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魔眼
しおりを挟むピロリん。
『ログインしました』
5日ぶりのログイン!!
楽しみでもあったが、それと同時に不安もあった。
…自分の身体が穴に落ちて、埋められているんじゃないかと、そう思ったからだ。
だが、その心配は無用なようだ。
瞼を閉じていても分かるこの光。
地中にいないということは確実だ。
誰が助けてくれたのだろうか。
…ベリトか?
いや、あの嫌味な奴が助けてくれるはずはなかろう!
きっと私が落ちていくのを鼻で笑って見ていたに違いない。
ケチなやつだ。
目を開くとそこは透き通った場所だった。
海底からは木の太い根っこが。
…海底?
「ごぽぽ?」
ん?
ごぽぽ?
先程から妙に体が動かしづらい。
水が口に入り込んできた。
水?
ここは、海か何かの中なのか!?
このままじゃ、溺死してしまう!!
「ごぽぽ…ぼ…ぉ」
焦りすぎて盛大に水を吸い込んでしまう。
鼻がツーンとした。
これは溺死…。
何でログインして早々溺死なんだぁぁあ!!!
バタバタと足や腕を動かし水面を目指すが、かなり遠い。
空気がなくなってきたその時、不意に腕を何かに掴まれた。
ザバッ
「ゲホッゲホッ」
私の腕を引っ張り上げてくれたのは…ベリトだった。
ニヤニヤと笑みを浮かべ、宙ぶらりんな私を見て、馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「ふんっ。家畜如きが我に助けてもらおうなどと数億年早いわ。…それにしても家畜、貴様は随分と泳ぐのが下手よなぁ。まるで溺れたカエルのようだったぞ?実に滑稽だった!!」
「ごほっ…ベリトッ!…取り敢えず、引っ張り上げてくれたことに関しては感謝する。だけど、私は家畜じゃないぞ!!そして、そろそろ下ろして欲しい」
「家畜風情が吼えるではない。…敬語は使わぬのか?この大悪魔様に対して少しばかり不敬であろう?」
「五月蝿いわ!このッハゲっーーーーー!!」
「む?ハゲ?ハゲとは何だ?…分からぬ。分からぬが、貴様、その言葉は馬鹿にする言葉であろう?我を馬鹿にするとは万死に値する。貴様なぞ引き上げるべきではなかったな」
「ふんっ!私だって好きで溺れてたわけじゃないんですぅ!!あと、ベリトに引っ張り上げて欲しいなんて頼んでないし!!」
ベリトはその言葉を無表情で受け止め、そのまま自身の椅子に座ってくつろぎ始めた。
…ちょっと言いすぎたかな。
2回も助けてくれたんだし、あの言い方は不味かったかも?
自分が言われて嫌なことは人に言うな、だったよね。
ここは私が悪い。
潔く謝ろう。
「ベリト…ごめん。あの、ホントに助けてくれてありがと。助かった。…さっきはごめんなさい」
「…」
返事が返ってこない。
これは相当怒ってらっしゃる。
私には目もくれず、本のページをめくっている。
暫く続く沈黙がキツイ。
私は耐えきれず、部屋を出ようとするが、扉が開かない。
押しても引いても開かない。
…密室?
流石に蹴り飛ばすわけにも行かないため、扉を背に座り込む。
どうしよう。
沈黙が辛いというのにプラスして密室だと!?
私を殺しにかかっているのではないだろうか?
体育座りのまま芝生の上を転がる。
「プッ…ハハハハハハッ。家畜、貴様は一体何をやっているのだ?家畜のやる事一つ一つが理解出来ぬものよなぁ」
「だって!ベリトが喋ってくれないから」
「我が貴様のような家畜に喋りかける必要など皆無であろうが。ん?そういえばだ、家畜。貴様、小瓶を忘れていないか?もうボケてきたのではなかろうな?」
「…あ」
忘れてたぁ。
いそいそと小瓶をポケットから出し、栓をとる。
すると、小瓶の中から風が吹き出した。
「ファッ!?」
強風で目が乾き、涙が出てくる。
このままではドライアイになってしまう!!
ギュッと目を瞑り、風が収まるのを待つ。
「るし!久しぶりじゃのぉ!」
懐かしい声…数日前に聞いた明るい声が耳に届いた。
「バレンシア!!」
目の前に現れた赤い髪の女の人に抱きつく。
「うしししししっ!そんなに妾と会えたのが嬉しいのか!!…妾もるしと会えて嬉しいぞ!!」
ベリトにはないこの安心感。
はぁ、生き返る。
そう言えば、バレンシアのステータスを見たことがなかったなぁ。
【鑑定】しよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
種族 レイス:竜 ☆4
名前 バレンシア
Lv 11
HP 550/550 MP 450/450
パッシブスキル
・王の威圧
アクティブスキル
・鑑定
・竜術
・透化
・実体化
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
☆4なのにこのスキル達は凄いですね。
幽霊になっても、生きてた頃のスキルはそのままなのだろうか。
「バレンシア、生きてた時のスキルはそのまま引き継がれている感じ?」
「いや、妾のスキルがこんなに少ないわけなかろうて。生きてた頃は数え切れんほどあったわい」
…さいですか。
流石竜、やりますな。
「おい、現存せぬもの如きが我の家畜に長々と触れるではない」
直後にフワリと体が浮いた。
抜け出せぬ!
「ぐぬぬ!妾だって好きで死んだ訳では無いんじゃぞ!!」
「戯け。貴様が忍んで遊んでいたから死んだのであろう?」
「うぐっ……その通りじゃ」
「さて、45柱に貴様が起きたことを伝えに行かねばなるまい?」
「え…待って!待て待て!まさかこの体勢で!?」
「ふんっ!当たり前であろう?」
「下ろしてぇ!!」
ベリトの腕から逃れようにもガッチリホールドされており、びくともしない。
ベリトが扉の前に出ると、ひとりでに扉の鍵が開いた音が聞こえた。
「そこの屍、扉を開けよ」
「うぬぬっ!…だが、お前さんはるしを抱えておるのじゃ、仕方あるまい」
「バレンシア!助けて!」
「すまぬ、るし。妾がお前さんを助けようとしても、助ける前に殺されるのが見えとるのだ」
「よく分かっておるではないか屍。さぁ、行くか」
歩く度に揺れる景色を見て、私は気付いた。
ここはユニオンハウスだということに。
だとしたら、このままの格好で進まれるとメンバー達とバッタリ鉢合わせしてしまうかもしれない。
その相手がもしもカインだったら、ここ何日かはずっと馬鹿にされ続けるだろう。
そうなったら最悪だ。
「べ、ベリト様~?下ろしていただけないでしょうか?」
「何を言うか。黙って我が腕の中にいろ」
そうこうしているうちにリビングが見えてきた。
あぁ、終わる。
恥ずかしすぎて死ぬぅ!!
顔を赤い甲冑に埋める。
「るし様!!!」
「るしー!!だいじょーぶ??」
「るし、俺、俺はァァ!!…ぐずっ…」
「るし、無事だったか。よかった…」
「きゅ!」
聞こえるのは家族達の声。
あれ?メンバー達は?
「ふんっ!家畜になりそこなった奴らには貴様のことなぞ話しておらん」
「他の皆はー旅?ソロ?狩り?って言ってたよー」
「あの方達は一人旅を好んでいるそうなので、ここに帰ってくるのもたまに、らしいです。るし様、ご無事で何よりです!!…28柱、るし様を私(わたくし)に渡しなさい」
「何故我が精霊風情の言うことなど聞かねばならんのだ?」
バチバチとベリトとギムレットの間に火花が散る。
この2人は、絶対に仲良くなれないだろう。
「ん?るし、汝の後ろにいるレイスは誰だ?」
あ、そうだった。
皆に紹介しなくちゃね。
なんたって、今日から家族に加わるのだから。
「彼女の名前はバレンシア。もとはある国の王様だったんだって!!皆、新しい家族だよ!仲良くしてね?」
「バレンシアおねーちゃん?よろしくー。僕はジンー!!」
「妾はバレンシアじゃ。よろしくのぅ、ジン」
早速2人は仲良くなれたようだ。
私もそろそろここから降りなくてはね。
「ベリト、降りたい。あと、ベリトの甲冑は硬いから痛い…」
「む?なら後で変えるとしよう。我も貴様を抱くのに疲れた。貴様…太ったのではないか?」
「失敬な!!」
ベリトの腕から逃れ、地面に足をつける。
皆には迷惑かけたなぁ。
何せ5日間もログインしなかったのだ。
心配しただろう。
…心配してなかったかもしれないけど。
でも、だからこそ、皆に言わなければいけないことがある。
帰ってきた時に必ずいう言葉を。
「皆、ただいま」
「「「「…っ!!」」」」
ギムレットはバッと口を抑え、ジンは後ろを向き、ウォッカは嗚咽を漏らして座り込み、ベルモットはクッションの下に潜り、ヴィネは私を抱きしめた。
「「「「おかえり」」」」
正直言って、皆がここまで悲しむとは思っていなかった。
それほどに危険な状態だったのだろう。
申し訳ないことをした。
「るじぃー!!俺、俺、心配じたよお」
ウォッカが鼻水を垂らして抱きついてきた。
そのまま顔を軍服に擦り付ける。
…抱きついてくれるのは嬉しい。
それは嬉しいんだけども、鼻水を軍服に擦り付けて欲しくはないなぁ。
顔を離したら、鼻水の線と軍服が繋がっているんでしょ?
まぁ、後で【生活魔法】掛けとけばいっか。
「ごめんね。心配かけた」
ポンポンと頭を撫でる。
それをギムレットとジン、ベルモットが、モノ欲しげに見ていた。
「ギムレット、ジン、ベルモットもおいで。」
「はい!!」
「…うん!」
2人と1匹の頭も撫でる。
大の大人が子供に頭を撫でられてるって何か不思議な感じだ。
しばらくたち、急にヴィネが私に見せたいものがあると言って、私の腕を引いて外に出た。
確か外は草原だったはず…。
目の前に広がる光景に目を剥いた。
5日前には、そこに草原があった。
だが、今はそれがない。
変わりにあるのは綺麗に並ぶ家々。
舗装された地面。
夕日に照らされ、幻想的だとさえ見えるその光景。
…。
言葉が出ない。
「どうだ?驚いただろう?我1人で作ったのだ!元来我は家を建てたりするのが得意でな」
「…驚いた…。…え?…す、凄い」
「だろう?我も作ったかいがあったというものだ」
凄い。
全てが凄い。
家の作りはリアルのそれと似ている。
「住みやすさを追求したからこうなったのだ」
…ヴィネ、君は凄いよ。
でもね、
「誰が住むの?」
「…」
何も考えずに建てたらしい。
折角建てたのに誰も住まないというのは勿体ない。
上空からも見たところ、土地の端50m以外に家や、巨大な畑など、色々なものが敷き詰められていた。
張り切っていたことだけは伺え知れる。
崩せとは言えないし…。
こうなると、街の住民が必要になる訳なんだよね。
住民…か。
「るしー、あそこの街の人はどうー?虫に家を壊された人とかいっぱいいるはずだよー?」
それは名案だ。
だけど、帝国の人とが混ざってるかもしれないんだよね。
ホイホイと入れるわけには行かない。
それに、彼らの街は彼処。
帰る場所があるのなら、わざわざここに連れてくる必要は無いだろう。
「なら、旅の最中に家を探してる人とかを連れてくればいいんじゃね?」
「それいい!」
「お、ならば奴隷市場を襲って奴隷を住まわせても良いかもしれぬな」
「!?いや、それはちょっと…。一応考えとく」
というわけで、住民のことに関してはどうにかなりそうだ。
暫くは無人な日々が続くのだろう。
…お化けが住みついたらやだな。
「るし様!!ご飯の用意が出来ましたので、家にお戻りください!今日は宴です!!」
「「「おっしゃあ!」」」
「ありがとー!」
3人が拳を振り上げたのは何故だろ。
ギムレットの料理はいつでも美味しいはずなのに。
お腹すいてたのかな?
満腹なお腹を抑え、自室に戻りベッドに横たわる。
はぁ、このフカフカな感触が堪らんよ。
食べてすぐに寝ると牛になるというが、牛になってもいいほど眠たい。
ピロリん。
『身体と魔眼が完全に融合したことにより、スキル【魔眼:蝿】を習得しました』
突如鳴ったアナウンスに、落ちそうになった頭が覚醒する。
なぬ!?
【魔眼:蝿】とな!?
あれかな?目がおかしくなったヤツ…。
ベッドから飛び降り、鏡覗く。
…と、右目が変わった自分がいた。
「厨二ってるけど、かっこいい!!」
【魔眼:蝿】の効果はなんだろうか?知っておかないと、ヤバイ気がする。
【鑑定】しておこう。
【魔眼:蝿】…10秒以上見つめた相手の身体からモスキーバエトを生成する。魔眼は真実しか映さない。
「ちょっ!!」
なんやこのスキル!
エグすぎるだろ!!
しかも、パッシブスキルでoffに出来ないとか。
私にボッチになれと言っているようなものじゃないか!!
「どうしよう…」
このままじゃ、部屋から出られないよ。
…出たら皆を傷付けてしまう。皆と一緒にいられない。…辛いよ。こんなスキルをゲットしてしまうなんて……なんて不運なのだ。
「ふむ、どうした?家畜。そんな不細工な顔をして」
私しか居ないはずの部屋からベリトの声が聞こえた。
振り向くと、不敵な笑みを浮かべた大悪魔がいた。
「ベリト!?入っちゃダメ!」
「何故に?我がどこへ行こうとも我の勝手であろうに。ん?さては貴様、魔眼が覚醒したのか?」
「そうなの!!だから、部屋に入っちゃダメ!!」
ベリトを見ないように両手で目を覆う。
「どれ?見せてみろ」
解かれまいと力を入れるが、容易に両手を下げられた。
「ふっ。いい目ではないか。だが、その効力はちと厄介だ。…ふむ。そういえば、アレがあったな」
ゴソゴソとアイテムボックスから取り出したのは眼帯。
それを器用に右目につける。
「これならば問題あるまい?その眼帯はな、あらゆるものを封印する力を持っている。故に、貴様のその目も封印されたという訳だ。これで良かろう?」
「……っ!ありがと…」
「我は疲れた。ではな、家畜」
そう言って、ベリトはベッドに倒れ込んだ。
声をかけるまもなく、緩やかな寝息が聞こえてくる。
…そこ、私のベッド何ですけど。
どかそうにも、眼帯をくれた恩がある訳だし、手を出すことが出来ない。
仕方ない。
ベリトの邪魔にならないよう、ベッドの隅に蹲る。
これなら何も言われまい。
さて、明日は何をしようか。
そう思いながら、重い瞼を閉じた。
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