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藍祐介と神野樹
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廊下を、藍君と話しながら進む。
とはいっても、藍君が話してくれて、それんに僕が相槌を打つだけなんだけど……。
この時間は、とても暖かくて、あっという間だった。
「暫く俺がいなくても、大丈夫だよな」
しかし、藍君のこの台詞で、不意に寂しくなってしまった。
その寂しさを残したまま、僕は歩いて行く。
――――――――――――
歩いて、僕の部屋に着く。
どうやら藍君は僕に何か、話があるようで。
いつもの顔つきじゃない……言いにくい事を話す時のような。
「樹。……俺は、しばらくここから離れるよ」
一旦区切り、そう告げる藍君。
藍君がここから出て行くというのは……当然マール先生から聞いていた。
それでも、やっぱり藍君が王宮から見放されるなんて考えると悲しい。
藍君は、本当は僕なんかより、あの三人より遥かに凄いのに。
「昨日、王女様からの通達が来たってのもあるんだが……俺は、強くなりたいんだ」
下に視線をやり、そう言う藍君。
どうして、藍君は強くなろうとしているんだろう?
今のままでも藍君は十分凄いと思う、そうだ、王宮に今からでもあの魔法を見せれば――
「外の世界を見て、非現実な化物と戦って、この世界を、一人で生きれるようになって」
その目は――僕の思っている事が失礼に思えてくる程に意思の固まった目だった。
この世界で強くなる事がどれだけ過酷なのかを、もう悟っているようなそんな声。
そして、藍君は視線を僕にしっかり合わせ。
「お前を守れるぐらい、強くなりたいんだ」
――僕の中で、一瞬時間が止まったような感覚。
抑えていた胸の鼓動が、どんどん早くなってく。
……それは卑怯だよ、藍君。
そんなのまるで、強くなる『理由』が――『僕の為』みたいじゃないか。
そんな事言われちゃったら、僕は……嬉しすぎてどうして良いのか分からない。
「――もう明日の朝には出るよ」
僕の頭が真っ白になっている間、藍君の声は聞こえなかった。
でも、出発するのが明日の朝だと聞こえた気がする。
咄嗟に藍君の服を掴む。
お願い、藍君……待って欲しいんだ。
僕も、藍君に話がしたい、聞いて欲しい事が一杯あるんだ。
僕は小さい声だけど、お話も上手くないけど……これだけは君に伝えないと。
「……藍、くんは、もうとっくに、強いよ。誰よりも」
元の世界からずっと、僕を助けてくれた藍君は、僕にとって一番強くて、頼りになって。
だから。
「だ、から」
ちゃんと見れなかった藍君を、真っ直ぐ見る。
でもどうしても恥ずかしくて、髪で隠しながらになってしまう。
隠しながらでも、僕からは藍君はよく見える。
僕を守って来てくれた、藍君の顔が。
僕は、精一杯、藍君を真っ直ぐ見て。
言葉を頭で探して、考えて。
「僕と……一緒に、いて、ほしい、外に行くなら、一緒に、行く」
繋ぎ繋ぎだけど、言えた。
「っ!分かった。一緒に行こう、樹」
一拍置いて、そう言う藍君。
藍君、確かに僕に、一緒に行こうって。
「……」
今、僕は――どんな顔をしているんだろう。
こんな嬉しい事、今まで僕には無かったから。
こんな幸せな事、藍君が初めてだから。
まだ君と満足に話も出来ないし、恥ずかしくて声も出せないけど。
よろしく、おねがいします。
とはいっても、藍君が話してくれて、それんに僕が相槌を打つだけなんだけど……。
この時間は、とても暖かくて、あっという間だった。
「暫く俺がいなくても、大丈夫だよな」
しかし、藍君のこの台詞で、不意に寂しくなってしまった。
その寂しさを残したまま、僕は歩いて行く。
――――――――――――
歩いて、僕の部屋に着く。
どうやら藍君は僕に何か、話があるようで。
いつもの顔つきじゃない……言いにくい事を話す時のような。
「樹。……俺は、しばらくここから離れるよ」
一旦区切り、そう告げる藍君。
藍君がここから出て行くというのは……当然マール先生から聞いていた。
それでも、やっぱり藍君が王宮から見放されるなんて考えると悲しい。
藍君は、本当は僕なんかより、あの三人より遥かに凄いのに。
「昨日、王女様からの通達が来たってのもあるんだが……俺は、強くなりたいんだ」
下に視線をやり、そう言う藍君。
どうして、藍君は強くなろうとしているんだろう?
今のままでも藍君は十分凄いと思う、そうだ、王宮に今からでもあの魔法を見せれば――
「外の世界を見て、非現実な化物と戦って、この世界を、一人で生きれるようになって」
その目は――僕の思っている事が失礼に思えてくる程に意思の固まった目だった。
この世界で強くなる事がどれだけ過酷なのかを、もう悟っているようなそんな声。
そして、藍君は視線を僕にしっかり合わせ。
「お前を守れるぐらい、強くなりたいんだ」
――僕の中で、一瞬時間が止まったような感覚。
抑えていた胸の鼓動が、どんどん早くなってく。
……それは卑怯だよ、藍君。
そんなのまるで、強くなる『理由』が――『僕の為』みたいじゃないか。
そんな事言われちゃったら、僕は……嬉しすぎてどうして良いのか分からない。
「――もう明日の朝には出るよ」
僕の頭が真っ白になっている間、藍君の声は聞こえなかった。
でも、出発するのが明日の朝だと聞こえた気がする。
咄嗟に藍君の服を掴む。
お願い、藍君……待って欲しいんだ。
僕も、藍君に話がしたい、聞いて欲しい事が一杯あるんだ。
僕は小さい声だけど、お話も上手くないけど……これだけは君に伝えないと。
「……藍、くんは、もうとっくに、強いよ。誰よりも」
元の世界からずっと、僕を助けてくれた藍君は、僕にとって一番強くて、頼りになって。
だから。
「だ、から」
ちゃんと見れなかった藍君を、真っ直ぐ見る。
でもどうしても恥ずかしくて、髪で隠しながらになってしまう。
隠しながらでも、僕からは藍君はよく見える。
僕を守って来てくれた、藍君の顔が。
僕は、精一杯、藍君を真っ直ぐ見て。
言葉を頭で探して、考えて。
「僕と……一緒に、いて、ほしい、外に行くなら、一緒に、行く」
繋ぎ繋ぎだけど、言えた。
「っ!分かった。一緒に行こう、樹」
一拍置いて、そう言う藍君。
藍君、確かに僕に、一緒に行こうって。
「……」
今、僕は――どんな顔をしているんだろう。
こんな嬉しい事、今まで僕には無かったから。
こんな幸せな事、藍君が初めてだから。
まだ君と満足に話も出来ないし、恥ずかしくて声も出せないけど。
よろしく、おねがいします。
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