運極さんが通る

スウ

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孵化と変態

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目を開けると目の前にセタンタはいなかった。
昨日の今日だから、疲れてまだ眠っているのだろう。

 ピキッ 
卵の殻にヒビが入る音がした。
バッと顔を手元にある黒い卵に向ける。
緊張して心臓がバクバクと音を立てる。

 パキパキッ
黒い小さな手が殻を破る。
私はそれを固唾を飲んで見守る。

「きゅ?」
生まれた生命と目が合った。

 ピロリん。
『親との繋がりを確認します。目の前のモンスターと手を合わせてください』
言われた通りに人差し指を目の前の生命の手と合わせる。
ビリッと指先に電気が走ったような感覚がした。

『確認しました。任意で名前を付けてください』

 名前。
“ラム”や、“テキーラ”って感じがしないんだよね。
さて、どんな名前にしようか。

 →▲クロ
    ▲シャード
    ▲ベルモット
    ▲一郎

パッと浮かぶのはこの4つ。
私はお酒が大好きだから、ススーッとカーソルを下げまして。

    ▲クロ
    ▲シャード
 →▲ベルモット
    ▲一郎

 “ベルモット”になりました。

「宜しくね。ベルモット」
「きゅ」

可愛らしく首を振るベルモット。
 さて、早速だけど【鑑定】してみよう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

種族  幼竜  ☆8
名前  ベルモット
Lv  1
HP  1000/1000  MP  1000/1000
SPD  100           ATK  80
STR  85             MND  90
DEF  80             DEX  83
INT  105             LUK   95
パッシブスキル
・生命の増幅
・生命の自動回復
アクティブスキル
・闇魔法
・光魔法
・回復魔法 
・飛行

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おふ…。
この壊れ性能、流石ドラゴン。
スリスリと顔を手に擦り付けてくる。
か、可愛い!!

「おはよー。あれー?その子は卵のー?」
「おぉ。何か黒いのがいる…。るし、名前は?」
「ベルモットていうんだ」
「きゅ?」
「「…っ」」

2人はベルモットの魅力に捕まったようだ。

「べ、ベルモットーおいでー」
「…きゅっ」

ひしりと私の手にくっついて離れない。
はぁ~可愛いっ。
ベルモットを小さな羽をパタパタ動かし、私の頭の上に移動した。

「ドヤッ」
「るしーずるいー」
「ベルモット!俺は!?俺は!?」
「きゅ」

ウォッカの必死な問を一蹴りし、頭の上でうたた寝し始めた。
どうやら頭がベルモットの定位置になったようだ。
今日からヘルムは被れないね。




「師匠。今日は何するの?」
「今日はフィールド…外の探索とLv上げだよ」

もうすぐやって来るイベントの為に、セタンタとベルモットのLvを上げないとね。
手の届く範囲は守りたいんだ。

おれもついて行くよぉ」

耳元で甘ったるい声が聞こえた。

「~っ!?」

耳を抑えて素早く距離をとる。
声の主を力一杯に睨みつける。

「何で貴様がいるのだ」

血のように赤い唇をチロリと舐め、両手を広げて近づいてきた。

「る~し~おれが君を簡単に諦めるとでも思っていた…ん?その子はセタンタかい?」
「お、お兄さんは何で僕を知ってるの?」
「う~ん。何でだろうねぇ」

パチパチとアイコンタクトを送ってくる変態。
あぁ、そういう事ね。

「ジン、ウォッカ。ちょっとこの変態に用事が出来たから門のところで待ってて?」
「るし、気を付けてな。何かあったら俺を呼べよ」
「るしー気を付けてねー。…変態、るしに変なことしたら殺すぞ」
「おおぅ。ゾックゾクするねぇ」

2人はセタンタを連れて門に向かって行った。
それを確認してから、私と変態は路地裏に向かった。
ベルモットは私の頭の上でスヤスヤ眠っている。
呑気なドラゴンさんだ。



「で、変態。何用だ?」

変態はクネクネと腰を振る。

「変態じゃぁないよぉ。おれはセス。おれを君のユニオンに入れて欲しいんだぁ。そしたらぁ、ずうっと一緒さぁ」

何を言うのだこの変態は。
こんな者を入れたらユニオンが崩壊することは目に見えている。

「何故私が貴様を入れてやらねばならぬのだ?」
「ユニオンを作るにはプレイヤーが7人以上必要だということをお前は知っているか?」

急に口調が変わり、そのヘラヘラとしていた顔は真剣味を帯びた。

「その顔は知らない感じだな。お前ら日本代表だけだと5人。しかも全員はソロときている。残り2人足りない。ということは、ユニオンは作れないってことだ」

アルザスを入れて6人。
だが、もう1人足りない。
だからと言って、はいそうですねと変態を加えるわけにはいかない。

「もし、貴様を我らがユニオンに加えた場合、貴様は何をする?」
「何、簡単なことだ。俺はギルド戦には力を惜しまない。俺はお前らのユニオンを作る為に必要な存在。そして、俺はもうお前をストーカーしない。以上だ」

とても魅力的な提案だ。
だけど…。

「私がいいと言っても、仲間が首を縦に振るかは分からないぞ?」

セスはニヤリと笑った。

「あぁ、その点は大丈夫だ。お前以外は全員PKしたからな。その際、ちゃんと了承は得た」

え、セスってそんなに強かったの!?
あの凶暴なジャンヌを倒したっていうのか?
天使のNoelちゃんをPK出来たっていうのか?
そんなこと出来るはずがない。
仮ににも彼女達は日本代表。
そんなに簡単に殺れるものなろだろうか。
コイツの言っていることは全て嘘なのじゃないだろうか。
私を騙そうしているのではないだろうか。
…。
ここで彼を疑い続けても話は進まない。
大体、疑うことって性にあわないんだよね。
まずは信じるところからっていうね。
まぁ、コイツからは変態臭が半端なく滲み出てて怪しさムンムンなんだどね。

「そうか。分かった」
「だからな…ってはぁ!?おま、今何つった?」
「ん?だから、ユニオンに入っていいぞ」

セスは大きく目を見開いた。
金魚のように口をパクパクさせている。

「…お前、俺の言ったことを疑わねぇのかよ。俺は平気でPKする人だぞ?こういっちゃあれだけど、お前は騙されやすそうだよな。もっと人を疑えよ」
「私だって見る目はあるはずだよ。…PKだってある意味で一つの職業みたいなものでしょ?私、この前PKの掲示板見て驚いたんだけど、PKギルドがあるんだね。…私はね、疑うなら裏切られてからなんだよね。無闇に人を疑うのは正直面倒臭い。なら信じればいい。裏切られたら裏切られたで、自分自身を嘲笑えばいい。ただそれだけだよ」

 ドンッ
一気にセスの顔が迫り、目前1cmのところで止まった。
これは…壁ドン。
2016年から流行り始めて今に至る。
異性の顔が近すぎてドキドキするっ。

「ドキドキしたぁ?」

あ、口調が戻った。

「きゅっ!!」

いつの間にかベルモットは起きたのか、目前のセスの顔に尻尾攻撃を繰り出した。

「いっつ~!!」

流石 ドラゴン
セスのHPが1割減ったのが見えた。

「そういうことで、よろしく、セス」
「何か口調変わってないかぁい?…名前で呼んでくれるなんてぇキュンキュンしちゃうよぉ」
「…。キモチワルイ」
「褒め言葉だねぇ♡あ、フレンド登録しなぁい?」
「はぁ、分かった」

セスの口が弧を描き、瞳孔が細くなる。
何か猫みたいだ。

「これで用終わったよね?じゃあ、私は行く」
「うん」

…随分とアッサリ返してくれたな。
少しは引き止められると覚悟してたけど…。





「おまたせ~」

門の近くで行儀よく待っていた3人は、私を見て盛大に顔を顰めた。

「えっ…」

グサッと心に来ました。

「るし、後ろのそれ…」

ゆっくりと後ろを振り向くと。

「やぁ」

甘ったるいネットリとした声が聞こえた瞬間、反射的に身体が動き、回し蹴りをした。

「ぐはっ………♡」
「何でお前がここにいるんだ!!セス!!」
「あははぁ。だってぇ、あんな熱の篭った告白されたらぁ、君について行くしかないじゃん?」

どうせ駄目と言ってもついてくるのだろう。
変な奴に好かれてしまったものだ…。

「はぁぁ。皆、ごめん。今日はコイツがついてくるわ。」
「よろしくぅ。おれセスっていうんだぁ。仲良くしてねぇ」

セスの舐め回すような視線に3人がブルッと震える。

「なぁ、るし。俺、肌が粟だったような感じがしたよ」
「我慢しよ…私もだから」

 ・・・変態セスが仲間になった・・・





私の横を陣取り、鼻歌を歌いながら歩くセスを横目で【鑑定】する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

種族  影蜘蛛  ☆6
名前  セス
Lv  11
HP  820/820  MP  720/720

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

マーカーは緑なのは何故だろうか。
PKならば、マーカーは赤になるはずなのに。

「それはねぇ、【偽装】スキルを使ってステータスを弄ってるからだよぉ。まぁ、弄れるのは種族とマーカー、それに名前ぐらいなんだけどねぇ。あ、今はマーカーしか弄ってないよぉ?」

コイツも心が読めるのかっ!?
油断したっ。

「ん~?君の顔に全て大きく書いてあるんだよぉ。あぁ、可愛いねぇ」

【無心】が、パッシブスキルだったらいいのに。

セスさんや。
さり気なくお尻を触るの辞めてもらえませんか。
キモイです。
セクハラです。
そんなセスの手を度々ベルモットが攻撃する。

「いっつぅ!!」

ベルモット、嬉しいんだけど、やり過ぎるとセスの体力が無くなっちゃうよ。

「るしー、今日はどこまで行くのー?」
「今日はライガットさんが走ってきた方向に進もうと思うんだ。もしかすると、生存者がいるかもしれないからね」

一日経った今でもライガットさんのあの苦悶の表情が脳裏を過ぎる。
何が彼をあそこまで追い詰めたのか、黒きものたちのは何なのかを知る必要があった。
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