く分からない。見た目で選んじゃえばいいかな……?
僕がどれにしようか悩んでいると、マールさんが僕に話しかけてきた。
「魔力量一億の子だよね!その、是非これを選んでほしいな!……えっと、魔力消費が大きいんだけど、その代わり効果は絶大なんだ!」
それだけ言うと、マールさんは僕にスタッフを渡して駆けていく。
それは、周りの派手なものとは違う……青い透明な杖。
地味といえばそうだけど、装飾もない透き通った青が綺麗だ。
……これにしようかな。
「皆決まったね!夜ご飯まで少しだし、これで今日は終わり!明日から本格的に魔法を教えていくから!」
マールさんの声が響く。
もう夜になっていたようだ。
明日から始まる魔法の授業の不安、藍君の心配……色んな事を考えながら、僕は部屋へ戻った。
部屋に着いたらスタッフを置き、ベッドに座る。
お腹も減ったし食堂行こうかな?早いけど……
―――――――――――
流石に来るのが早かったのか、まったく人影が見えない。料理はもう準備されてるみたいだけど。
人が居ないのは寂しいと思わないし、むしろ静かに食べられて嬉しい。
今度から早めに食堂に来ようかな……?
なんて思いながら、席を探していると。
「……」
藍君がいた。今からご飯を食べようとしているようだ。
高鳴る胸を手で押さえて、考える。
……これはチャンスだよ、今度こそ話しかけなきゃ。今なら誰もいないし。
「……」
ガタッと、椅子を引いて藍君の横に座った。
「……樹?」
そう言う藍君。
「……」
隣に座るだけで、抑えていた感情が溢れ……僕は顔が真っ赤になる。
だ、駄目だよ……やっぱりまだ無理……!
顔を藍君に向ける事も出来ず、ひたすらに黙り込む。
「……」
早く食べなきゃ、今の僕は、藍君に見せられない……
僕はひたすらに食事を口に運び、席を立つ。
「……はぁ」
藍君から別れて食堂から出た時、ため息混じりに声が出る。
僕はそのまま部屋へ戻り、ベッドの中に入るのだった。
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