運極さんが通る

スウ

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イベントクエスト⑦

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「この虫共が!!僕達にさっさと道を開けろ!」
「…流石にこれだけいると、萎えますね」
「きもいぃ!!」
「早く死ね!」

ボスに近づくと、ユニオンメンバーとその他プレイヤー達が必死にモスキーバエト:人を抑えているのが見えた。
ボスは何もすること無く中央で佇んでいる。
奇襲出来そうだな。

蝿の王の真上まで飛び、満月みちづきの鋭利な刃を下に向けて翼を畳む。
徐々に落下スピードが上がる。
ボスはそれに気づいていないように見えた。
今回のイベントボスは弱そうだ。
例えどんなに強くとも、頭を貫通すれば、まず即死は免れないだろう。

頭のてっぺんに満月が突き刺さるっ、そう思った瞬間…。
有り得ないことが起こった。
頭を貫通するどころか、直上1mで刃が止められていた。
虹色の波打つ防壁によって。

「…んなっ!!A◯フィールドかよ!!」

【鑑定】ではそんなスキル書いてなかったぞ!!
まさかっ…Lvが私より高いから全て見ることは出来なかった!?
もしそれなら厄介だ。
非常に厄介だ。
そのまま蝿の王の上に留まっていると、下にいたモスキーバエト:人が次々と飛び上がってきた。

「邪魔!!」

奴らは街中で強奪してきたと思われる槍を持って襲いかかってきた。
【残月】を飛ばし、【終焉のラッパ】を使い、何とか応戦する。
だが、奴らはモスキーバエトじゃない。
モスキーバエト:人。
進化系だ。
容易に倒せるものではなかった。
槍を投げられ、それを折ったと思ったら別方向から投げられる。
幸いにもそれらは軍服を貫通することはなかったが、大幅に体力を削っていった。

「…っ!!」

アイテムボックスからポーションを取り出してグイッと飲み干す。
皆の方を見ると、死に戻りしている人が多々見えた。

「ベルモット!お前は下に行って皆を助けてやって!!」
「きゅっ!」

ベルモットは一声鳴いて皆の支援に向かっていった。
これで死に戻りは減るだろう。
敵は増え続ける。
地下から這い上がってくる。
ボスに攻撃しようとしても硬い防御壁で近づけない。
どうすれば、どうすれば抜けられる!?

「ホーリーガン!!」

光の弾丸が防御壁に当たった。
このスキルはっ!

「師匠!!大丈夫ですか!?」
「セタンタ!!あれ?ジンとウォッカは?」
「まだ避難誘導を続けてます!!2人が僕に、先に行って師匠の助けになれって言ったので、避難誘導は2人に任せて師匠を助けに来ました!!」

なんて心強い!
でも…。

「助けに来てくれたのは嬉しい!!だが、ボスに攻撃が届かないんだっ!!防御壁に遮られて攻撃が届かない!!」

セタンタはるしの言葉に首を傾げ、じっと防御壁を見つめた。

「師匠!その防御壁、攻撃し続けたら破れる感じになってるみたいです!!」

この際、どうやって分かったんだとは聞かない。
セタンタの言う事は真実のみ!!
ならば私はそれを信じて突き進む!!
防御壁の上に立って満月みちづきでそれに攻撃する。
何度も何度も。
ただ、モスキーバエト:人も黙ってはいない。
槍を構えて突っ込んでくる。
それを満月みちづきで受け止め、【運盗みスティールラック】を使ってモスキーバエト:人に対する被害をジワジワと広げていく。

数の利があるもので、ガシッと腰を掴まれた。
そのままバリアの上から引きずり下ろされそうになる。
だが、ここで落とされる私ではない。
腰を掴んでいる手を掴み、高いSTRによってその両腕を折った。

「aaaaaaaaaaaaaaaッ!!!」
「ふっ!」

折れた腕を持って砲丸投げのようにグルグルと身体を回す。
そして、勢いよく空に投げた。
何体かの仲間達を道連れにして、地面に落ちていった。

「ヒィィィッ!!!」

そいつらが落ちていった反対の方角から避難し遅れた住民の叫び声が聞こえた。
その人を見るかいなや、血相を変えてセタンタが駆け出した。

「クラン叔父さん!!」

クラン叔父さん?
あの?
…。
その人のことはセタンタに任せておいて私はこちらに集中しよう。







 ~セタンタside~

「ヒィィィッ!!!」

師匠がモンスターを飛ばした反対方向からクラン叔父さんの叫び声が聞こえた。

「クラン叔父さん!!」

何があったのかを考える前に身体は動いていた。






クラン叔父さんは、サクラを抱えて蹲っていた。
その1人と1匹にモンスターが迫る。
叔父さんから貰った槍を構えてその間に飛び込んだ。

「叔父さん!!下がってて!」
「せ、セタンタ!?まて!そいつは…」

叔父さんの言葉を聞き届ける間もなくモンスターがその細長い足で攻撃してきた。
こいつはまだ進化していない。
これなら、危なげなく倒せる。

冷静に目の前のモンスターを見たその時、ある事に気づいた。
…心臓が止まるかと思った。
悪寒が走った。

「その…その足についてるの…はっ…」

モンスターの足に見覚えのある布が引っ掛かっていた。
その布はクウの首輪がわりについていた黄色い星印がついたバンダナ。
だが、バンダナだったものは今や真っ黒に染まっており、何とか星印だけが確認出来る状態だった。

何故クラン叔父さんがクウを連れていないか、分かってしまった。
クウは…クウは…。

「うぉぉぉぉおおお!!!」

目の前のモンスターに向かって必死に攻撃する。
視界がぼやけるが、奥歯を食いしばり、何とか堪える。

「セタンタ!辞めてくれっ!!そいつはっ!そのモンスターはっ!!」
「分かってるっ!!」

セタンタの怒りの声にクランは押し黙る。
彼も分かっていたのだ。
こうなった以上、元に戻ることはないのだと。
だが、彼はそれを否定していた。
何年も一緒に過ごしてきた大事な家族だったから。
自分の腕に抱えている子の母親だから。
呼びかければ元に戻ってくれるかもしれないと。
そう信じて何度も目の前のモンスターに叫び続けた。
…返ってくるのは容赦のない攻撃だけ。
もう駄目だと諦めた。
…そんな所に甥のセタンタが現れた。
この子は強くなったから、もしかするとクウを元に戻せるのかもしれない。
そんな淡い期待を抱いた。
だが…もう助からない、とあの子の目はそう語っていた。

「はぁっ!!」

セタンタがクランのあげた槍でモンスターを突く。
青紫の血が飛ぶ。

「エクスプロージョンッッ!」

目の前が青紫に染まった。
染まった布が空を舞う。
気づけば涙が零れていた。

「ごめんなさいっごめんなさいぃぃ…ふぇっ…うう…クウ……たずげられなぐでぇ…ごめんなさい…」

泣き崩れるセタンタの頬をサクラが舐めた。

「わんっ」
「ごめんねぇ…僕が…僕がァ…ざぐらの…おがあさんを…うわぁぁぁぁん」

クランは幼い甥に近づき優しく抱きしめた。
こんなに小さいのに、辛い思いをさせてしまった。

「セタンタ…ありがとう。クウも、そう思ってるはずだ。お前は正しいことをしたんだ」
「違うんだ!叔父さん!…僕は僕はクウをっ…」
「気にするな…とは言わないが、クウを救ったのはお前だ、セタンタ」
「叔父さん!叔父さん…!!でも!でも…クウが死んじゃって…誰がクラン叔父さんの家をまも…るのぉ?」
「なに、傭兵を雇えばいいさ」

それは嫌だ、とセタンタが呻いた。
ならどうするのだと問うと、

「僕が、僕がクラン叔父さんを守る!クラン叔父さんの番犬になる!!…クウを殺したのは…僕だから…僕が!僕がやらなくちゃいけないんだ!!」
「…っ!?お前はまだ若い。そんなことをしなくてもいいんだぞ?」
「嫌だ!!僕がクウの代わりになるんだ!!…許してなんて言わない!言えないんだ…」

クランは大きくため息をついた。
セタンタは良くも悪くも真っ直ぐだからこういうことを簡単に言う。
しかも一度言ったことは絶対に折れない。
強情なところは父親譲りだな。
脳裏に眩しい笑顔を向ける男の顔が映る。

「はぁ、なら、桜が立派な番犬になるまでお前は俺の番犬、クー・フーリンクランの猛犬だ。さっきも言った通り、サクラが大きくなるまでだがな。…これから宜しくな。クー」
「…ずびびっ…うん!!」
「ここは危険だ。だから早めに『契約シンバシー』を行いたいと思う。セタ…クー・フーリン、覚悟はいいな?」
「はい!」




こうして彼の、セタンタのストーリークエストは終わりを迎えた。
幾つものルートを外れ、イベントクエストの中でセタンタのクエストは終わったのだ。
今後の彼の物語ストーリーは変わらない。
最後にあるのは悲劇のみ。
だが、そんな彼の物語ストーリーに入り込み、変える力を持つ者達がいる。
それこそがプレイヤー。



この世界で言うところの「アドラー」だ。
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