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お出かけ
しおりを挟む目を開けると、いつもの自室の天井。
大きく欠伸し、背伸びをする。
窓から差す太陽の光が眩しく、目を隠す。
ベッドのモフモフを堪能する。
ここからもう1歩も動きたくない。
なんていい朝なんだ。
「ふっ…なんだその口は。随分とデカイ口をしておったなぁ家畜」
前言撤回、悪い朝だ。
声の聞こえた方向に顔を向けると、深紅の瞳と目が合った。
いい顔してるくせに性格が悪い。
言うこと一つ一つに刺がある。
会ってからというもの、何度硝子のハートを抉られたことか。
「何でベリトがいるの」
ムッとした表情をベリトに向けると、口を三日月型にして、微笑み返してきた。
この微笑みに騙されてはいけない。
こういう顔をしている時に限って悪いことを考えているのだ。
「馬鹿者。ここは、我が領域ぞ。貴様こそ何故ここにおるのだ」
「…ここ、私の部屋だから」
駄目だ。
首を傾げてやがる。
ここはもう起きて、下に行こう。
「家畜、動くな。暫し面白いことをしよう」
ベリトは扉を見てニヤリと笑い、ベッドの上で横になった。
「るし様ー!!朝ごはんですよー!」
ガチャ
扉が勢いよく開いて、満面の笑みを作ったギムレットが現れた。
「あっ」
「ん?羽虫ではないか。何か用か?」
室内の温度が一気に下がる。
ギムレットの足元から徐々に部屋が凍っていく。
…ベリトぉぉぉ!!!
面白いことってこれだったのかよ!!
全っ然面白くねぇよっ!
お前、ギムレットを挑発したら世界が終わっちゃうだろ!!
あと、私の部屋が凍っちゃうよ!!
「るし…様?」
「ぎ、ギムレット!これは違うの!」
「ん?何を言うか、家畜。我と一緒に寝たであろうが?」
馬鹿、そんな事言っちゃダメ!!
確かに寝たけどさ、君が殆どベッドを占領していたじゃないか!
頼むからギムレットを煽るような真似をしないでよぉ!
「るし様、後でお話があります」
「はい」
絶対零度の光を灯したギムレットは、強く扉を閉め、下に降りていった。
…ドアノブにヒビが入ってる。
さっきまでモフモフだったベッドが凍ってる…。
「くっ…ハハハハハハッ!!見たか家畜、あの羽虫の顔をっ!!最っ高だなぁ!!」
「ベリトの馬鹿ぁぁ!!」
近くにある凍った枕をベリトに投げつけて、ギムレットの後を追った。
気分は浮気が見つかった男の人だ。
まぁ、浮気とかそういうのしたことないけど?
…年齢イコール彼氏いない歴ですから。
朝ごはんを終えて、凍りのギムレットに連れていかれようとしたその時、
「おはようございやす!お、いたいた。るしさーん!!イベント終わったから一緒に今から帝国に行きやせんかー!!モンスターオークション行きやしょ!」
救世主のアルザスが現れた。
よくやった!
君のそういう空気を読まないところが大好きだぞ!!
「お!行こう行こう!!ごめん、ギムレット、今から旅に出るね!!ジン、ウォッカ、ベルモット、バレンシア、行くよ!!」
名前を呼ばれた4人はご飯を口に詰め込む。
悪いね。
でも、今はここから逃げないといけないんだ。
「「「「おー!」」」」
「るし様…」
ギムレットの制止を振り切り、アルザスのところまで走る。
そして、彼らはその場から消えた。
「我も行こうか」
「…ベリト、貴方、るし様と何をなされていたのです?」
「羽虫風情に答えるものなど持ち合わせておらん。…だが、なぁ?」
ベリトの意味有り気な目に、ギムレットはイライラを募らせる。
「あ?」
ヴィネは自身に火の粉が降ってこないように、2人の戦いを傍観することに徹した。
アルザスの黒いカードは、「シナンティシ」の門に繋がっていた。
街の中は賑やかで、5日でほぼ全ての瓦礫は取り除かれていた。
そんな街を見ていると、心の中に穴が空いているかのような感じがした。
…何か忘れている気がする。
とっても大事なものを。
「おい、まだ誰も抜けない大槍が王城の穴の近くにあるらしいぜ!」
「抜いたら勇者だな!!」
「何でも☆7武器らしくてよぉ」
「神槍だってさ!!」
あ、忘れ物は神槍だ。
思い出せてよかった。
危うく忘れていくところだった。
通りすがりの人たち、感謝するぜ。
「アルザス、私、この街に忘れ物あるからちょっと行ってきていいかな」
「おう、いいですぜ!」
「ありがと。あ、4人もここに残っててね。すぐ戻ってくるから」
そう言い残し、足速に広場に向かった。
王城付近には人がぎっしりと言ってもいいほど敷き詰められており、熱が篭っていた。
…なんだこの賑わいは。
壊される前よりも活気があるじゃないか。
…そんな光景にどこか恐ろしいものを感じた。
波に揉まれながらも、神槍があるであろう付近に到着すると、気温が3度ほど上昇した。
かなり盛り上がってるみたいだ。
さしずめ、叙事詩のアーサー王物語に出てくる、聖剣エクスカリバーを抜かんとする者達のよう。
「俺が伝説になるんだァァ!!」
「抜けろぉぉ!!」
「神槍!!」
「英雄になるのは俺だ!!」
「かもーん!」
「この勇者たるソリステアに抜けないものはない!!」
何人もの人が挑戦し、敗れていくのが見える。
そりゃ、仕方ないですわ。
だって、持ち上げるだけでSTR500必要なんだよね。
持てる人は早々いないでしょ。
神槍を抜くために列が出来ているが、私はそれに並ぶ気など毛頭ない。
だって、神槍は私のですもん。
人を縫いながら神槍に近づく。
何人かがかりで引っ張っているのが見えた。
…無理だって。
ジャンヌが2人いたら抜けるかもしれないけどさ。
人並みを抜け、神槍に向かう。
「おい!順番抜かしは駄目だぞ!!」
「軍服じゃんか!」
「はん!どうせ抜けんだろ」
「調子に乗りやがって」
「「「Boo Boo!!」」」
嫌味を受け流し、神槍に手を触れる。
「ごめんね。待たせたかな?」
私の問に答えるように赤く輝いた。
いい子だ。
石台から神槍を引き抜き、アイテムボックスに仕舞う。
さて、この人混みから抜けるためには、【飛行】を使うのがいいだろう。
これで安心して帝国に行ける。
もう一度王城跡を見るが、穴が空いた感じはしなくなっていた。
やっぱり、穴の空いたかのような虚無感は、神槍だったんだね。
これを回収できてよかった。
…立つ鳥跡を濁さずっていうからね。
門の前に降り立ち、何やらバレンシアと話し込んでいるアルザスに近づく。
「あれ?どしたの?」
「お、るしさん、おかえり。今な、鍛冶の腕の上げ方について語ってたんですぜ?このお姉さんはなかなか博識だな!」
「ん?だって、多分だけど、この人、100年は軽く生きていると思うし」
「失敬な!!るし、妾は、1030年生きておる!若造と一緒にしないでたも」
バレンシア…お婆ちゃんだったんだね…。
道理で喋り口調が古かったわけだ。
「バレンシアお婆ちゃんー!」
「嫌じゃ!お婆ちゃんになどなりとうない!!」
「いいじゃねぇか。お婆ちゃん!ぷぷ…」
目尻に涙を溜めたバレンシアをジンが慰める。
…非常にシュールな光景だ。
あって1日足らずだけど、仲良く出来てるようで何よりだ。
「さて、そろそろ行こうか」
「おう」
目指すは帝国。
そうそう、帝国といえば、発達した技術、美味しいご飯、美しい服、整った街並み、で有名な国らしい。
しかも、戦では百戦錬磨、百戦百勝。
働かなくても、何でも手に入る素晴らしい国。
まさに完璧な国とも言える。
…だが、そんな帝国には黒い噂が絶えなかった。
人体実験をしているとか。
人々は洗脳されているとか。
国まるごとがモンスターだとか。
女帝は狂っているだとか。
実は、先代の皇帝を殺したのは今代の女帝だとか。
そんな噂を真に受ける人は少ないのだが、行けば必ず違和感を感じるらしい。
これは全て掲示板で拾った情報だから、何が本物なのかは分からないんだけどね。
そんな黒い噂の絶えない国「ザバブルク」の女帝はどんな人なのだろうか。
女の人、ということは分かっているのだけど。
きっと凄いマッチョなのだろう。
厳つい顔をしているに違いない。
性格もベリトのような感じなのだろう。
…うへぇ。
何か無理だ。
会うことはないだろうけど、そういう人の近くには当分いたくないなぁ。
ベリトが二人いると思うと、気が滅入るよ。
「るしさん、知っていやすか?蝿の王の通ってきた穴、実はあの帝国の近くから掘られていたらしいですぜ?」
「へ~。…帝国の仕業とかかなぁ?」
有り得る。
帝国ならば、やりかねない。
門番さんが言っていたのだが、帝国は人間主義国家らしく、人間以外の存在は認めない。
よって、「シナンティシ」は罰の対象になったのだろう。
何せ、帝国には秘密裏に人外の者を国に密入国させていたのだから。
……帝国で、酷い目にあっている人を見たら、放っておけそうにないな。
私は起こるであろう事件想像し、頭を悩ませた
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