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階段を登ろう
しおりを挟む向日葵の森を延々と進んでいると、いつの間にか辺りを霧が包み込んでいた。
この先は真っ白で何も見えないため、かなりの濃霧で包まれていると思われる。
「アルザス、帝国に行くためのルートでさ、こんな深い霧の情報、掲示板には載ってなかったよね」
「そう…でげすね。霧に関するものは何一つ載ってなかったでやす」
私とアルザスの読み落としということはないだろう。
ということは、だ。
この状況に陥ったことは、かなりおかしい話になる。
深い霧、立ち込める静けさ。
一向に襲ってくることのないモンスター。
これはまるで、あのシークレットクエストの前兆のようだ。
「全員、装備をガチに変更。多分、このまま進むとシークレットクエストとかち合うことになる」
「シークレットクエスト…」
私はもうあの時のようなヘマはしない。
させない。
あんなこと、二度と起こす気もない。
「るしー大丈夫ー。僕達、強くなったんだもんー」
ジンは、ニコッとなんの曇もない可愛い笑顔を私に向けた。
…そうだ。
私達は強くなった。
だから、心配はしなくてもいい。
『○黒龍の軍服一式を装備しました』
昨日仕舞ったばかりなのにまた取り出すとは思いもしなかったよ。
また宜しくね。
軍服。
辺りを警戒し進むこと、およそ2時間。
濃霧で何も見えなくなり、マップだけを頼りに進んでいた。
進んでいる筈なのに、気付けばマップ上にある緑のマーカーは同じところをグルグルとワープしている。
「るしさん、俺ら、無限ワープしてないですかい?」
「…だね。でも、ワープしているにしては、何処かおかしくない?」
「だな。俺ら、いつの間にか階段を登っているしな」
そう。
ウォッカの言うとおり、私達はいつの間にやら階段を登っていた。
試しに階段の横を進むと、それが永遠に続く。
降りたと思えば、登っている。
どちらにせよ、前に進むしかないようだ。
いつしか口数も少なくなり、黙々と階段を登る。
そんな沈黙に耐えられない者が一人いる。
そう、何を隠そう私だ。
「みんな~しりとり しよ!」
どうやら皆は喋る元気がないようだ。
でも、1人で喋るのは退屈なのだ。
「誰か~退屈すぎて死んじゃいそうだよ~」
一言くらい返事してくれたっていいじゃないか。
そう思い、後ろを振り返ると誰もいなかった。
…早く登りすぎたかな。
きっと皆ゆっくり登っているから、声が聞こえなかったんだ。
もう少し待てば私に追いついてくれるはずだよ。
どれだけ待っても来ない。
もしかして迷子になったとか?
もう、しょうがないなぁ皆は。
普通はここから動かない方が吉なんだけど。
動きたくて仕方が無い。
ただ待つというのは性にあわないからね。
進もう。
「階段を登り続ければみんなに会えるよ。きっと…」
仲間を信じて前へ前へ。
コツコツと一人分の足音が響く。
それ以外はあまりにも無音すぎるため、恐怖が心を縛る。
誰かを呼ぶことは出来ないのだろうか。
例えば召喚とか。
ジン達テイムモンスターは、まだそういうことは出来ない。
ギムレットは、容易に家を離れることが出来ないだろう。
そもそも連絡手段が無い。
ヴィネは…出来る。
ただ、MPがゴッソリ持っていかれるけど、この際気にはしない。
アイテムボックスから○魔術書を取り出し、白紙のページをめくる。
ヴィネと書かれたページを開く。
1度唱えただけの呪文。
あの時は、一体どんな悪魔が現れるのだとビクビクしてたなぁ。
懐かしや。
「出でよ。我が手足、我が従者よ。今、その姿を我が前に顕せ。捧げるは我が魔力。顕現せよ、45柱!!」
空中に大きな魔法陣が現れた。
「おいっ!28柱何をするっ!!」
「黙れ45柱!!」
…ん?
臙脂色の魔法陣の横に真紅の魔法陣が現れた。
まさかと思い、自分のMPを見ると、残りが260になっていた。
二つの魔法陣が輝きを増し、2柱の大悪魔が召喚された。
…何でベリトがいるの?
私が呼んだのはヴィネだけなんですけど。
「家畜、貴様、我を呼ばずに45柱の召喚とはどういう了見だ?」
「すまぬな、召喚途中に28柱めが乱入してきたのだ」
「…ベリト。君のお陰で私のMPがスッカラカンだよ」
「はんっ!当たり前であろう?我を呼ばぬからそうなるのだ」
ぐぬぬ…。
他の柱を呼ぼうとするたびに乱入されるのは痛い。
「るし、汝のその装備ならばMPが自動回復するのではなかったか?なら、大きな心で今日の件は見逃してやってくれ」
ヴィネ…。
なんていい悪魔なんだ。
まぁ、1人よりも2人、2人より3人の方が楽しいからね。
「なぁ、45柱。ここは……。ふっ、懐かしいものよなぁ」
「汝と意見が合うのは好かぬが、…そうだな。懐かしいなぁ」
ん?
2人はここを知ってるのかな。
聞きたいけど、どうせ後で分かることだろう。
ネタバレはあかん。
あ、そうだ。
このまま進んでも暇だろうから…。
「しひとりをしよう」
「しりとり?」
「尻取り?」
そっか、2人とも「しりとり」を知らないんだ。
「しりとりって言うのはね…」
「ルール」
「グッ…またか。家畜、貴様わざとやっているのではなかろうな?…る、る、る、る?」
「クハハハハハッ!28柱、汝はそこまでのようだ」
「黙れ45柱!気が散るであろう?…る…る…る…る……はっ!!ルーレット」
「ト!?28柱、汝さっきから「ト」で終わるものばかりではないか!!…ト…ト…ト…ト」
意外と盛り上がってます。
もう笑いを堪えるのが辛すぎます。
「るしっ!汝笑うでない!!我がこんなにも頭をフル回転させているというのに」
「ごめん…ふふっ」
「フッ…負けを認めるしかないのではないか?45柱。所詮貴様はその程度」
「ト…ト…ト…トーテムポール!!」
な、なんだとぉ!?
る…?
さっきので最後だったのに。
「家畜、もう諦めても良いのだぞ?ん?」
る…あっ!!
「ルート!!」
「むっ…ト……確か彼奴がいたな。ふっ。これで終いだ!トール!!」
「な…なにぃ!?ル…ル…ル…………る……?おぉ!!ルーン!!」
「はい、終了。ヴィネの負け」
ガックリと肩を落とし、項垂れるヴィネ。
ベリトはニヤニヤとヴィネを見下ろしている。
ヴィネ…君はよく頑張った。うん。
足を次の段差にかけようとしたその時、突然霧が晴れた。
「うわっ!!」
驚くのも仕方がなかった。
だって、白い階段は霧のせいで白く見えていただけで、実は透明だったのだから。
辺りは澄み通った空で包まれてるが、何処にも太陽の姿は見当たらない。
そして、有難いことに、永遠に続くと思われた階段のゴールが見えた。
頂上だ。
「久しぶりだ」
「あぁ」
2人は感慨深げに先を視ている。
頂上には何があるのだろう。
好奇心が疼いて仕方がない。
再び足を進めようとすると、階段が透明で段差が分かりにくくなっていたため、足を引っ掛け盛大にコケた。
「あっ!」
受け身を取ろうとするその前に、ヒョイと身体が持ち上げられた。
「貴様は転ぶのが好きよなぁ」
「好きで転んでるんじゃないし!足元が見えにくくて転んだだけだもん。…あと、下ろして」
「うん?甲冑でないのだから痛くはなかろう?」
確かに。
今のベリトは滑らかな赤いコートを着ている。
触り心地は最高である。
だが…。
「痛くはないけど、恥ずかしいのっ!!」
「フッ。これだから男を知らぬ小娘は」
「お…お…お…おと…いいの!!ヴィネ!助けて!!」
「28柱、るしは我の方が良いと言っているぞ?」
「なに?」
そういうことじゃないのぉ!!
もうヤダ。
この人達私の話をまるで聞いてない。
…大人しくしておいた方が賢明だろう。
「家畜、着いたぞ」
パッと手を離され、お尻から地面に落ちる。
「~っ!」
これがもう痛いのなんの。
階段をお尻から滑り落ちたみたいだ。
「るし、大丈夫か?ほら」
差し出されたヴィネの暖かい手をとり、お尻を擦りながら立ち上がる。
ふと、視界に花びらが映った。
ん?
なんでこんな所に花びらが。
顔を上げると、そこには広大な花畑広がっていた。
青い花が咲き誇り、一瞬海にでもいるかのように錯覚してしまう。
そんな美しい海の中に白い家が1軒建っていた。
「さぁ、我らの王と対面だ」
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