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イベントクエスト⑤
しおりを挟む門を出てすぐに異変に気づいた。
嫌な感じが、不気味な感じがこの向日葵畑からするのだ。
おかしい。
試しにで向日葵の森に飛んだが、あの纏わり付くような不気味な感じは全くしなくなっていた。
…「不気味さ」が移動した。
それも向日葵の畑の方に。
どうにも街に近づいていっている気がするのだ。
もしそれが当たっているのならば、「不気味さ」の正体はイベントクエストのボス。
だけど姿が見えない為、断定が出来ない。
一体どこに潜んでいるというのだろう。
「師匠、あの森と同じ不気味な感じがします」
戦場に戻って開口一番にセタンタにそう言われた。
セタンタが、言うのだからこの「不気味さ」は気のせいじゃないのだろう。
「僕の予想通りボスが動いているみたいだね」
「みたいだね。…もしかしてなんだけど、街に移動してたりするのかな」
「うん。移動していると思うよ。ただ、何処でどうやって移動しているかが分からないんだよね」
ヴェティは額に手を当てウンウン唸っている。
うちのユニオンの脳はヴェティだね。
頭良さげだし、前回のゲームの経験者でもある。
それを言ったらジャンヌはどうなるのかって?あの人は論外です。
脳筋は入れたら駄目だと思います。
「るし?何か言いました?」
「いえ、無心です」
最近ジャンヌの勘が鋭くなってきている。
注意してものを考えないと。
「ヴェティお姉さん。さっきの話なんだけど、アイツらのボスが街に突然出てくるってこと?」
「う~ん。推測だけどね。あ、今日の防衛戦が終わったら、セタンタとセタンタのお母さんを連れていきたいところがあるんだ。空に浮いてて凄いね綺麗な場所なんだよ?」
「浮いてる?…うん!分かった!行く!!」
「いい子だね。じゃあ、るし、宜しくね」
「エッ…」
意味ありげなウィンクを残してヴェティは戦場に戻った。
…街の人全員をユニオンハウスに連れて行くことは出来ない、それは分かってるよね?という目だった。
分かってる。
私だって馬鹿じゃない。
手を伸ばしすぎると空いた隙間から大事なものがこぼれ落ちちゃうから。
見捨てるのかって?
そんなことは無い。
この国の王様には今回の件を報告したってヴェティが言ってたし、心優しい王様だからもうそろそろ避難準備を始める頃だろう。
「ふっ!」
満月を振り続けて早3時間。
モスキーバエトの補充が昨日、一昨日よりも少ない感じがした。
一瞬で埋まる空が、いつになくゆっくりと埋められていく。
何かの前兆だろうか。
「るし、今日のモスキーバエト、少なくありませんか?」
「だよね。補充スピードが比べ物にならないほど遅くなってる」
「…これはボス戦の前兆ですね。ボスがどこか1箇所にモスキーバエトを呼び集めていると私は読みます」
むふむふと笑うジャンヌ。
よっぽどボス戦が待ち遠しいんだね。
私は冷や冷やしながら待ってるよ。
寄ってきたモスキーバエトを斬り落とす。
この2日間、幾度となく斬ってきたため、ヤツらの動きも把握出来ており、今や作業ゲーと化している。
これで経験値が上がればウハウハなんだけど。
運営はケチだから、早々にLvを上げさせてはくれないようだ。
本来ならば、Lv20は超えててもおかしくはない程モスキーバエトを倒したというのに。
数は少なくなったけど、それでも無限に湧き続けるモスキーバエトにイライラしてしまう。
無理矢理変えられた村人かもしれないというのに。
そんな最低な自分に嫌気がさす。
たかがゲームされどゲーム。
この世界の人は生きているから、目の前にいる元人を面倒くさがって倒しちゃいけない。
…けど!けど!イライラは溜まるんだ…。
それが人間ってもんさ。
「えーい!もう!!終焉のラッパ!」
「終焉のラッパ!!」
「終焉のラッパ!」
・
・
・
あれから数十発打ち込んだところ、完璧にモスキーバエトの補充が止まった。
よって、ここ数日見られなかった照りつける太陽を姿を拝むことが出来た。
んー!気持ちいい!
グッと背を伸ばす。
「師匠!街の避難状態を見に行きませんか?」
「ん!行こか!」
翼を閉まって街の中に入る。
…。
それはいつもと変わらない光景。
人はまだ残っていた。
「避難したんじゃないんですか!?」
「これ…どういう…」
後からやってきた皆も固まっている。
明日ボスがやってくるかもしれないというのに、何故誰一人として避難していないんだ?
「ヴェティ!王様に伝えたんじゃないの!?」
「あ、ああ!直にはさすがに無理だったけど、この国の宰相には伝えた!!」
では一体この状況は何なのだ。
王様は心優しいこの国を一番に想うそんな人ではなかったのか?
と、そこに顔馴染みの門番さんが通った。
「門番さん!!」
「うおっ!?…ん?アンタは確かあの時の…」
「はい!あの時の者です!門番さん、一つお聞きしたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
「おう。アンタはライガットの命の恩人だからな。答えれる範囲は全て答えてやる」
「ありがとうございます。では早速。何故ここの住民は避難してないのですか?」
「避難…?」
門番さんは首を傾げた。
「避難とはどういう事だ?」
「…っ!?」
その言葉に冷や汗が垂れた。
門番さんが聞いてないということは、国は避難警告を発していないということ。
「門番さん、よく聞いてください。これから言うことは推測ですが、かなり信憑性の高い話です」
「おう。…分かった。聞かせてくれ」
「実はー」
私の話を聞き終えた後、門番さんの顔色が悪くなった。
青を通り越して白くなっている。
「 も、もしその話が本当にあるとして、何で国は避難警告を出さないんだ?」
その問にヴェティが答えた。
「…宰相は、帝国の内通者だからだろう。この話が王様に伝われば、直ぐにでも避難警告を出しかねないからね」
「宰相が帝国の犬だったっていうことか…。くそっ…。はっ、こうしちゃいられねぇ!今からでも避難警告を出さねぇと!!」
「貴方が言って誰が信じるというのですか?貴方は何の権力もないただの門番なのですよ?」
「だがっ…。…そうだな。俺は一旦仕事を中断して王城に直訴に行ってくる!!アンタらアドラーは強いんだろ?なら、今からくるだろう敵に備えて早く寝な!!」
そう言うと、脱兎のごとく門番さんは王城に向かって走っていった。
「さ、俺らは避難警告を出しつつ退散しますかね」
「だな」
「おっと、セタンタ、今のうちにお母さんを連れておいで。 朝の約束を守る為に…ね?」
「…うん。分かった」
セタンタも家に向かって足早にこの場を去っていった。
「ギムレットには話をしてあるから、暫くセタンタ親子を預かってもいいってさ」
「流石王。ギムレットの扱いは手馴れたものだね。僕達がギムレットに何か言っても微笑み返ししかされないよ」
え、ギムレット…そうだったの?
初耳です。
「師匠ー!お母さんを連れてきました!!」
セタンタがデヒテラさんを抱えて屋根の上を走ってきた。
わぉお、これが忍者か。
「るし様、私達に見せたいものとは何ですか?」
「これだよ」
そう言って、周りの景色が一瞬で変わった。
「「!?」」
突然の事で2人が固まるのも当然だろう。
先程まで門のそばに居たというのに、今は見たことのない家の中にいるのだから。
「師匠…凄いです!!凄すぎです!!どうやってやったんですか?ここどこですか!!」
「ここは私たちの秘密基地。もう時期下は危なくなるから、デヒテラさんは暫くここにいて欲しいんだ。勿論セタンタもいて欲しいところなんだけど、どうせついてくるんでしょ?」
「はいっ!!」
「るし様、…美しい景色ですね。ここへ連れてきていただきありがとうございます。…夫にも見せたかったです。あの、先程下は危なくなると聞こえたのですが、一体どういう?」
…それは秘密です。
「あと…宿を空けたままにしているので大変申し訳ないのですがもうっ…」
と、デヒテラさんが倒れた。
その原因を作ったのはギムレット。
【睡眠魔法】のような状態異常のスキルを使ったのではなく、手刀で気絶させたのだろう。
私の【神域拡張】のせいで状態異常は効かないからね。
それにしても、ギムレットさんや…もう少し手加減を入れてあげないと。
うっ…て言ってたよ?
かなり痛そうだったんだけど。
「お母さん!?大丈夫!?」
セタンタが慌ててデヒテラさんの元に駆け寄ってきた。
「多分疲労かな。今日と明日は休息をとるためにここで寝かせよう」
「セタンタも疲れただろ?明日の決戦に備えてゆっくり休むといいよ。何なら僕がお母さんの代わりに添い寝するよ?」
「いっいらないよ!もう子供じゃないもん!」
いや、セタンタはまだピチピチの子供ですから。
プリプリしながらヴィネに連れられて自身の部屋(客室)に行った。
ギムレットもデヒテラさんを抱えて2人に同行した。ごめんなさい、デヒテラさん。ホンの1日でいいのでここにいて下さい。ここが私の知る限りで一番安全な場所だから。
部屋に行くのを見届けてから、明日起こるであろう決戦に対するプチ作戦会議が始まった。
「明日は街にボスが現れるかもしれない日なんだけど、一応僕とジャンヌで作戦を考えてきた。その作戦は至ってシンプル。明日1日は街の中でウロウロしよう、ただそれだけ。作戦名は「徘徊」。何か質問ある人挙手!」
「作戦名は俺も決めたかった!!」
「…私…も…」
「外の防衛は大丈夫なんですかい?」
確かにアルザスの言う通り私達7人が抜けたら結構痛いだろう。
だが、モスキーバエトの数が少なくなってきたため、他プレイヤーでも十分対処出来る…はずだ。
「チッチッチッ。アルザス、他のプレイヤーを見くびってもらっちゃ困るよ。彼らは彼らなりに相当強くなったからね。僕ら7人抜けたからって何ら変わりはないだろうよ」
「…そんなもんなのかねぇ」
「街の人の避難は始まったのぉ?」
「まだだよ」
「そうかぁ。ならぁ、血の花がそこらじゅうに咲きそうだねぇ♡」
「そうならない為に私たちが頑張るのですよ?まぁ、避難誘導は修道女さんがやってくれるでしょう。彼処にも教会…と言ってもいいか分からない程穢れたものがありますからね」
ふーん。
第二の街にも教会ってあったんだね。
イベントが終わったら行ってみよう。
どんな大悪魔がいるのか楽しだ。
最初は怖かったけど、ヴィネを見てると悪魔っていい人なのかなと思っちゃったんだよね。
「じゃあ、皆!明日は宜しく!!何処から奴らが出てくるか分からないから警戒を最大限に上げて気を引き締めていこうね!被害は最小限に!出来ればない方が嬉しい!!さぁ、イベントクエストのフィナーレと行こうか!!」
「「「「おー!!」」」」
「フィナーレって…ププッ」
「…カイン…笑わ…ない…」
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