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イベントクエスト⑧
しおりを挟む~主人公side~
セタンタが場を離れてから数十分たった頃、不意にアナウンスがなった。
ピロリん。
『ストーリークエスト「小さな英雄」をクリアしました。
プレイヤー名“るし”に以下の報酬を譲渡します。
◈刻みナイフ×1 ☆4
◈黄金スープ×1 ☆3
◈小英雄のお守り×1 ☆4
・金貨5枚
・銀貨5枚
・銅貨5枚』
「ふあっ!?」
いきなりのストーリークエストクリアに戸惑う。
えっと…これは何でクリアになったの?
さっきのクラン叔父さんが鍵だったとか?
…クリアしたってことは、セタンタはもう助けに来てくれない感じ?
だとしたら…うわぁ、大きい戦力を失くしたぁ。
悲しみに暮れながらも、「モスキーバエト:人」をバッサバサと切り落としていく。
そして防御壁をコツコツ崩す。
今やっとヒビが入ってきたところだ。
それにしてもここまで来るのにかかった時間が長い。
長いし、何より防御壁が厚い。
「あーもう!!攻撃力が高いやつないかなぁ!あ、あった!!神槍あるじゃん!!」
何故、神槍という素晴らしい武器のことを忘れていたのだろう。
早速満月を閉まって神槍を防御壁に向かって投げる。
ピシピシッ
来たこれ!
もうちょいだ!!
「そぉいっ!!」
再度神槍を投げると、
バリンッ!!
防御壁が壊れた。
「っしゃ!!」
神槍が下にいた「モスキーバエト:人」を何体も貫いたのが見えた。
回収しようと動いたその時、腹を抉られたかのような痛みが身体中を貫いた。
「ひぐぅッ…!!」
口から生暖かい血が溢れ出す。
い、痛い。
何が、何が起こったんだ!?
頭がグルグル回る。
恐る恐る痛みの先に手を伸ばすと、「硬いもの」が私のお腹を貫いていた。
有り得ない。
軍服だよ?
あの軍服が貫かれるなんて…。
そんな真似出来るやつがここにいたか?
……いた!!
動かないで佇んでいたヤツが、一体だけレア度の高いヤツがいた。
痛みを堪えて首を捻ると「硬いもの」の先には「蝿の王」が。
となる、と…このお腹を貫通してるものは…。
「やば…ゴフッ…い」
震える手で満月をアイテムボックスから取り出そうとする。
…が、震えのせいで、違うところをタッチしてしまう。
汗が頬を伝う。
早く早く早く早く!!
このままじゃ私が!私がっ!!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
震える右手を震える左手で抑え、何とか満月(みちづき)を取り出す。
「あっ…!!」
直後に身体に異物が入り込んだ感覚があった。
恐怖で身が凍った。
焦りと恐怖で感情が爆発しそうになる中、力を振り絞って、右手にもった満月を使って口を切り落とした。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAkpagggdpmhmgpj!!!」
身体が落下する。
HPがドンドン減る。
熱い。
地面に打ち付けられる前に翼を出さなくちゃ…そう思った瞬間、腹に再度激痛が走り、吹っ飛ばされた。
「蝿の王」に蹴られたのだ。
「ゴプッ…」
大量の血を吐き、風が身体を切る。
飛ばされる速さが速すぎて、見える景色が歪む。
「神よ、我らを助けたまえ」
教会。
そこは汚れきっていた。
だが、そこでは街の外に避難し遅れた住民達が集まり、神に祈りを捧げていた。
突如現れたモンスターからは逃げきれず、ここで隠れているのだ。
彼らは悔いていた。
王の命令に従わなかった自分達が馬鹿だったと。
いつも王は自分達の為にと行動していたのにそれを自分達は裏切ってしまった。
そして、王は死んだ。
住民達は悲しみ、神に祈った。
どうか、我々をお救い下さい、と。
パリィィン!!!
「「「きゃぁぁぁぁあああ!!!」」」
「…っ!!」
ステンドグラスを突き破って黒い翼の生えた人が飛び込んできた。
教会の大理石の床に打ち付けられ、盛大に血を吐き、呻いていた。
「ぐ…ゴプブッ…」
「悪魔だ」
誰かが言った。
朦朧とする意識の中、その言葉がやけに頭に響いた。
ここは教会だろうか…。
だとしたら、修道女がいる…な…。
…【反転】で、天使になれば…助かる…かも…。
黒い翼の生えた人に奇跡が起こった。
なんと、黒い翼が光り輝く天使の翼に。
それでも、なおも血を吐き続け、お腹から酷い量の血を垂れ流している。
「悪魔じゃない!天使様だ!」
「いや、確かにこいつは最初は悪魔だったが今は天使だ。俺は鑑定スキルを持ってるからな。…こいつはきっと悪魔と天使のハーフ魔天使様だ!!」
「誰かっ!ポーションを使え!」
「酷い出血だ!!」
「ハイポーションを使うんだ!!」
「駄目だ!塞がらねぇっ!!」
「だが、顔色が良くなってきたぞ!!」
「きっとこの人は冒険者だ!!街を襲っているモンスターと戦っていたんだ!!」
「だったら尚更治してやらねぇとな!!」
ーブゥン
割れたステンドグラスから、一体のモンスターが入ってきた。
「「「ヒィィィィィィィッ!!」」」
近くにいる人を襲わんとして太い人間の腕を伸ばす。
「た、助けてくれぇええっ!!!」
男が捕まった。
助けを求めるが、誰もそんな力を持っていないし、標的を自分に向けられたくなかった。
もう駄目だと男が諦めた瞬間、モンスターの腕の力が緩まった。
暖かい血が顔にかかる。
男に襲いかかったモンスターは絶命したのだ。
「はっ…なに…がっ!?」
「大丈夫…か…ゴフッ…」
先程まで瀕死の状態だった魔天使がモンスターに攻撃したようだ。
「すま…ない…返り血を…あびさせてしまった…な…?ここは危険…だ。だから、街の外に行け…そこにならアドラーが沢山…いる!」
「助けてくれて、あ、ありがとうっ!!だが、俺たちはここを出ても殺されるだけだっ!!一体、どうすれば…」
男の嘆きを聞いた1人の女が立ち上がった。
その女は修道女。
…大悪魔の封印を一人で守ることが出来る最強の女。
「私が貴方がたを守ります」
「修道女さん、何言って…」
「私、こう見えても、強いんですよ?鑑定出来る方、どうぞ鑑定してみて下さい」
直後に歓声が上がった。
…修道女のLvは???。
これで皆助かる、住民達は喜び、修道女に従った。
「貴方はどうします?大天使様…?」
「…私…は…まだ戦える、から…貴方はあの人達の避難誘導を…お願いします…ゴプッ…」
「ふふっ…そんな傷でまだ戦うなんて、馬鹿ですね。ですが、貴方がた、冒険者のお陰で多くの人が救われています。神に変わって感謝を。では、貴方に勝利があらんことを」
修道女は先頭に立ち、住民達を連れて教会を出た。
それを見届け、自分の体力があとどれ位残っているかを見る。
…残りは103。
これ以上減りはしないが増えもしない。
身体中が痛いし熱い。
…異物が注入された筈だ。
少量とはいえ、身体に異変が起きるだろう。
怖い。
怖い怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
私もあんな化け物になるのだろうか。
皮膚が膨張して破裂するのだろうか。
…寒い。
…熱い。
不意に割れたステンドグラスが目に入った。
それを見てギョッとする。
見つめ返すのは自分。
右目がおかしくなった自分。
白目が黒くなり、黒目だった所は金色の爬虫類の目に変わっていた。
何故に爬虫類?
蝿って何類だっけ?爬虫類ではなかったよね。
これが異物による身体の変化。
痛む身体で調べた結果、変わったのは目だけだった。
「…何これ、カッコイイ」
左目を瞑り、右目で見える世界を見た。
…。
教会内に人が見えるんですけど。
今度は右目を瞑り、左目を開ける。
…。
人いないんですけど。
…。
幽霊ですか?
幽霊なんですね?
両目の世界だと、人が半透明になって見える。
……。
幽霊でした。
見なかったふりをしよう。
「おいお前さん、妾が見えるのか?」
「見えないです 」
しまったぁぁ!!
無意識に答えてしまった!なんて私は馬鹿なことを…。
「お前さん、同族ではないな?…んん?その傷はどうしたんじゃ?血がダダ漏れじゃないか」
「そうなんですよ。ちょっとフラフラしてきました。あれ?貴方は何でここに?」
血が抜けすぎてテンションが上がってきたァ。
アドレナリンがドバドバだね!
「妾は…そうじゃな、ここにいた修道女に殺されたんじゃ。こっそり地下を覗いたら、八つ裂きにされての。いやぁ、あの顔は怖かった怖かった」
「あ、それ分かります。怖いですよね」
「何じゃ、お前さん、見たことあるのか。よう生きとったなぁ。凄いやつじゃ」
「いやぁ、それほどでも。あれ?貴方は何でそんな口調なんですか?若いのに」
そう、目の前の幽霊さんは20代前半のように見えるのだ。
燃えるような紅蓮の髪に、蒼い瞳。
若いし綺麗だ。
特徴的なのは頭から生える大きな二本の角。
「若い?妾がか?うしししし。嬉しいのぉ」
「…貴方は誰ですか?もしかしてのドラゴン的な?」
「むむっ!?何故わかったのじゃ?そうじゃ!妾はワイン。ワイン・ユグゼル・クローツその人だ!!」
「誰ですか?…ゴプッ…」
「知らぬのか?そうか!お前さん、知りたいのか!!それなら仕方ない!妾は竜の国「ヴァレンタイン」の第65代目の王なのじゃ!敬えー!」
「おーそれは凄いです。パチパチ。でその王様が何で死んでるんですか?」
ワインは顔を赤らめた。
「そ、それはのぅ。お忍びで人間の国を回っててな?…人間の国のオレンジジュースというのが美味しくてなぁ。そいで、旅をしているとたまたま面白い噂を聞いたからちょちょっと来てみたのじゃ。その時は妾の装備を全部解除しててな?かつ、◈超弱体の腕輪 をつけておったのじゃ。だから、その、スパンとな?」
オレンジジュース、好きなんだ。
外見は大人だけど子供だなぁ。
「へー…っ…その腕輪を付けなかったら勝てたみたいですね~」
「そうなのじゃ!はぁ、妾、殺された時に修道女に呪いをかけられてな?何でも、輪廻の輪に帰ることの出来ない呪いらしいのじゃ。しかも、ここから出る事が出来ぬ。最悪なのじゃぁ!!むぅ、プンスカなのじゃ!」
呪い、ねぇ。
それなら【反転】を使えば「呪い」から「祝福」に変わるんじゃないかな?
…この気さくな幽霊さんを【テイム】出来たりしないかな?
幽霊とかお化けは嫌いだったんだけど、この人は怖くないし、何か安心する。
【テイム】出来るか試してみよう。
『【テイム】が可能です。【テイム】を申請しますか?』
お、出来るみたいだぁー!
やった!
「ねぇ、ワイン。君を【テイム】したいんだけど、いいかな?私と…一緒に来れば楽しいよ?…っ…私と世界を回らない?」
その言葉にワインが目を丸くした。
そして、少し考え込むように顎をさする。
「…妾と一緒にだと?ふっ妾は王族ぞ?何故妾が一緒に行かねばならぬのだ?」
「あ、ならいいや。諦めるね。君とはもう会わないし、絶交だね」
「いやいやいや!ちょっと待て!妾、嫌なんて一言も言ってないぞ?」
「じゃあ…」
「待て待て。…むむむ。お前さん。お前さんは【テイム】とは何だと思う?」
【テイム】とは?
そんなの言われるまでもない。
「家族になるってことだと思っている」
「…そうか。家族、か。…うししっ仕方ないのぅ。お前さんに【テイム】されてやるわい。だってお前さん、妾がいないと寂しいんじゃろ?そうなんじゃろ?うしししっ」
『スキル【テイム】が成功しました。任意で名前を付けてください』
名前、ねぇ。
別に今のままでもいいんだよね。
ワインってお酒だし。
「ワイン、名前どうする?君のさっき聞いた名前長ったらしいから、最初のワインだけでいい?」
「むぅ…ちともう少し捻りが欲しいのぅ」
捻り、ですか。
いい名前だと思うんだけどなぁ。
んー。
オレンジジュースが好きって言ってたよなぁ。
あ、やばい。
クラクラしてきた。
視界も良好じゃない。
早めに決めないと。
オレンジジュース…お酒、お酒、お酒、お酒っ!!
はっ、あるじゃないか!
オレンジのお酒!
「“バレンシア”はどう?」
「バレンシア?いい響きじゃな?因みに意味は?」
「バレンシアはお酒の種類の一つなんだけど、バレンシア地方で取れたオレンジジュースでカクテル…数種類の洋酒・果汁・薬味などを混ぜあわせた飲み物事なんだ。で、それを作ったことから、バレンシアって名前のお酒が出来たんだ。バレンシアは、杏とオレンジの甘い香りが楽しめるお酒。君は、ワインは甘い香りがするし、オレンジジュースが好きだから、バレンシア。どうかな?」
「ま、まぁいいんじゃないかのぅ。気に入っぞ!妾は今日からバレンシアじゃ!所でお前さん、名前は?」
「あ、言い忘れてたね。私はるし、宜しくね。バレンシア」
「う、うむうむ!そういえばお前さんや。妾、ここから出られないのじゃが」
「あぁ、それは大丈夫」
【反転】をバレンシアに向けて使う。
透き通る霊体に淡い水色の光が浸透する。
「おおっ!凄い!凄いぞお前さん!!呪いが祝福に変わっとる!うしししししっ!お前さん、すごいやつだのぅ!」
「ん、ありがとう…ゴプッ…」
あー、やばい。
出血量が…てか、もう血がちょっとずつしか流れてこないよ。
立ち上がると、フラフラして上手く歩けない。
「お、お前さん?大丈夫かい?大天使なら回復魔法を唱えれば良いのに。まさかっ…そういう趣味を…?」
「違うやい。…私は大天使なんかじゃないんだよね。…堕天使さ」
【反転】を使って元の姿に戻る。
「はー。お前さん、堕天使じゃったのか!!わらわ、初めてみたぞぉ」
「翼、触らないで…。傷に響く…」
「ごめんだのぅ」
「さて、地下に行くか。もたもたしてると、そのうち修道女さんが戻ってくるかもだし。行くよ、バレンシア」
「待て!お前さん、血が!!」
「あははっ今更だよ。大丈夫。征こう」
地下への階段はすぐに見つかった。
…心配なのは、フラフラして階段から転げ落ちないかどうかだ。
ヴィネ、君の仲間を今助けに行くから。
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