116 / 127
勇者一行
しおりを挟むメニューを開き、世界ガチャをタップすると、目の前に土管が現れた。
虹色に輝いているってことは、確定演出…?それとも、そういう仕様なのかな。
土管は風船のように膨らんでいき、ポンポンと子気味いい音で勢いよく黒い玉を排出した。
次々と1番台の画面が切り替わっていく。
『おー。意外と当たる人が多かったみたいですね。…もう少し倍率を下げてみてもよかったかも知れません』
『だな。正直これだけ当たるなんて思ってなかったぞ』
トントン拍子で変わっていく画面が、ある名前を移した瞬間、1番台の切り替わりが終わった。2番台以降はなおも切り替わっていくが、1番台は微動だにしない。
『お。運のイイヤツが1番台をかっさらったみたいだな。名前は…と。ん?るしって、あの1位の奴?』
『いや~、他にもるしって名前のプレイヤーがいるかと……え!?』
『は?おいおい、俺の目がおかしくなったのか?1番台の当てた武具がバグってるんだが』
ゴシゴシと目を擦る楠木と田中。長谷川は、魂が抜けたのか、白くなっている。運営の声に、1番台を見た人は固まった。
「チートだろ!?何だよアレ!!バグ?」
そうだそうだと声が上がる中、運営も有り得ないとわなわな震える。偽造は出来ないし、勿論、この世界のバグはない。ということは、正真正銘の運の力。
『待って…ウソ…』
『と、取り敢えず、今のところ5番内に入っている人で、人前に出てもいいぞという方、出てきて下さい』
人混みをかき分け、4人のプレイヤーが舞台に上がった。私はフードを被って上がったため、実質5人である。
『確認しましたが、やはりるしさんはいませんでしたね』
『だな。もしかすると、1位のるしだったかもしれなかったんだがな。俺は生で会ったことないから、会ってみたかった』
『お前、会った事ねぇの?ププー』
『あ?田中。運営室戻ったら覚悟しとけよ』
どうやら運営さん達も私の姿が見えなくなっているようだ。ということは、運営さんにもスキルが有効だということか。PK対策はしてあると思うけど、警備が緩すぎる気がする。
私と会いたかったと言ってくれた楠木さんには申し訳ないが、こんなに大勢の人がいる前で喋ったりでもしたら、絶対に噛む。場に慣れればどうってことないのだろうが、慣れるまでがキツイ。質問されても上手く返せないと思うし、下手に答えてしまうと、次のアップデートで色々と修正されそうだ。うん、逃げようか。
バサッと翼を広げ、飛ぼうとした時、楠木さんの凄く残念だという顔が目に入った。姿を現すことはしないが、【神域拡張】の色を白に変える。
『…っと、これは神域拡張?やっぱり、1番台のるしはあの世界ランキング1位のるしだったんだな。良かったな、楠木。この会場の何処かにいるるしがお前の叫びに答えて仕方なしに白くしてくれたようだ』
『るしー!!ありがとう!!』
私のいる場所と正反対に向かって楠木は叫んだ。
ホント、運営さんは面白い人でいっぱいだ。
Live広場から出て、噴水広場の方に移動する。
透明人間状態の私は、先程のガチャの結果を受けて上機嫌になり、柄にもなくスキップしながら噴水の方へと向かった。
噴水を型どる大理石の上にチョコンと座り、アイテムボックスから焼きとりを取り出す。
フードにタレがつくと嫌なので、フードを外し、かぶりつく。
塩コショウと未知のタレが絡み合って美味しい。
パクパクと無言で3本胃に収めた。
噴水の近くは涼しく、ブラック帝国にいるということをつい忘れてしまう程に和む。
なんとなくその場から離れると、ちょうど私が居た場所に人が飛ばされてきた。そしてそのまま噴水にバシャンと落ちた。
「だ、大丈夫?」
「……」
無言で一瞥され、手を貸すまもなく噴水から立ち上がる男。長い黒髪に白いメッシュが1本入っている。水が滴り落ち、髪の間から見える空色の目は温度の下がった空のように冷えきっていた。
どこかで会ったことがある、と私の記憶は囁く。
「あの、どこかでお会いしたことありませんか?」
初めて男と目が合った。一瞬形のいい眉が動いたが、反応はそれだけである。
ザワザワと人が揺れ、男が飛ばされてきた方向から4人組がやって来た。
「アハハハっ。アイツ、ずぶ濡れでやんの」
「ちょっ!!マサキ、笑い過ぎ」
黒髪黒目の少女が同じく黒髪黒目の少年、マサキを窘める。
「だってよ、茜、アイツがさ。くくっ…」
「マサキ、笑うのはダメにゃ」
「そうですよ、クーフーリンさんに謝ってください」
半笑いを浮かべる、獣人。茶髪に、猫耳が付いており、腰からは細い尻尾が生えている。
苦笑いを浮かべるエルフは銀髪で、エルフ特有の長い耳を触りながらマサキと呼ばれた少年を見た。
…ハーレムかよ、ぺっぺっ。
クーフーリンと呼ばれた男は、4人組の方を見ずに髪の毛を絞り、水を締め出している。
「無視すんなよ、クーフーリン」
マサキがクーフーリンの肩を掴もうと手を伸ばす。だが、その手はクーフーリンに届く事は無かった。何故なら、私がその手を掴んでいたから。
いやぁ、だってさ、イジメっぽかったし、この世界なら止められる気がしたし。
「お前、何すんだよ」
「えっと、困ってる人を助けた、かな」
私の答えにマサキはプッと笑った。
「何だよお前、正義の味方でも気取ってんのかよ。まじ笑えるわ。あ~アニメでこういう奴いたわ。あのさ、コイツは俺のパーティーメンバーなわけ。だから部外者は引っ込んでおいてほしいんだけど。てか、お前誰?」
「ん?人の名を聞く前に自分の名を名乗ったらどうだ?」
途端に、獣人とエルフから殺気が溢れ出した。
なに、女の嫉妬的な?おお、恐ろしい。
「さっきから聞いてれば、お前、その口の聞き方は何にゃ?」
「いや、君の喋り方の方が気になるよ。てか、さっきからって、私と君たちと会ったのって今だよね?…人の名を聞く前に自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないの?」
「あなた、まさかとは言わないけど、マサキの事を知らないの?」
「知らん」
顔を真っ赤にするエルフ君。だって、知らんもんは知らないんだもん。
マサキ…?
初耳ですが、誰でしょう。こんな嫌な奴、一度見たら忘れないっつの。
チラリとマサキを見、続けてエルフ、獣人、茜と呼ばれた少女を見る。
…ハーレムだよな。
ここで出たキーワードは、マサキ、ハーレム、NPC、大きな態度だ。
この時、天才の私の頭に一つの解が浮かんだ。
「まさかの勇者的な?」
「的な感じだ。俺が勇者マサキだ。で、俺と同じ黒髪のこいつが茜。猫耳の獣人がミーシャで、その横のエルフが、リサーナだ。こっちは名乗ったぞ?お前は?」
「私はるし」
クワッと目を見開き、私の顔を穴が開くほど見つめるクーフーリン。
私の顔に何かついているのかな。
「るし、ね。じゃあ、るし。君の後ろにいるクーフーリンを返してくれないかな?あれでも一応俺らの仲間なんだ」
「うん、答えはノーだね。勇者なら、イジメはダメに決まってるだろ?」
「イジメ…?」
「にゃ!?お前、マサキをバカにするにゃ!!」
ミーシャが懐に閉まってあった短剣を取り出し、飛びかかろうとするのをマサキが止める。
「何するにゃ!?マサキ!!」
「ちょっと待て」
マサキは、じいっと私を見て、少し驚いたように目を見開いた。
「お前、堕天使なのか?名前以外全部バグってるんだけど。やばくね?茜」
「そうだね。貴方は何者?」
【鑑定】したのか。でも、【基本(ステータス)偽造】により名前以外は全部変わっているはずだ。種族は人間(ヒューマン)だし、体力もそれに沿うように変えてある。外見は青髪青眼にしてあり、これはバレていないようだ。
だけど、種族はマサキに見破られてしまった。解せぬが、流石は勇者なだけはある。
【基本偽造】と、【幻想】をoffにする。
後でバレると面倒だし、最初のうちにバラしといた方が、牽制攻撃にも繋がる。
「私は、ただの通りすがりの正義の味方ですが、何か?」
マサキ達の目は私の頭部に生える角と、右目にある聖眼に集まっていた。
一番最初に我に戻ったのはマサキ。
「あ、あの、俺達とパーティーを組まないか?この帝国にいる間だけでいい。勇者パーティーにお前も加えてやるのはこの期間限定だ。どうだ?いい話じゃないか?」
何を言い出すんだコイツ、と思ったその時、アナウンスが鳴った。
『ストーリークエスト「勇者の従者」を受けますか?Yes/NO.』
まじか。これがストーリークエストに繋がるの?
クーフーリンの事も気になるし、一応受けておこう。Yesをおそうとすると、注意が出てきた。曰く、このストーリークエストは、1人でしか受けられない。
つまり、テイムモンスター参戦不可という事だ。
何日で終わるかは分からないが、ジン達はギルドランク上げに勤しんでいるようだし、まぁ、大丈夫でしょ。
今度こそYesを押す。
「私が君の仲間に加わるのは、勇者一行に入りたいからじゃない。ここにいる間、クーフーリンを守るためだ」
「オーケイオーケイ。じゃ、宜しくな、るし」
「君とはあんまり宜しくしたくはないな。だって、いじめっ子だし」
「いじめっ子て。まぁ、ちょっとやりすぎた感はあるけどさ」
「…いじめっ子」
茜がこの時私を不審に思っていたのは、言うまでもない。
こうして、私の第2のストーリークエストが幕を開けた。
1
あなたにおすすめの小説
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。
遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。
作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓――
今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!?
ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。
癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる