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逃避行
しおりを挟む「アッシー」はあの後見つかることはなく、私達は無事に帝国へ着いた。
黒い外壁に覆われた帝国は少し不気味であった。だが、いざ中に入ると不気味さを掻き消すような明るい場所であった。
空には警備用と思われる偵察器具が飛び回っており、始終犯罪者を捕えんとせんとしているのが目に見えた。もしかすると、犯罪者ではなく、密入国者やスパイを特定しようとしているのかもしれない。
地面にはゴミ一つ落ちてはおらず、まるでどこかのテーマパークにいるようだった。
クルクルと一人でに箒とちりとりが踊りながら落ちたゴミを瞬間にとっていくというパフォーマンスのような動きが、初めて帝国に入るプレイヤーを魅了していく。
アルザスから聞いたのだが、これらの道具達を魔道具と呼ぶらしい。中に魔石が仕込まれており、その魔石を媒体として動いているようだ。
夢の国のようにも思えるのだが、「シナンティシ」を壊滅させようとしたし、古城地下で非道な実験も行っていた。侮ることは出来ない。
帝国ではすれ違う人々は皆が笑顔を絶やさず、一見幸せそうに見えた。
子供も大人もお年寄りも。
まるで笑顔が普通であるかのようにさえ見えてくる。
それが私には少し怖く感じた。歪んだ笑顔のように見えた。「シナンティシ」で見た人々の顔は目に光があり、笑っている人も真面目に前を向いて歩いてる人もどこか生に満ち溢れていた。
帝国の人々にも目には光が宿っていたのだが、光は狂気とも言っても過言ではないほどギラギラしており、笑顔以外の表情の人がいなかった。全ての人が笑顔を貼り付けて歩いていた。
「るしさん、あれを見てくだせぇ」
見ると首に頑丈な首輪を付けられ、鎖で繋がれている人達がいた。
その鎖を引っ張る人は奴隷商人と見受けられる。でっぷりと出た腹を揺らし、笑顔を振りまきながらボロボロの奴隷を引っ張っている。奴隷も笑顔を浮かべているが、頬が引き攣っているため、無理をして浮かべているのがわかった。
私はおもむろに奴隷達のマーカーを見て驚いた。白マーカーの中に緑マーカー…つまりプレイヤーが混じっているのだ。
「アルザス、あれってプレイヤーなんじゃ…」
「そうでげすね」
一瞬だが、そのプレイヤーと目が合った。
助けを求める目だった。
それに気づいてもなお助けようとしない他のプレイヤーに無性に腹が立つ。
「助けよう」
「はい、ってえぇ!?待ってくだせぇ!そんなことしたら捕まりやすよ?」
「大丈夫!翼があれば逃げ切れる!それに、この帝国では私は風の鎧一式で顔も包まれているから顔バレもしない。後で新しい防具も買う予定だし、バレないはず!」
「大会でさー風の鎧使ってたじゃんー?」
「…他にも着ている人居たし、大丈夫!あ、皆には迷惑かけないように、あの人を逃がして戻ってくるから」
「じゃあ、僕達がー残った奴隷を逃せばーいいんだねー?」
「えっ!!なんでそういうことになるんでげすか!?」
「ありがとう!じゃあ皆、仮面をあげるから上手く奴隷達を助けてあげてね!…無理はしないでよ?」
「わかってるよー」
アイテムボックスからいつぞやの屋台で買った仮面を取り出し、人数分渡す。一時の別れを告げた後、人混みを突っ切り、奴隷商人の元まで走る。それに気付いた人々が悲鳴をあげるが、それを気にせずに大太刀を振って奴隷達の鎖を斬り、プレイヤーを抱える。
「口は開けないでね?噛むから」
「へ?」
翼さんを出し、一気に飛び上がる。
魔道具が捕まえようと追いかけてくるが、翼さんを大きくはためかせ、空をかける。
長い鬼ごっこの始まりかと思われたが、魔道具は帝国の外へ出ると、追いかけてこなくなった。
ふぅ、これで一安心だ。けど、帝国の魔道具って地の果てまで追いかけてくるイメージがあるんだけど…。
もしかして、帝国内限定で動く魔道具なのかもしれない。
「あ、あの!助けて頂きありがとうございます!」
「ん?いいよ。好きでやったことだからね。君を助けれてよかったよ」
「俺、総司っていいます!あの、貴方は?助けてくれたお礼がしたいんです」
「別にいいよ。自害を選ばず生き残った自分自身を褒めればいい。私はるし。今から君を第一の街に連れていこうと思うんだけど、それでいいかな?」
「はい。ありがとうございます!」
その後、空中遊泳を楽しみながら何故総司君が奴隷になったのかという経緯を聞いた。
曰く、帝国の闇オークションに行った帰りに気さくな女に酒に誘われ、泥酔した所で奴隷商に売り渡されたらしい。
まぁ、泥酔して気絶した時に強制ログアウトが発生し、戻ってきた時には奴隷になっていたため、その女が総司君を売ったかは分からないのだが、恐らくそうなのだろうと彼は語っていた。
…女って怖いね。
改めてそう思いました。
帝国って、やっぱ危ないところだ。うん、ここは帝国に関する掲示板を見てもいいかもしれないね。
最速で飛んでいるため、総司君が少し震えだした。やはり布1枚だと寒いのだろう。
実際私も少し寒い。
「総司君、寒いでしょ?速度緩める?」
「い、いえ、大丈夫です!」
カチカチと歯を鳴らしながら言うのだから寒いのだろう。
アイテムボックスからいつも使っている布団の予備(スペア)を取り出す。これはギムレットお手製の【創造】で作ったものだ。
予備(スペア)は10枚あるので、1枚くらい彼にあげたっていいだろう。
寒さで凍死されても困るしね。
フカフカの布団で総司君を芋虫のように包み、また速度をあげる。
「大丈夫?あったかいかな?」
「はい!こんなことまでして頂いて、ありがとうございます!感謝してもしきれません」
うん、総司君はいい人だ。
私のいい人リストに加えておこう。
布団のお陰で寒さを凌げてきたのか、徐々に総司君の頬に赤みが差してきた。
「るしさんはソロプレイヤーなのですか?」
「基本的にはそうだね。でも、自分のテイムモンスターと一緒に冒険してるしソロと言えばソロになるし、ソロじゃないと言えばソロじゃないね」
そうですか、と言って布団に顔を埋める総司君。
眠くなったのかな?
ここは寝かせてあげたいところなんだけど、寒いところで眠くなるのはかなり危険なことだ。
起こしてあげないと。
「総司君、寝ちゃダメだよ。目を開けて」
「あ、大丈夫です!起きてますよ?」
あ、そうでしたか。てっきり眠たいのかと思ってました。
「あの、良ければ僕とパーティーを組んでいただけませんか?」
唐突にそんな質問が飛んでくるものだから一瞬だけ速度が落ちてしまう。彼は真剣な目をしてるし、どう答えれば良いのか。
→▲ごめん。私、ソロが好きなんだ。
▲時間があればね。
▲考えとくね。
▲ん?無理。
日本人特有の確実な答えがない。
第一の答えは私の本心から言わせていただくと、別にソロが好きって訳じゃない。逆にパーティーが好きって訳でもない。しかも、私は今アルザスとパーティーを組んでるから下手に答えられない。
第二の答えは、時間があればパーティーを組まなければいけなくなるということ。それはそれで嫌だ。基本的に空いた時間は家族と過ごしたい。
第三は、後で答えを迫られる事があるかもしれない。そうなったら面倒臭い。
第四は、総司君の心を傷つけそうだから控えた方がいいだろう。
くっ、ここは第一を選ぼう!
この四択の中で一番いい答えだと思う。
「ごめん、私、ソロが好きなんだ。と言っても今は他の人とパーティー組んでるんだけどね。…あ、君が嫌いって訳じゃないんだよ?ただ、パーティーを組む時間は出来るだけ減らしたいっていうかさ」
「そうでしたか。僕の方こそすみません。突然こんなことを言ってしまって」
布団の中で律儀にお辞儀をする総司君。
何か悪いことしたな。
お詫びとか出来ないだろうか。
うんうん唸っていると、総司君にまだ首輪が付いていることに気づいた。首輪に当たっている部分の皮膚は青アザが出来ている。
よし、お詫びに首輪や枷を外してあげよう。
「総司君。その首輪とかって取ったら呪い発動的なことはある?」
「…はい。僕の他に奴隷プレイヤーがいたんですけど、その人が首輪を外そうとしたら突然呻き出して泡を吐いて死んだんです。その時、奴隷商人がこの首輪には呪いが仕掛けてあるって言ってました」
呪い、ね。
それなら私の【神域拡張】のお陰でそろそろ浄化された頃ではないのだろうか。
「ゾンビ」共の体力を1秒で1割削れるほどの力だぞ?浄化が終わっているに違いない。
1度空中で止まり、総司君の首輪に手を伸ばす。
「な、何するんですか!!死んじゃう!」
「死なない死なない。…多分」
「多分て何ですか!!死んじゃう可能性もあるってことですよね!?」
「…」
「その沈黙が肯定です!」
「ふっ、君の身体は布団で縛られてるんだぜ?まぁ、泥船に乗ったつもりで肩の荷を下ろしたまえ」
「うわぁ、大船じゃなくて泥船…」
首輪を取る前に【鑑定】をしておく。もし浄化されていなかったら大惨事だからね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
種類 首輪
名前 ただの鉄の首輪
QUA D+
…なんの効力もない普通の首輪。☆1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おー。呪いの首輪がただの首輪の変わってるよ。
品質低っ。
これなら呪いもないし、品質も低いから簡単に取れそうだ。
膝の上に芋虫状態の総司君を落ちないようにバランスよく置き、首輪を取ろうとするが、鎧の腕が太くて上手く取れない。
ということで、篭手の部分をアイテムボックスの中に放り投げ、作業を開始する。
所々欠けている場所を短剣でコツコツとつつく。
この短剣はアルザスが無料(ただ)でくれたものだ。
早速役に立ってくれたよ。
ピシッ
カシャッ
首輪が外れると同時に手足の枷が外れた音が聞こえた。
「あ、取れた」
「ドヤッ!」
「…ありがとうございます。さっきはすみませんでした」
「ふっ。私はYDKだからね!」
「よく駄々をこねる子ですか」
「違うよ!よく出来る子だよ」
「…自分でそれ言いますか?ふふっ」
確かに。
自分で言うのは少しおかしな気がするね。
いや、元はと言えば総司君がよく駄々をこねる子とか言ったからついそんな言葉が出てしまったのだ。
…これは、誘導か。
くっ、総司君、お主やるな。
「あ、街の光が見えてきました!」
何日かぶりの第一の街が見えてきた。
懐かしいなぁ。帝国と違って少し田舎臭がするから安心するね。
徐々にスピードを落とし、門の前に着地する。
これでもう大丈夫だろう。ここに来れば帝国の手は届くこととないだろうしね。
「じゃあ行くね。総司君、変な女に捕まるなよ!」
「捕まりませんよ!あ、るしさん、この布団は…」
「ん?それあげるよ。資金の足しにしてもいいし、そのまま使ってもらっても構わないよ」
「…本当にありがとうございます」
布団を抱えた総司君は腰を90度に曲げて綺麗な礼の形をとった。
別れるのは名残惜しいけど、このちょっとの旅は楽しかったなぁ。
「また会うことがあればいずれ」
「はい!本当に本当にありがとうございました!!」
総司君と別れを告げ、飛ぼうと空を見上げた時、もう今は夜だということに気付いた。
まあ、帝国からここまで飛べばそれだけ時間はかかるだろう。…明日は○黒龍の軍服一式を装備して飛ぼう。その方がもっと早く飛べるしね。その代わり、顔は寒さと早さによってぐちゃぐちゃになるだろう。
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